論点(8)林業維新でふるさとを守ろう

「南日本新聞」平成16年(2004年)9月6日掲載


 「守ろうふるさと、変えようかごしま」---これは伊藤知事が立候補の際、表明された言葉の一つである。今、地方が抱える課題と処方を的確に言い表している。

 全国的に地方は衰退の一途をたどっている。町村合併で行政効率は上がるはずだが、それで衰退の流れが止まるわけではない。真の活性化のためには別に積極的な攻めの手段が必要である。

 これまでもそしてこれからも、地方の活性化は農林業に依ることが基本である。しかし現段階では農林業の将来に可能性を見いだせず、先行きを甚だ悲観的なものにしている。これからの町おこしは、いかに明るく力強い農林業の展望を拓くかにかかっており、そのためには「変える」が最強、最良のキーワードである。

 わが国では明治維新以来、国力を強化するための近代産業育成に政策の主眼が置かれた。経営資源の中央集中であり、地方からの人材流出をも意味した。まさに欧米列強の強圧に対抗するためのぎりぎりの選択であったろう。目的を達したならば、すぐにも修正されるべき政策でもあったが、いまだに後遺症として、地方から都市部への人の流れがやまない。

 地方の産業の中心は一般的に農業・林業・水産業であり、現に巨額の補助金が農山村に投入されている。しかしその投資効率は悪く生産額は極めて低い。

 近年、国も地方も財政状況が厳しく、やり方を根本的に「変える」ことでお金の効率性を高める必要性が出てきた。これまでよりも、はるかに大きな生産額を上げ、雇用を確保、経済に貢献するシステムを作らなければ、農林業も地方も生き残る道はない。

 何をどう変えれば、お荷物とさえ言われる林業が地域経済に貢献できるように変じるだろうか。

 森林はきちんと管理すれば様々な公益的な機能を果たすが、一方で地形が急峻な日本では害悪をなすこともある。そのようなことから森林については個人資産とは言っても、宅地や有価証券などどは異なる認識が必要だ。所有にかかわる税が軽減され、あるいは少額であろうとも直接支払いなどの補助があってしかるべきだろう。

 と同時に、森林所有者はその公益的機能がよりよく果たせるように、注意深い管理義務を負う。それを怠って災害を下流に及ぼしたときは補償義務を科せられるべきだ。このように森林については他の財産とは違うことを明確にし、優遇策と義務の両方をきちんと法制化すべきである。

 この前提の下に県は新しく県内全域の森林を有効に活用するシステムを構築しなければならない。衆知を集め、研究機関を督励して時代に適合した森林管理・林業経営のシステムを早急に確立する。市町村や森林組合の協力を得て、県内六十万ヘクタールの森林所有者の一人一人に、県を挙げて直々に真率にその実現を訴える。森林は急速に整備され風景は美しく変わっていくだろう。そして間伐材が大量に安定的に生産されるようになる。

 森林の生長量と現在の生産高から試算すると、本県の森林利用率は極めて低く、15%くらいであろうか。一方、林業の近代化・産業化に成功したヨーロッパでは森林利用率が極めて高く、80%に及ぶのではないか。ヨーロッパ木製品が持つ世界最強の競争力の源泉であり、地方が元気を保っている最大の要因の一つである。

 森林の作業対象面積が飛躍的に増えれば素材業者は安定した作業量が確保され、若手の雇用、作業方法の合理化さらに新規参入など競争原理も働いて、大幅なコスト削減が可能なことは間違いない。

 これまでの経緯を見てきて林業の近代化・産業化に、おそらく国の主導は期待できない。

 明治維新を主導した郷土の先輩方。彼らに備わった時代を見る目と奸智にも似た知恵と途方もない勇気。現代の私たちにその美質が一つも受け継がれていないとは思えない。伊藤県政の下、林業維新の断行を心から望んでいる。

 現在の丸太生産量は約四十万立方メートル。まずはその三倍、百二十万立方メートルの「かごしま材」の循環生産を目標にしたい。それによって林業が産業として、地方経済の中で「ふるさとを守る」に足る、確かな存在感を示せるだろう。

(代表取締役 佐々木幸久)