メールマガジン第72号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(53)

 「インバウンド客が訪ねたくなる、日本らしい地方創りには木造建築を活かそう」

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 鹿児島再生の課題は、「地域の経済力活性化と、それに影響を与える人口減少問題と少子高齢化対策」であると思う。20年前の鹿児島県の人口ピークは205万人で、昨年は165万人へとあっという間に20%も減少している。2045年には更に120万人へと、ピーク時に比べ40%も減少すると発表されている。(約40年間で84万人も減少することになる。鹿児島県内では鹿児島市と一部市町村で横這い状態だから、減少の激しい地域と比べると減少格差が大きい状況を心配しての話です。)

 

 人口減少地区では間違いなく消費総額が更に落ち込むだろうから、地方の景気が良くなる可能性は考え難くなる。一部の大都市を除くと、人口減少は鹿児島と同じ様に全国各地で起きているのに、我が国の国会では、結婚式で「子供を3人育てて欲しい」との祝辞がやり玉にあげられる状況で、「急激な少子高齢化への根本的対策は手遅れ状態」にある。(特殊出生率は約2.1以上で無いと人口維持は出来ないのに、現状は1.42と低く日本の人口は昨年一年間で44万人も減っている。「3人居ない家族はダメだ」との発言なら、各人の諸事情も有るだろうし私も批判について理解出来るが、「3人育てて欲しい」との祝辞を、国会で何故批判し問題とするのだろうか。「地方の人口は減少し続け、地方は消滅へと突き進んでいる」と言うのに、地方からの流入人口でかろうじてプラスとなっている都会では、地方の切実な人口問題点に、同じような危機感を持ってくれないのは困った風潮だ。) 

 

 急激な人口減少が更に進み、地方の景気後退が続くと、地方の交通機関医療施設や商業施設も減少するだろうし、最近話題となっている小中学校の統廃合問題や人手不足が更に進み、地方の町々の間で地域間格差がもっと大きくなるだろう。生活が不便になる地域からは、生活環境の住み易い所へと移動する人達が増えると推測される。その結果地方は、益々衰退し、消滅へと追い詰められる状況を傍観しても良いのだろうか。人口が減少すると国会議員数も減らされていて、多数決の原理から地方は更に国の予算獲得も不利になる訳で、地方の衰退は「全てが子高齢化対策に起因する」と私は言いたい。ひいては日本全体の国際競争力の低下にもつながってくる。私はむしろ「3子に100万円、第4子に200万円、第5子以降は各300万円の育児祝支給制度」の創設をこそ、国会では議論して欲しいと思う。

 

 それでは地方の人口減少問題を解消する方法は無いのか。地方の定着人口を増やすのは絶望的でも、「交流人口や観光客を増やす手段」が無い訳ではない。交流人口の確保が上手く行っている都会や観光先進地区を点検すると、最近話題となっている「インバウンド客を集めている地域」が参考になる。しかしインバウンド客の争奪戦も簡単では無く、国内の観光客の誘致合戦で、対大都市や地方同士の競争に打ち勝つ必要がある。

 大都市と地方同士との競争では「大都市を真似するだけではなく、交流人口にはほとんど見向いて貰えていない」、更に「地方は地域を改造する投資資金も乏しい」訳だから、何かを新しく造る事は難しい。対策は「都会や他地区が簡単には真似できないものを探し出し、地方や田舎の良さをブラッシュアップする」事しかない。顕在化している地方の産物や施設だけでなく、もっと「地域の歴史や生活環境、地域独特の産物や文化や風習や、自然志向を活かした食事及び景観」等から探し出すしかない。

 

 今回は私の関係するビジネス分野である「地元の森林や、木材加工業や木材と関係する建設関係と連携した施設の活かし方」で考えてみる。

 「森林」は、二酸化炭素削減対策や環境浄化問題での社会貢献度は大きい。しかし貢献度が大きい割には、地方に金が落ちる割合は少ないのが問題である。(環境税の活用に期待するが、居住人口のウエイトが大きい点は人口減少の地方に不利なので、改善運動が必要だ。)だから森林の地域に与える社会貢献面からの期待だけでなく、「森林の産物の活用や自然や景観を活かした観光産業的活用の可能性を活かす」事が大切である。木材利用の中核となる建築材料の大都市向け出荷はルートが既に出来ていて、その取扱い金額は確かに大きい。しかしそれだけでは地域の資源を送り出し続けるだけで、マネジメントの原則からは価格決定権は買手側が握るから、地方側は受け身になってしまう。地方が主体となり地方が潤うには交流人口に地方へ来てもらい、地方に金を落として貰う体制造りが重要である。「地場産材を活用した施設を造り、そこに旅行客に来て泊ってもらい、地域の自然環境を体験し休養等で満足して貰う。更に地場産品の食をも楽しんでもらう」体制が出来あがれば、今の林業中心の地域経済力に比べ何倍も高い地域活性化の可能性が期待できる。そしてリピート客創りが上手く行けば、地方の経済力向上の夢は更に大きくなる。

 

 それには地方の良さを味わってもらう事が大切で、その土地でしか感じられない雰囲気や環境に満足して貰う政策を充実させることだ。それには「地方に残る年代を経て風格を感じさせる特徴ある建物群を活用」した成功例はアチコチで見られる。そして整備更新する時は地元産木材を利用し施設の拡張を進めるならば、「地方資源の活用となり交流人口やインバウンド客を増やす」事に繋がる。それには単体での話題作りだけではインパクトは弱い。核となる物件の周辺に在る話題や施設を複合的に上手に組み合わせると、更に魅力を高める事が出来る。身近な成功例には「鹿児島城の御楼門の復建と、周辺の回遊性の強化作戦」がある。自然溢れる城山を背景として、鹿児島の歴史の総合展示場である黎明館や県立図書館と美術館、更に薩摩義士の慰霊碑や西南戦争史蹟等を回遊する時の中核とする事で、「日本最大の城門である御楼門の復建」は一帯を回遊できる魅力度を更に高める事になるだろう。それは「御楼門が木造の復建」だから、皆からの注目を集めるのである。

 

 幸いにインバウンド客は「日本を訪ねたい。純日本的な雰囲気を楽しみたい」と思う人は多く、しかも日本を訪ねるリピーター客は、都会だけでなく田舎にも興味を持つ人達も増えている。これからの地方の復活策には「インバウンド客が興味を持つ様な場所と話題を提供する街造りの企画力次第」で決まると言える。しかし全国の地方各地も魅力造りに必死に取り組んでいるから、「地方同士の競争に打ち勝つ企画力と実行力が勝負」であり、二番煎じや自己満足レベルでは競合地域に勝てない。

 

 具体的対策案としては、今回のワールドラグビーの日本チームの闘い振りが参考となる。世界ランキング上位の対戦国選手は、いずれも背が高く体もデカイ。そんな相手に日本選手が力勝負で向かっても勝てない。勝つための緻密な作戦を磨き、高度な技を身に付けるための猛練習を積み上げて来たから、ベストエイトにまで勝ち残れたのであって、口先だけの思いや応援だけで勝てたのではない。

 「スクラムやチームの結束力を活かすためのオフロードパス等の高度なテクニックを磨き上げていた。試合では自チームの反則を減らし、早い球出しで相手を揺さぶる。大きな相手選手へのタックルは一人で倒せないから、相手の腰下部分とボールを持っている腕や胸部分へと二人掛かりでタックルする。タックルで相手を倒したら相手より素早く立ち上り、次の攻撃を先手で仕掛ける事で相手の焦りを誘い、反則を起こさせる機会を増やしていた。相手チームの体力の落ちる後半戦こそ勝負と考えて、相手より運動量を増やすためのスピードと体力を猛練習で鍛え、体格のマイナス分をカバーしていた。「相手の長所を消す作戦で挑み、展開を有利に進めるだけの運動量」で日本チームは勝ったのだ。言葉では簡単だが、選手の積み上げた努力に裏打ちされた自信が試合の随所に見られた。選手が試合後のインタビューで答えていた様に「相手チームと善戦する気持だけでは勝てない。本気で勝つための練習をして来たとの自覚を持ち、モチベーションを高めて闘ったから日本に勝機が巡って来た」との発言を、地方の町興し作戦にも参考にするのが良い。

 

 強いとの前評価の対戦チームよりも厳しく鍛え、自分達を信じて苦しい時も諦めずに戦ったから勝てたのである。また今回の日本チームは「グローバル時代を反映した多国籍チーム」でもあったが、外国生まれの選手全員が試合開始前の「国歌君が代」を、肩を組み熱唱する姿と、そして「武士道の精神で闘う」と話していた画面を見て、最近の見た目だけの日本人には大いに反省させられる機会となった。

 

 我が国での地域間競争に勝つには、ラグビーの日本チームと同じ様に、「自分達の長所を磨き、高いレベルで繰り返し続ける努力」がポイントである。地方の長所である「都会が真似のできない、そして地域産材の特徴を活かした街造り作戦で世界に売込めば、都会人やインバウンド客にも興味を持ってもらい、訪問先に選んで貰える。継続的に優位性を維持してリピート客造りに取組めば、外国にも国内の競合する街々との競争にも勝てる。

 

 そこで注意しなければならないのは、人口が多かった一昔前なら、「鹿児島で2番程度の特徴」でもそれなりの客が地方にも来てくれた。しかし今は「鹿児島で1~2番程度や、自己満足的な施設や話題提供」では簡単には勝てない時代となっている。「世界的評価を受けられる話題性を情報化し、日本で一番ないしは九州で一番の発信力」を上手に提供しないと、目の肥えた都会人やインバウンド客には選んで貰えない時代である。

 

 最近の鹿児島県では、「大型観光船が年に150隻も入港した」とか、更に「22万トンクラスも入港できる港湾に整備する」と言って満足している状況を心配する。錦江湾と桜島の景観は間違いなく世界でトップクラスだから、その素晴らしさを活かしてインバウンド客対策を考えるのは間違いではない。しかし「大型観光船の入港で、鹿児島に幾らお金が落ちるか」も点検する必要がある。旅行客数が多ければ地方経済は潤うのかまで考えないと生き残れない時代が来ている。既に京都等では「地元に金の落ちる割合と、市民生活を乱している状況」とを比べて、「観光客公害に反対」と声が聞こえている。まさに「量の時代から、質の時代」への考え方の転換が必要である。地域の経済力をどれだけ潤してくれるかや、インバウンド客にも喜ばれると共に、地域住民にも喜ばれる状況作りが重要である。

 

 観光客もランク分けされる時代となっていて、世界の富豪層とまでは言わなくとも出来ればラグジュアリークラスや、プレミアムクラスの客層が来てくれるだけへと変革させ、鹿児島をレベルアップさせる必要がある。大型客船は見た目には華やかでも、現状はエコノミークラスの客がほとんどで、マリンポート周辺では入港時の送迎バスによる渋滞で、地域住民の生活に混乱を招いている事もあり、地域経済にプラスになっていないとの批判も出ている。

 先日鹿児島北埠頭に入港した「9900トンのアイランド・ホッピング・クルーズは乗船定員184人」に過ぎない客船だが、乗客の欧米の富裕層は県内の高級リゾートも訪ね、鹿児島の高級食も十分に堪能したそうだ。そして4000人乗りのエコノミー客の大型船に比べて、何の混乱も起こさず、地元に与えた経済効果は相当に高かったと聞く。一方、大型船の入港日には入園料無料で、簡易売店しかない吉野公園等は満員となるが、入園料の必要な磯公園を訪ねる客はごく少数だとも聞くと、大型観光船の入港は、「質の高い観光政策とは対極の存在」の様だ。欧米の健康志向の強い客は長期滞在者が多く、ロングトレイルに挑戦する等、対応次第では当に地方の出番でもあると考えられる。

 

 富裕層の客の訪れる場所にはエコノミークラスの客も訪ねて来るが、大衆客で混雑している地域には富裕層は来たがらないとの話を聞くと、これからの町興し対策は十分に考えて取り組む必要がある。

 

 世界の代表的なリゾート地では、築100200年超のレジェンド級建物を高級ホテルへの改修施設が話題を集めている。日本では築100年以上の建築物は殆どが木造だが、江戸時代まで遡らなくても明治や大正時代に建てられた風格のある大型木造建築物(五重塔の寺院仏閣以外にも、木造3階建ては戦前までは普通に建てられていた)は数多く、少し手を加えて現代の客でも使い易くする事で、新しい需要を開拓している例を聞く。地域の中核的物件で周辺の景観とマッチする木造建築物を増改築すれば施設拡充も難しくなく、その増築用資材は近辺の森林から供給するのだから地元も潤う。日本の田舎の特徴である「自然環境に馴染む木造は訪れる旅行客に親近感を与え、親しみ易い生活空間を提供出来ている。」まさに日本の地方文化を更に活かす事になる。要は多くの都会人やインバウンド客が関心を持つ地域へと磨き上げることで、新しい地方の魅力を売り出せる可能性は高い。

 

 所で自然景観の整備のための公園資材に「擬木」が使われている例があちこちで見られる。「擬木の使用が不思議がられない地域」は、目の肥えた客層には見向きされない事に鹿児島県民は早く気付いてもらいたい。(だいたい「擬木」の漢字の本来の意味は「本物に似せたもの」である。イミテーションを自然公園に使用する感覚こそ一掃したいものだ。天然記念物指定の自然保護の公園資材に、擬木を使う感覚の不思議さを考えたいものだ。)

 公園施設の行政担当者や設計者は、「地方の誇るべき自然景観を活かすには、自然素材を利用した設計施工こそがベスト」との考え方を徹底して欲しい。所でなぜ擬木が使われるのがろうか。それは「木材利用では、耐久性に疑問があると考えているからだ」と思う。

 

 世界一長寿の木造建築物である1400年の法隆寺が今でも健在なのは何故かを、日本人は考え直してもらいたい。「木材は雨水や湿潤状態には弱いが、宮大工はその対策法を知り尽くし対処して来た」からで、その点が「和建築の真髄」である。昔の木材の利用関係者は、木材の長期使用の極意を体験的に学び応用して来た訳だから、現代の私達も伝統的な建築の保存方法をもう一度勉強し直さなければならない。最近の木材保存対策は対処方法の基本と逆の使用状況であることを見るにつけ、木材関係者の説明責任は大きいと言える。要は木材使用では、湿潤状態からは少しでも早く乾燥させる環境を作り、そして定期的な点検と手直し補修を行えば、1000年単位でも使える素晴らしい天然素材である。木材の長所を上手に活かして使うように指導する事が木材供給者としての責任である。

 

 純和風の「木造の五つ星旅館」も増えて来ているし、地方を活性化するには木材を上手に使っての「新しい列島改造論」を木材業者が先導して欲しいものだ。鹿児島でも、リゾートコンセプトを取り入れた純和風の戸建て住宅を、一泊10万円以上の高級民宿として提供するビジネスも出てきているそうだ。

 今回の私のテーマは「地方振興は、地域に残る伝統的木造建築物の活用から」だが、現状の地方の人口減少状況が続くなら、地方の町興しの話は始まらなくなる。だから「地方の伝統が浸み込んだ木造建築物を使っての地方の活性化」を目指すには、まずは「子供を三人育てるとの祝辞が気軽に言える人口維持社会を実現」しないと、そのうちに地方は消えてゆく恐れもあるとの意見です 

 (西園)