メールマガジン第43号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(25)

  「木造橋をもっと増やせないものか!」

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 皆さんは「橋の構造」では、どんな型式が良いと思いますか。人への馴染み易さから考えれば、「石橋か木造橋」を思い浮かばれる事を期待しますが、如何でしょう。

 確かに「石橋」は耐久性も強度も優れているから、総合点では高く評価できます。しかし「木造橋」も地域や景観に馴染み、歴史を感じさせると言う特徴では一味有ります。例えば浮世絵の東海道二十三次の出発点である日本橋が純木造で復建出来たら、東京の景観の評価は一変するのは確実です。 

 

江戸時代の東京日本橋は木造

歌川広重「東海道五十三次」より「日本橋 朝の景」

 

 昔に比べて格段に交通量が増えた現在では、橋の機能面優先から通貨重量に耐え、幅が広く長大な橋が求められ、設計担当者は強度重視の考えから、構造計算がし易い鉄筋コンクリート造の橋梁を提案するのは止むを得ない事である。しかし小さな川や谷を越え、両岸の生活者の交流や利便性を確保すれば事足りる、さほど交通量は大きく無く、大きな強度までは求めない橋も沢山ある。特に地域の雰囲気や景観を大切にしたい場所での小規模な橋では、RC造より木造橋を架けた方が、日本らしくて景観的にも素晴らしいと考えませんか。

 

 鹿児島県内で最近、「霧島妙見温泉の木造人道橋」が解体されると報道されたので、先日現場を訪ねて見た。私の見た所では、管理面の不充分さが解体の原因だろうと思ったが、残念乍ら解体計画は進んでいる。一方、鹿児島市「加治屋町の南洲橋」では、地域の景観保持を優先して、従来の木造橋の傷んだ部材を交換補修し、再度木造で架け替えている事例が有る。「妙見での木橋解体の原因」と、再度新しい「木造橋へと改修した南洲橋の補修例」を比較分析する事は、今後の木材需要拡大と木造橋復活を考える上では重要と考えたので一筆書く事にする。

 

 霧島市の合併前の隼人町と牧園町の町境の川に架けられた、妙見温泉郷の「くすしき郷の虹の吊り橋」は、1998年6月完成の標識が残っている。

 使用されている樹種は「アフリカから輸入されたボンゴシ材」で、当時の我が国の都会では「屋外施設にも優しさを感じられる木材を、もっと活かせないか」との考えから、木造施設の提案が多くなった時期である。

 当時既に国産材では、屋外使用に耐えるだけの耐久性が高いと言われる「ヒノキケヤキクリ材」等の樹種は、量的にもコスト的にも確保が難しくなっていたので、確保がし易い輸入木材が採用される事例が増えていた。  

 都会での屋外木造施工事実積を参考にして、鹿児島でも採用例が生まれていた訳である。

 


霧島市妙見温泉郷にかかる木造橋は解体されることが決まった

 

 現場を見ると木部表面の割れやキノコの発生が著しく、昨年末に橋桁の一部が落下した事から、近辺住民から「安心して使える橋へ、早急に改善を」との要望が出され、現在架け替え検討会で協議中と聞いた。地域住民から「安心で長期使用が可能な橋を」と要望されると、行政は現在の木造橋以外の構造で検討するのは、止むを得ない事だ。

 ひなびた雰囲気を売りにする妙見温泉で建設された木造架橋は、当時大いに話題になったものだ。それが期待に反して、なぜ20年足らずで危険な状態になったのか。原因を徹底的に追及し対策案を提案しないと、今後は木造橋が建て難くなる環境が生まれてしまう。

 妙見の現木造橋を現場確認して私が感じた事は、温かい温泉水の配管を橋桁に抱かせて取り付けた事で、配管の継目からの漏水や結露水等が発生し、20年の間に木材に浸み込み腐朽したと推測する。又使用された木材は角材使用が多く、長年の厳しい使用環境の中で木材の表面割れが生じ表面の雨水の水切れが悪くなり、木材に浸み込んだ水分が材中で腐朽菌を繁殖させたと思う。更に温泉水が流れ込んでいる川からの暖かい温度の水蒸気が上の橋を包む状態が続き、木材腐朽菌をより進行させたのだろう。 

 


 

 木材を劣化させる主な原因は「腐朽菌とシロアリ被害」が大半である事は、木材を取り扱う業者や建築関係者なら誰でもが知っている話である。また腐朽菌やシロアリ害に弱い樹種と強い樹種が有る事や、木材の耐久性を維持する対策や方法も、その筋の専門家なら知っていて当然の話である。木材は「通風の良い室内に置き乾燥状態を保つなら、腐朽とは縁遠い」が、逆に屋外や水に濡れる湿潤な状態に置き、腐朽菌が発生する。

 だから木造橋等の木材の屋外利用では、

  1. 耐久性の強い樹種を選ぶ。 
  2. 雨に濡れても早く乾燥する工夫を、設計や施工段階で取り入れる。
  3. 屋外で使用すると表面割れが生じ易い。表面割れから雨水が浸み込むと乾燥し難く、内部に腐朽菌が生育し易くなる。
  4. 木口面は水分吸収力が大きいから、使用時には木口面の防水対策を考える。
  5. 腐朽菌とシロアリ害が進行し易い環境温度は15~40℃で、それに湿度が高い条件が揃うと、腐朽とシロアリ被害が同時進行するので被害は大きくなる。
  6. 土中に埋めて利用する時は、地際部分が特に腐朽し易いから、特別な保護対策が必要である。

等々は木材利用の常識のはずである。

 

 妙見の木橋現場を見ると、上記条件 1.の「耐久性の強い樹種」は選んだが、他の 2.~5.の条件は、腐朽菌とシロアリ害を受け易い環境に置かれていたから、今回の被害が発生したと言える。夏場に腐朽菌やシロアリ被害が進行しても、霧島は寒い土地だけに冬場の一般的使用条件なら腐朽菌は死滅するから被害は急速には進行しないはずだ。直射日光を受けると表面割れが発生し、そこに暖かい温泉水を含んだ川の水蒸気と、橋桁に抱かせた温泉水の配管が、木部を温めて腐朽菌を一年中繁殖させた事が主原因である。

 私の推定では、①表面割れが出にくい環境を作り、②雨水に濡れた木材表面が乾燥し易い断面形状に加工して使う。③木材に腐朽菌が生育し易い暖かさの原因となった温泉水配管等を橋桁に直に取付けない。更に ④油性木材保存剤で2~3年毎に塗布処理を施していたなら、橋桁の落下事故やキノコの大量発生は止められたと思った。

(愛媛県南宇和公園で利用された同じボンゴシ材の落下事件も、接合部の水分管理の不適が原因と診断されている。それほど木材使用では、水分の早期乾燥が重要なのである。)

 

 現場では温泉配管を抱かせての設計とメンテナンス不行き届きが目に付き、この様な状況では、どんな丈夫な樹種でも腐朽菌に負けるはずと思った。標柱に設計管理を行った技術コンサルタント社名が記銘されているが、木材利用の基本原則である「雨水の除去対策と早急な乾燥対策、更に定期的な手入れ等の木材使用での基礎知識が、失礼ながら不足していたと思う。現状は外からでも大きなキノコが見えて、相当早くから腐朽が進んでいた事は明らかだ。聞けば橋桁の落下事故後に、現場で「目視と打音検査」を行って、内部腐朽が相当に進んでいて危険だと診断されたそうだ。

 

 世界では環境問題二酸化炭素削減対策から、森林資源の活用や木造建築物の拡大対策が推進されている。その一環として我が国でも、平成22年に公共建築物木造建築物推進法が制定され、木材需要拡大に取組み始めている。その国の方針へ反するかの様な、「今回の木橋の橋桁落下事例」と架け替えの提案と、木造を敬遠し他の工法が検討されている問題を、木材関係者は見過ごしてはならないと思う。

 

 幕末の薩摩藩時代に、調所笑左衛門が厳しい財政改革の中から、地域基盤整備の一環として建設資金を捻出し、肥後の名工岩永三五郎に架けさせた「甲突川・五大石橋」の、新上橋と武之橋が1993年(平成5年)の「86大水害」で流失した。世論を巻き込んでの激しい「歴史的建造物の保存移転論争」の中で、西田橋・高麗橋・玉江橋の三橋は、祇園洲の石橋公園へ移設され、代わりに市民に何ら愛着を感じさせない現在の新五橋が架橋された。(移築された西田橋と木造の番所御門は、当時の薩摩藩の石組みと木工事の技術力の高さを学べるから、トックリと見学される事を勧める)

 その時に甲突川を跨ぐ小さな人道橋も数多く架設され、その一つが「南洲橋」であり、1997年(平成9年)着工し1999年に完成している。他の同規模の橋はコスト優先から、デザイン的にも美しさとは程遠い、生活優先の鉄骨造の橋が架けられている。

 鹿児島を代表する加治屋町と言う歴史遺産の場所の、ふるさと維新館の前に位置し、西郷隆盛・大久保利通の生誕地に近い「南洲橋」は、構造の芯部分は鉄骨製だが外装と床板と欄干部の見えがかり部分は木造とされた。当時全国的に屋外の木造施設で採用されていた「ブラジル産のイペ材」を使用している。架橋から16年が経過し「国の橋梁長寿化事業」で点検したところ、木部の傷みや床板の摩耗も有った事等から、早目に補修交換する事になったそうだ。

 

鹿児島市加治屋町にかかる「南洲橋」

 

 将来に亘る長期的使用と構造強度を考慮して、今回は主構造部である鉄骨梁の防錆塗装をやり直している。又「国産材の使用をとの時代の要請に応え、鹿児島県産杉材を採用」し、耐久性能向上対策として「ACQ(マイトレックス)薬剤の加圧式防腐処理」を行っている。防腐防蟻10年保証付きの木材加工をした事で、「国産杉材」でも輸入木材のイペ材に比べて、強度面はともかく耐久性では劣らない性能を確保出来ると思う。今回は床板には45ミリ厚の杉材を使用しているが、南洲橋の通行人数から考えれば、長期的には摩耗への影響と対策を考えておく必要が有ると思う。柱頭部の飾り板部分に「巾広の杉板」を使用しているが、夏の日光等の影響を受けて表面割れや反りが生ずると、雨水が溜まり易い問題が生じるだろうから、内部腐朽の心配が残る。使用木材の撥水対策や雨水の早期流脱対策を考え、そして表面の割れ部分からの雨水浸透による内部腐朽の予防策として、今後は2~3年毎に油性木材保存剤による現場再処理等のメンテナンスを実施し、更なる長期間の保存維持対策に是非とも取組んで欲しいものだ。

 

 所で「鉄筋コンクリート造」では、強度補強材となる芯材の鉄鋼製品の防錆対策は大変重要である。表面割れから浸入する雨水に塩分が含まれると、中の鉄部分が錆びて膨張し、コンクリート割れを大きくし其の割れ部分から更なる浸み込みを繰り返す事で、コンクリートの強度を低下させる。セメント業界は割れ防止対策に、また鉄鋼関係者も防錆対策の技術向上に必死に取り組んでいる。木材の競合商品である建築資材類が、「弱点解消の技術開発と施工力の向上」に努力しているのだから、「木材の利用」でも、表面の割れ防止策を研究し、雨水の浸透で起きる内部の腐朽菌やシロアリ蟻害を発生させない取組みは重要である。(特に南九州地区は被害が出やすいので、気を付けるべきだ。)

 

木材の腐朽とシロアリ予防の基本対策を再度まとめると、

  1. 木材を乾燥させる。
  2. 雨水に濡れた時は早く乾燥させる。
  3. 木材は湿潤な環境に置かない。特に気温15~40度の環境で湿潤状態に置けば、腐朽菌が発生し進行も早まる。
  4. 木口面からの吸水率が高いから、木口面の防水対策に特に注力する。
  5. 腐朽菌の発生条件とシロアリ蟻害を受け易い環境はほぼ同条件である。特に日本の5~9月の高温多湿の気象環境は、人間には生活し辛いが、逆に腐朽菌とシロアリには最適環境なのである。
  6. 地中に埋めて使用する時は、特に地際部分は腐朽し易いから、必ず特別な対策を採用する。
  7. 上記の木材の特徴を指導管理するのが木材業界と設計者の役目と思う。

 更に、8.  築5年後から、腐朽菌やシロアリ蟻害対策を定期的に実施すれば、被害の早期予防と進行を最小限度に留められる。(屋外物件では2~3年毎に、建物の床下等では5年毎の再処理や手入れが理想的と考える。)

 

 所で「海外では屋外利用されている樹種でも、日本の夏の高温多湿の気象環境下でも本当に大丈夫なのか」について、慎重に屋外実験を実施してから採用する事を勧める。材料の特徴は使用環境が異なると、結果が違う事も有るからだ。

 木材の需要拡大に直結する木造施設を地域景観造りに活かすには、「木材の保存対策が重要であり、利用者が木材と長所と短所を考慮して使用する」事を期待する。

 北九州市小倉では都市再開発対策の一環として、中心部を流れる紫川に架かる「常盤橋」(長崎街道の起点だった)を、江戸時代の木造橋へ復建している。(メルマガで以前ご紹介

 そんな事例が増える事を期待してやまない。

 (西園)

北九州市小倉の紫川にかかる木造の橋「常磐橋」

山佐木材は補修工事を担当