メールマガジン第90号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第46話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

46.品質管理に関わること等

 コロナウィルス感染症の感染拡大の影響で、昨年は日本建築学会の全国大会は中止であったが、今年はオンラインでの大会開催となった。私は学会大会の実行委員を2回経験しているので特に感じるのだが、多分今年の準備は例年にも増して大変だったのではないかと思う。実行委員会の先生方の大会開催に向けての熱意には心より感謝申し上げたいと思う。

 この時期は、研究会、委員会、あるいは様々な学協会の成果の発表等が活発化する時期でもあって、例えば私の場合には、私が会長を務める「超高層ビルに木材を使用する研究会」の総会や、同じく私が理事長を務める「建築鉄骨構造技術支援協会(略称:SASST)」の「鉄骨技術フォーラム」の開催が予定されている。

 「鉄骨技術フォーラム」は、開催主旨に「角形鋼管柱を用いた中小規模鉄骨造建築物を主な対象として、鋼材、構造設計、鉄骨製作、現場施工等における会員各位の日頃から抱える疑問点に当協会の関係者が回答し、更にそれらについて意見交換を行う」と書かれている研究フォーラムである。これだけを読むと、小規模の組織に属する弱い立場の鉄骨関係者が、主として技術的内容を中心に専門家に質問をし、問題解決を求めるというような構図が見えるかもしれないが、事はそれほど単純ではない。今年も質問内容が集まっているが、中でも一つ典型的と思われる事例を挙げてみると以下のようなものである。

 

●質問

 設計事務所が書いた鉄骨標準図には改良型スカラップについての記載があり、ノンスカラップに関する記載はありませんでした。そこで、製作要領書に改良型スカラップを採用する旨を記述し、施工会社に提出、承認を頂き材料を発注しました。所がその後、施工会社の製作工場検査時に「弊社ではノンスカラップしか認めておりません」と言われ材料の追加変更発注を行うことになりました。この時の対応としてどのように協議をしたらよかったのでしょうか。

 

あるいは、以下のような質問がある。

  

●質問

 改修工事で、施工者から「耐震ケーブルブレース」から「アングルブレース」に変更するVE提案があり、採用されました。その際、アングルブレースに対するガセットプレートの厚みを決めることと、その根拠を求められ困っております。本来であれば、設計側が構造計算等で荷重等を考慮し板厚・ボルトサイズ・ボルト数が決めるのだと思いますが、VE提案で採用されたアングルブレースの鉄骨標準図には詳細に関する記載がありません。

 

 ここで問題なのは、質問者は技術的な問題の回答を求めているのではなく、言わば理不尽とも思える要求を元請けあるいは設計者から突き付けられた場合の対応の方法を聞いているのである。

 第1の質問の場合、工場検査とあるから、製作工場の作業は既に最終段階まで進んでおり、その段階での

ディテールの変更は相当に無理がある。本来、改良型スカラップとノンスカラップには大きな性能差はないのであるから、間違えて承認したのだとしても、製作要領書を変更する必要までは無いはずである。例えば施工会社の管理者が入社したてで、自分の求めている修正により鉄骨の製作工場にどのような損失をもたらすかについての理解が全く無いということであるとしても、それに対する上長の指導は無いのだろうか。

 第2の質問について言えば、VE(バリューエンジニアリング)と言えば格好は良いが、多分予算が合わないので施工会社が建築主に工事費の減額提案をしたということであろう。その際、提案した施工会社は設計の詳細までは詰めておらず、後は設計者に任せれば良いと思っており、一方設計者の方は施工者が提案をしたのだから自分には関係が無いとでも思っているのであろうか。

 これから建設する建物の品質に対する拘りや愛情などが感じられず、実に気分の悪い話である。

 

 さて、なぜこのような面白くも無い話を敢えて紹介したかと言うと、現在「鋼木混合構造建物」の建設が増えており、油断をしているとメルマガの読者である木材関係者も上記のようなトラブルに巻き込まれる恐れがあるのではないかと心配するからである。現状では、我が国の設計者も施工者も、木質工事に対する理解度は鉄骨工事に比べはるかに劣っていると見るべきであろう。「鋼木混合構造」は新しいタイプの建築の出現も予想される夢多き仕事ではあるが、同様につまらないトラブルの火種も合わせ持っているのかもしれない。どうすれば問題の解決が図れるのか、その回答は未だできていない。

(稲田 達夫)