メールマガジン第56号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(38)

 「公共建築物木材利用促進法の県別実施状況」

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 私はこのメルマガシリーズで「公共建築物木材利用促進法」について度々書いているが、全国的情報やデータだけでは「木造化率の向上への具体的対策」が見え難いので、今回は「地域別や県別の木造化実施状況」を点検してみたい。(今回は「内外装だけの木質化施工」については除く。)

 改めて促進法の要点を纏めると、政府は「国産材振興日本の伝統文化を護るため、木造建築物の再評価と普及」を目指し、平成22年に「公共建築物木材利用促進法」を制定した。目的は「国が整備する公共建築物のうち、低層の建築物は原則として全て木造化を図る」として法制化した。

 そして法律を具体的に推進するために、「農林水産省と国交省目標達成に向けた基本方針」を決め、その実施状況を毎年公表するとしている。

 

 まず「低層の建築物とは!」については、従来は「2階建」までと考えられていたが、此の数十年で超高層建築物が普通に建築される時代となり、一昨年には「学校建築物も木造三階建校舎の建築」も認可されている。国の基準を確かめると「低層公共建築物は3階建以下」となっている。

 しかし今では大都市部の防火規制地区でも「内外装材料等の条件付だが、木造4階建が可能」となっている。1~2階がRC造なら、その「上階部分の4階建部分は木造化」できるから、「一部木造化した5階建や6階建の木造化建築物」が建てられる事となる。(2時間耐火の木材使用なら、木造14階建も可能である。)

 また「公共建築物とは何か」の問には、「国及び地方公共団体が建築する全ての建築物、並びに民間事業者が建築する教育施設、医療・福祉施設等の建築物」と規定されている。念のために付記すると「木造とは、主要構造部(壁・柱・床・梁・屋根又は階段)を木材利用した建築物」である。

 

 法律文面では「原則として全て木造化を図る」と書かれているので、法律関係者に「原則として全てとは何割と想定出来るか?」と私が問いかけた所、「文面解釈から言えば、全てとは8割程度以上だろう」と答える人が多い。法制定されて既に8年を経過しているし、文面から考えれば「4階建までの公共建築物の、8割以上は木造化されても良い」事になると私は考える。

 所で「法文通りに、木造の公共建築物は増えている」だろうか? 私には「とてもそうは見えない」のに、国会でも報道関係も「木造化促進法の未達成実態について、真剣に議論されている」とは、とても見えないのは残念な事だ。

 

 国交省発表の「平成28年度分の報告書」を見ると、「低層(3階建以下)で、建築基準法で耐火建築物をと定められている建物を除いた木造化率は、27年度の32%から28年度は54%となり、初めて50%を超えたと報告されているが、その表現が大いに問題だと思う。内訳を見ると建築面積比では無く物件数比であって、その建物用途を調べると「自転車置き場、犬舎兼倉庫、園内トイレ、車庫、公園施設」等である。私も木造化への努力を否定はしないが、前記建物群の件数比で「50%越え」では、「行政は木造化のため努力している」とは言い難いのではと思う。

 一方、林野庁発表の「床ベースの低層公共建築物の木造化率」は、平成27年度26.0%で、平成28年度26.4%へと微増している。全公共建築物比では11.7%との事だから「全建築への低層割合は45%」になる。

 

 平成27年度発表の「県別の公共建築物木造化率」(低層だけの集計は未発表)の県別順序では、1位秋田県38.6%、2位岩手県30.8%、3位宮崎県29.7%、4位山梨県27.9%、5位山形県27.6%、6位栃木県23.2%と、宮崎県以外は東北地方が占めている現実へ注目する必要である。因みに鹿児島県は21.0%だ。

 

⦿ 1位秋田県と3位宮崎県と8位鹿児島県の「市町村と民間分の木造化率データ」を掲載する

県名 国・県・市町村の総計 市町村分 民間事業者分
  木造床千㎡ 木造率% 木造床千㎡ 木造率% 木造床千㎡ 木造率%
秋田 45.1 38.6 7.1 25.7 29.1 78.3
宮崎 42.4 29.7 4.7 33.1 26.2 52.0
鹿児島 48.6 21.0 5.4 19.9 24.9 44.2
 全国 1846.0 11.7 334.2 19.8 1129.2  30.9

鹿児島県市町村公共建築物木造化率の低さが目に付く。全国のデータは東京や大都市を含むので数値が低くなる。建築面積を見れば「民間事業者の割合が高く、行政関係の積極的な取組を期待する。」更に鹿児島県は宮崎県の人口比1.5倍を考えると、割合だけでなく実数も追い掛けて欲しいと思う。

 

 「公共建築物木造化促進法」には、「第3条に、国の公共建築物の役目」が規定されていて、「第4条には、地方公共団体は、その地域の経済的社会的諸条件に応じ、国の政策に準じ木材の利用促進に関する政策を策定し、実施する様に務め公共建築物の木材利用に努めなければならない」と木造化の促進を強く求めている。

 「第8条には、都道府県知事は、区域内の木材利用促進の都道府県方針を定める事が出来る」とあり、

第9条には、市町村長は、区域内の木材利用促進の市町村方針を定める事が出来る」と規定がある。

基本方針は平成24年に全都道府県で、そして大都市以外の1534市町村ほぼ全てで方針が策定されている。

 国だけでなく各県や市町村でも、日本全国で「公共建築物の大半は木造化を」の基本方針が明確に示されているが、木造化事例は一部では目につくも、一般市民にボリュームとしては見えないのが問題である。

 政府の政策へ何かと批判的で国会では審議拒否も度々繰り広げる野党には、書類改ざん問題等の議論の重要性は否定しないが「公共建築物木造化促進法の未達成状況の対策議論も、地方振興策として積極的に取組んで欲しい」と注文を付けたい。(大都市議員は無関心派が多いから、地方選出の議員には発破を掛けたいものだ。)

 

 全国的に見比べると、各県や市町村の公共建築物木造化の取り組み状態の格差は大きい。特に市町村関係の公共建築物の施工面積は、国や県よりもはるかに大きいだけに「地材地消の考え」で取り組んで欲しい。

 これまで私は「全国の木造消防署の建設事例」を訪ね話題を提供しているが、年々事例も増えて全国では「7件の既築情報」を入手している。建設や行政担当には是非とも、従来の「木造消防署建設は難しいだろう」との勘違いを早く解消し、各県1ヶ所以上の木造消防署の実現を望むものである。

 木造消防署の建設は「市町村長が其の気になれば難しくない」事は、各地の着工理由を確認して貰えば判って貰えるし、全国の木材関係者が「地元市町村長へ陳情」を丁寧に続ければ可能と申し上げたい。(現在の日本の政治行政体制では「期待だけでは新しい事業は生れない。」繰り返し要請する事で初めて新しい事業は取り組まれるものである。)

 

 所で「地方公共団体の公共建築物木造化例の優良施設コンクール授賞施設」は立派な木造建築物なので列記してみる。

 平成28年度では農水大臣賞が岡山県真庭市落合総合センターで、他に福島県国見町役場、北海道南幌町民プール、石川県七尾市中心市街地観光交流センター、徳島県美波町木岐聖ヶ丘農林漁業体験施設。

 民間事業では、山梨県都留市健康科学大学看護学部、浜松信用金庫於呂支店、大阪府守口市路交館桜の園、宮崎県日南市あがた幼稚園が受賞している。 

■平成28年度  優良施設コンクールの授賞施設の概要

http://www.jcatu.jp/commendation/files/8_file.pdf

 

 平成29年度では農水大臣賞が京都木材会館で、他に北海道訓子府町幼保育園認定こども園「わくわく園」、山形県羽黒高校、池上線戸越銀座駅、岩手県特養老人ホームすみた荘、長野県ねばねの里「なごみ」、五條市上野公園総合体育館「シダーアリーナ」、福岡女子大学図書館が受賞している。

■平成29年度  優良施設コンクールの授賞施設の概要

http://www.jcatu.jp/commendation/files/9_file.pdf

 

 また「公共建築協会の平成28年度の授賞施設」では、京都市龍谷大学龍谷ミュージアム、三重県亀山市立関中学校、愛媛県八幡浜市日土小、仙台市東北大学青葉山キャンパスセンター、茨城県桜川市真壁伝承館、松江市歴史館、愛媛県西予市庁舎、熊本県芦北町地域資源活用交流施設等で、デザインンも施工状況も素晴らしいので参考にして貰いたいものだ。

■平成28年度  第15回公共建築賞の受賞施設の概要

https://www.pbaweb.jp/pb_date/award/mokuzai/mokuzai_15/

 

熊本県芦北町地域資源活用交流施設は当社で施工させていただきました
熊本県芦北町地域資源活用交流施設は当社で施工させていただきました
集成材による篭のような天井が特徴的な建物です(写真は建て方現場の様子)
集成材による篭のような天井が特徴的な建物です(写真は建て方現場の様子)

 

 鹿児島県発行の「平成26年度までの木材公共施設一覧」には79施設が紹介されている。しかし73例までが民間事業体の保育園等の児童施設、医療施設、老人福祉施設、障碍者福祉施設等で、県や市町村直接施工建築は5例だけである。(小中学校校舎の木造建築例の増加は認めるが、今後の更なる拡大を期待したいものだ。)

 私が思うに、市民からの「市町村長や行政トップへの木造化実現の改善要望」が弱い事が、植林事業等へは熱心だが「根本的な木材活用対策である木造建築物への取組みが後回し」となり、折角の木造化促進法が活かされていないと思えてならない。

 

■鹿児島県HPより

「かごしま木造公共施設事例集(平成28年3月作成)」

http://www.pref.kagoshima.jp/ad10/sangyo-rodo/rinsui/ringyo/mokuzai/mokuzaishiyoujirei/kagshima-mokuzoukoukyoushisetu-jireisyu.html

鹿児島県立楠隼中高一貫教育校の食堂棟、寄宿舎棟は当社で施工させていただきました(写真は食堂棟)
鹿児島県立楠隼中高一貫教育校の食堂棟、寄宿舎棟は当社で施工させていただきました(写真は食堂棟)
食堂棟は湾曲集成材が特徴的な建物です(写真は集成材出荷の様子)
食堂棟は湾曲集成材が特徴的な建物です(写真は集成材出荷の様子)

 

 日本政策投資銀行東北支店がまとめた「公共建築物木造化に関する報告書」(2017年2月発表)は参考になると思うので、私が気付いた点を拾いだしてみた。

■日本政策投資銀行HPより

「新たな木材市場の創出を見据えた木造化・木質化の現況と課題

 ~東北の森林資源を活かした地域創生の実現~」

http://www.dbj.jp/investigate/area/tohoku/ 

ダウンロード
レポート〔本編〕
tohoku1702_01.pdf
PDFファイル 3.3 MB
ダウンロード
レポート〔データ編〕
tohoku1702_02.pdf
PDFファイル 3.1 MB

 

 

 公共建築物木造化促進法による施行では、➀「木造化」は東北地区が全国を牽引し、「木質化」は九州の建設事例が多い。②「木造化」した公共建築物は公営住宅が多く、「木質化」は幼稚園や学校が圧倒的に多い等と纏められ、「非住宅分野での木造化推進」が期待されたが、浸透状況は低レベルにある現状への警鐘が述べられている。

 報告書の「公共建築物を木造化した理由」では、➀「木材利用促進方針に基づくため」が47%。②「コストやスケジュールが優位だったため」が19%。③「首長の意向」と、④「地域住民や議会からの要望」が各8%、⑤「設計事務所からの提案が有ったため」と、⑥「地域における産業振興のため」が各4%である。

 「建築工事費が割高でも木造化した理由」では、「健康面や教育面などの木の良さ。地域における産業振興。地域産材のPR」等が多い点は他地区での追随が期待される。

 

 逆に「木造化推進への問題点」も指摘されている。問題点への対策と実行が木材の需要拡大に直結する訳だ。

➀企画立案段階:自治体側に企画・立案に必要な知識や経験参考情報事例が不足しており、施設設備に係るコストやスケジュールが立てづらい。

②設計段階:自治体側に木造設計等の技術や経験を有している職員が少なく、設計者側に木材情報や調達環境を踏まえた木造設計ができるかの不安が有る。

③工事発注段階:地域産材等の木材調達で必要な品質・数量・納期を確保できるか不安が有る。材工分離発注方式に関して実績が無い。(行政と業界が協力すれば、実績造りは難しくないはずだが。)

④施工段階:木材の産地や流通経路を把握・確認する事が難しく、また木材の検収作業にあたる検査職員の知識・技能が不足している。

⑤維持管理:木材の現し部分について、経年劣化や乾燥によるひび割れ等の対応に手間が掛かり、また改修や更新のタイミングが判らない、また判断が難しい。(業界の情報提供や協力不足への指摘と言える。)

 

 そして「公共建築物の木造化への取り組みを地域創生に活かすための提案」が、次の通り纏められている。

 「法律の施行や関連法規の整備、自治体による方針の策定、交付金や補助事業等による木材利用促進が言われているのに、公共建築物の木造化の進捗に目覚ましい進展が見られていない要因」としては、木造化の設計施工の各段階での、知識・技術・経験・参考事例情報等の不足が指摘されているのに、関係する市場の開拓未成熟であるから、課題解決には「木材関係の市場の成熟化及び拡大化」が不可欠である。森林蓄積が豊富で製材工場の整備が進んでいる地域は、他地域に比べ「木造化」が進んでいると具体的な提案が述べられている。

 

➀「木による経済効果の明確化」:木材採用で得られる効果を定量的に測定・提示できれば、木造化に取り組む意識を明確化できる。木材を利用し費用高が生じても、採用される可能性が高まる事を促進される。(コンクリート硬化の待機時間や、型枠等の組立・解体時間が不要と判れば、工期短縮効果を数値化できる。型枠等が不要となれば、材料削減や工期短縮による人件費削減効果を算出できる。竣工後の「木の調湿・調温硬化等による光熱費削減効果を測定し数値化」出来れば、公共建築物は地域関連業者への地域経済活性化や、供用後の観光消費額への波及効果の試算も可能となる。)

 

②「木を活かす新市場の創出と拡大」:木材利用の経済効果を明確化出来れば、木材需要を拡大し新市場を創出する追い風となる。新しい機能や品質が要求されると木材関連技術の開発が促進され、新市場を創出し木造化を牽引する企業の出現が期待出来る。木質耐火部材や工法の開発により中高層木造耐火建築物を実現し、RC造やS造から木造への再転換を狙う。輸入材に対し国産材使用分野を拡大し、新市場拡大に向けての新技術の普及・啓蒙のための施工費削減の技術開発を目指せる。企業間連携による新しい効果が期待出来る。

 

③「木を活かすためのタテ・ヨコの連携」:地域産材の安定供給や木材利用での信頼性の向上、技術開発による新市場開発、輸入材から国産材への転換による地域材活用のため、生産者から消費者へのタテ連携と木材業者の加工や情報共有等のヨコ連携を組合せによるタテ・ヨコ連携で、「木を活かす産業の活性化と地域創生の実現」が期待できる。(地域産材への信頼性向上トレーサビリティの実現と国際認証の取得を。技術普及や情報共有を効果的・効率的に行うため、企業や団体間の連携の実現を目指す。)

 そのためには、➀林業経営の集団化や規模拡大によりコスト低減を。②林内路網整備で森林施業の環境整備を図る。③輸入材割合を減らし国産材のシェアを拡大する。④加工生産の規模更新と拡大で、木製品の生産コストの低減化を図る等が目標となる。

 

 平成27年度の「公共建築物の工法別施工割合」は、木造11.7%、SRC造7.0%、RC造36.6%、S造43.6%で、鹿児島県の割合は、木造18.8%、SRC造10.8%、RC造26.9%、S造41.8%である。(ボリュームの大きいS造対策が特に重要である。)

 また木造化建築物の用途別施工割合(420件)は、幼稚園・学校8%、老人福祉施設3%、児童福祉施設13%、病院・診療所2%、運動施設3%、図書館・公民館11%、公営住宅28%、庁舎・公務員宿舎5%で、3階建は関西地区のみに記載例がある。他地区での事例作りが急務と言える。

 

 「木造化の設計段階の課題」としては、「自治体側に木造設計等の技術や経験者が少ない」43%、「設計者側に木材情報や調達環境を考えて木造設計できるか不安が有る」26%、「地域内に能力や実績の有る設計者が居ない」14%、「設計事務所をどの様に選定すれば良いか判らない」9%であった。(設計協力体制の整備には、木材業界からの働き掛けが重要である。)

 

 今後更に森林資源を積極的に活用するには、「タテ・ヨコ連携」が重要で、高機能構造用集成材や新規のCLT関係等の開発と接合金物の組合せにより、「耐火と耐震性能の技術及び設計技術」の開発による中高層建築物への新市場創出が期待される。「鉄・コンクリートから木材へ」対策を進め、「1時間耐火や2時間耐火の国交大臣認定取得の木製製品や設計及び施工能力を高める」事で、市場の奪還に努める。

 27年発表の資料調査時点での「CLTへの取組み」は、「公共建築物への活用や事業者を積極的に行う」の回答は2%で、「開発動向に関心は持っているが具体的検討はしていない」32%で、「検討していない」66%とのアンケート回答だった。しかしこの2年間で急速に関心も評価も高まりつつある状況を推進させなければならない。

 

 (西園)