メールマガジン第87号>会長連載

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★【会長連載】 Woodistのつぶやき(44)

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 昨秋より半年以上本欄を休止していた。昨年九月号メルマガで、曽於地区森林組合堂園組合長と、上野物産上野社長のご逝去を悼む記事を書いた。実は半年前に村田木材の村田隆一さんが肺炎で急逝された。私より4歳年下である。一年のうちに親しい三人を失う。年を取るとはそういうことだろう。私が先でも一つもおかしくない、そういう年齢になっているのだ。いまだに心の空白を埋めがたい。

 気を取り直して久しぶりに本欄を再開しようと思う。ある本メルマガ愛読者から、私の書いているものに「最近再掲が多いようだ、かなり省力作文ではないか」とのご指摘があった。今回もそう、まさに省力作文、丸々の再掲をお許し願うとしよう。

 

 鹿児島建設新聞という鹿児島県内の建設関連の人たちが良く読む、結構内容豊富な業界紙がある。取材を受けた折、原稿依頼を受けた。仕事に関係のないこと、二週間空けて二編書くと言うのが条件である。三月十日と二十四日に掲載された。本メルマガの読者と同紙の読者は余り重複しないと思われる。そこで同紙の了解を得て、本欄に再掲する。

 


(鹿児島建設新聞 令和3年3月10日(水)掲載 「木蔭」より再掲)  

 

山荘で過ごす

 3年ほど前に知人から紹介されて、肝付町内之浦の海沿いの広葉樹林13町歩を個人で購入した。勾配のきつい崖で使い道も考えにくく、結局山小屋を作ることにした。平成の御代最後の日、32年間勤めた社長を退任、さあ長い一日をこれからどう過ごすかと言う事情もあった。

 伐採、造成を肝付町の上野物産さんに、建物の設計・管理を鹿屋市の設計事務所碩の匠の下野巧さんに依頼する。幸い電気も水道も近くを通っているので最低限の文明生活は送れそうだ。工事は令和2年2月に概ね終了。その概要は、躯体はCLT、給湯は薪ボイラー、トイレはバイオトイレ、調理は木炭コンロの七輪。どこまで我慢できるかわからないが、当面エアコンとテレビは付けない。

 3月からしばしば泊まるようになったが、作ったばかりの家での生活は驚くほど不便だ。玉杓子、フライパンなどを掛ける釘を打つ。会社の木工職人本村君に、台所とトイレに棚を作って貰う。これだけでも驚くほど便利になる。その後本村君にはテーブル、食器棚、食品棚、本棚などを作って貰った。材料は造成時に出た広葉樹を製材したものと、会社に転がっている集成材やCLTの端材だ。広葉樹は主に樫(かし)で、樫の特徴である虎斑(とらふ)がテーブル表面にきれいに出ている。

 ウィルス禍で想定より少ないものの、時に宿泊客がある。内之浦港にあがる新鮮な魚介と、広く取ったベランダでの七輪バーベキューが好評である。夜が早い分朝は4時か5時には、お茶を飲みながら会社で出しているメルマガの原稿を書く。本欄のように外部からの原稿依頼も時にある。後は調べ物の読書。午後は楽しみの読書と庭仕事。明るいうちに入浴、晩酌、夕食。3、4日山荘で過ごして家に帰る。三十年間住み馴らし、一家の主婦が心を尽くして維持管理している居宅の生活は、久しぶりの対面とあわせて快適で楽しい。

 


 (鹿児島建設新聞 令和3年3月24日(水)掲載 「木蔭」より再掲)

 

本は人生の友 

 子供の頃から本はよく読んでいた。現役を退いて時間には恵まれている。本は高いように見えても、趣味としては安く付く方の部類だろう。一冊数百円から3,000円くらい、平均して1,500円か。月に十数冊から20冊というところだろう。それと定期購読している週刊、月刊の雑誌が6誌。一時期は経済誌など含めて10誌に上ったこともある。この間愛読の定期購読誌が二つも休刊(廃刊)の憂き目に会った。文藝春秋社の「諸君」と、新潮社の「新潮45」である。後者の休刊は比較的最近のことだが、多様性を説く人たちの非寛容に驚いたものである。

 本は人生の絶好の友であるが、長旅の時は特にそう感じる。片手に文庫本か雑誌、もう一方の手に缶ビール。学校に行っていた数年を除く六十余年の田舎暮らしに何の不足も無いが、本屋事情は極端に悪かった。町の書店に注文して、届くのは早くて1ヶ月後。東京駅八重洲南口にある本屋で、一定金額以上買うと無料配達するシステムがあった。2,3時間かけてみかん箱一つほど買い、何冊か手元に残しあと送って貰う。書店内の喫茶店で、これまた一定額以上購入で貰える食券で早速読みながらの昼食。東京出張の折にはよく利用したものだ。今は幸いネットで注文できる。到着は驚くほど早いし、送料は無料。絶版になっているものでも探すと出てくる。その嬉しさよ。

 山荘に作った本棚も次第に埋まってきた。調べ物の書籍は、東アジア三国が主張するほど私たちの父祖は本当に非道な事をしてきたのか。その疑問から発して太平洋戦争(大東亜戦争)、日中戦争(日支事変)、広く大正・昭和戦前戦中期関連書籍を収集してきた。楽しみの読書はミステリー、歴史物(江戸期、武家もの、人情もの)。若い頃夢中になって読んでいた小林秀雄、福田恒存など読み返すのも胸躍る楽しみだ。

(佐々木 幸久)