【新春対談】林経新聞 新年特別新聞

国産材時代における木材利用拡大への道(2)

「林経新聞」2020年(令和2年)1月2日(木)の記事を分割掲載しています。その(1)はこちら


無垢とコンクリートの間に集成材がある

佐々木 私は日集協理事長に就任して2期目ですが、就任時に「伝統建築物、神社仏閣の工事で無垢の木材が入手できないと、すぐコンクリートに向かう。その途中に集成材があるではないか」と話したのですが、大断面集成材は非常に資源保続型の材料で、市場で普通に入手できる材料を用いて300年生の木材を再現できます。技術開発により耐火性能も実現できます。首里城のような建築物は再建に当たって集成材を活用してほしいと個人的には思っています。

 

本郷 日本人の本物志向にかかわるのでしょうが、東大寺大仏殿の柱でも太い柱が入手できなかった代わりに何本も木材を束ねて修理してあります。いわゆる集成材のような使い方をしているわけです。一般論としてですが、伝統建築だからといって無垢でないとだめということは必ずしもないと思います。

 

佐々木 少し前に大阪で江戸時代の菱垣廻船を復元したことがありまして、造船所に建造の様子を見に行きました。1000石ですから現在の150トン規模ですね。同じころ、欧州で同規模のガレイ船の復元もやっていたので、スイスまで見学に行きました。比べると発想が全然違うのですね。日本では当時の資料に基づいて忠実に再現しようと木材を集めて建造したのですが、結果的に船舶としての運航許可が下りずタグボートで曳かないと移動できないということになりました。一方、ガレイ船は集成材や合成樹脂も使い、船舶として認可されるよう、帆だけでなくエンジン、スクリューもつけました。世界中から参加料をとって漕ぎ手を募集し、それで建造費を捻出し、その後は旅行会社が買い取ってクルージングに使われているそうです。

 菱垣廻船も忠実に本物を再現できなくても実際に子どもたちを乗せて昔の北前船行路を旅してもらえば、立派な伝統文化の再認識に貢献できたのではないかと思います。船を陸地に揚げて見学するだけではもったいないですね。

 

本郷 私は西洋の人の考え方がよく分かりませんが、絵画や彫刻などの美術工芸品に関しては当時と同じ材料や技法でないとだめということになっていると思います。ただ、そうでないものには、すごく柔軟な発想をするのでしょうか。

 日本人は本物でないとだめなのだという技術に対する信仰というか、過去のものを現代に再現する場合に「それはないだろう」というものまで忠実に再現しないといけないという風潮があるような気がします。

 

佐々木 法隆寺などの文化遺産を修復する際は忠実な再現が必要だと思いますが、焼失などでなくなった文化財を復元する場合は、時代や技術に対応した復元でもいいのではないでしょうか。

 地元の鹿児島県でも焼失した「鶴丸城御楼門」を再建しますが、無垢大径材はなかなかありません。私はこのようなケースこそ、集成材を利用すればいいと考えています。集成材メーカーである私が言うと、我田引水ととらえられるかもしれません。ただ、SDGsという観点からすれば、歴史的修復や宗教的分野などは別として並材でつくれる集成材やツキ板など優れた材料と、それに関連した加工、施工技術を応用した木材利用をすべきだと思います。

 

終戦で木の文化を捨て去ったのでは

本郷 日本は木材を適材適所で多用する木の文化の国だと言われていますが、現在は木を使うことに慣れていない人ばかりになっていますね。終戦により日本は木の文化を捨て去ったのではないかと私は思っています。当時は木材を資材として使おうとすること自体が欧米に比べて遅れている、あるいは劣っているという思いがあったのではないでしょうか。山に木がなくなったこととも重なったのでしょう。

 今、木材を利用していこうという時になって、昔と同じような木材の使い方でなければだめと考える人がいて、新しい使い方を「まがいもの」のように見る人がいますね。ただ考えてみれば文明開化のころに鉄やガラス、レンガ、コンクリートといった欧米からの材料を「ハイカラ」と言って日本の建築物に使ったのも日本人です。それと同じで今の木材も「ハイカラ」な材料であると思って使ってほしいのです。伝統の日本の木材の使い方だけでなく、新しい使い方をして「木材ってこんなにいいものなのだ」というように理解してもらえればと思います。

 最近の若い人には、そうした感覚で木材を理解している人がかなり多いようです。そこには世代の断絶、かい離があるのかもしれませんが、これまで木材のある生活を送ってこなかった人に木材を使ってもらうためには、「おしゃれだ」、「ハイカラだ」と思ってもらえるとよいのではないでしょうか。


株式会社 林経新聞社

代表取締役 橋爪 良和

〒460-0005 名古屋市中区大井町6番26号