メールマガジン第70号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(51)

 「木造の北見地区消防組合・留辺蘂支署を訪ねて」

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 私は喜寿を迎えた年寄りですが、23年前まで木材業界に関って来た経験者(その後18年間は海運や福祉用具業界に身を置いた事で、逆に「木材業界を外から見る目が備わった」と思っている)として、「林業と木材振興と地方の活性化」は、「何と言っても、多様な木造建築の事例を増やす事」だと気付き言い続けて来た。

 平成22年に公共建築物木造化推進法が制定され、保育園や老健施設の木造化や、木造校舎3階建も増えている。最新の木材加工技術CLT製品を利用した「仙台市の10階建・泉高森高層分譲住宅」も完成している。そして今年6月に住宅建築基準法が改正され、木造建築の高さ制限が、従来の13Mから「高さ16Mまで可能」と緩和され、今後は「木造4階建が普通に建築可能」となった。昭和30年代の「木材利用制限の時代」から、今や「国は木造推奨の時代へ政策転換が進められている」訳で喜ばしい限りである。

そして「住友林業(株)は、『高さ350M70階建木造高層建築計画』を、2040年に実現を目指す」と発表した様に、新しい基準と技術を活かせば、木造の防火性も広く認められる時代がすぐそこまで来ている。

しかし「国民の防火への常識をもっと早く変えて、木造建築物の防火への不安を解消させる」には、まだまだ道半ばと言える。そこで私は先月のメルマガに「木材の防火」について書いたが、私は以前から「全国各県に木造消防署が建ち、国民にもっと身近な存在になれば、木造建築物の防火への不安も解消できるはずだ。だから早急に各県に事例を増やすべき」と主張して来た。

 

 その具体例として、平成24年に「秩父市広域消防組合2階建木造消防署が数棟建っている」と聞いたので、早速に私は平成27年に訪ね、地域に馴染んだ和風設計の素晴らしさに目を見張り報告記を書いた。その後に大分県豊後大野市と宮城県泉南地区の木造消防署の情報を得て訪ねた。また三重県亀山市の「旧東海道五十三次の関宿」では、平成15に当時の町長の英断で、木造消防署が既に完成していた事を知って訪ねた。そして先日は「北海道の北の端に北見地区消防組合木造留辺蘂支署」が在ると聞き、訪ねたので報告記を纏める。

 

 北海道が広いのは判ってはいたが、南の端の鹿児島から訪ねてみると「北見の空も大地も農地も、とにかく広くて雄大な景色に圧倒」された。そんな広大な大地のド真ん中に、消防署用地は18,000m25400坪)と広く、平屋1780m2540)の木造消防署が遠くからも際立って見えた。平成29年春完成した木造消防署の裏庭は「防災用ヘリポート」も設置されていた。私の旅の都合から勝手をお願いして土曜日に訪ねたにも関わらず、田口茂春支署長には丁寧に案内頂いた事に感謝を述べたい。

 

木造消防署建設の経緯と概要は次の通りであった。

 従来の既存のRC造消防署が耐震性から建替えが必要となった。「留辺蘂町は木材の街としてPRしている」ことから、木造消防署の建設計画では「国・北海道・北見市の協力で作成した地域材利用推進方針」に基づき、「地元の公共の建物は可能な限り木造・木質化を図る」との方針に従い、「木造消防署建設」にも取り組んだ。

 

木造消防署の建設計画に当り、秩父市消防署の例を参考にしたとの説明があった。平成27年の私の見学報告記も読まれていた様子で、私の一文が参考になったとすれば望外の喜びである。

 

 建設面積は1,782m2。利用木材はカラ松194m3トド松171m3を使い、そのうちの3割は北見市産材を使用、残りも全て北海道内産材を利用した。

 

 北見市の森林面積は94,000haと広大で、森林割合は66%。カラ松とトド松主体の人工林率が43%を占め、伐採適期を迎えている林地が多い。北見市の素材生産量は年間14万m3で、オホーツク管内の16%を占めている。森林資源に恵まれた北見市は木材加工業が盛んで、製材工場7、合板工場1、集成材工場2CLT工場1、チップ工場8、木工品加工所10軒が稼働中で、林産業が地域経済の主要産業となっている。留辺蘂町の木材企業が出資した「オホーツクウッドピア協同組合」では、集成材の生産にプラスして、最新の木材加工業であるCLT製造にも取り組んでいる。

 

留辺蘂消防署の案内リーフレットには、「地域材を活かした木造消防署庁舎の建設では、耐震・耐火の技術的性能を考慮し、更に災害対応拠点施設としての機能も確保すると共に、地域産材の活用を目指した」と、地場産木材の利用に全力投球している姿勢が書かれていた。また「協同組合オホーツクウッドピアのカタログ」には「北海道の木材を、北海道のために使う」と、全国の木材業界や関係行政が見本とされたい強いアピール姿勢が書かれていた。

 

 地元の木材利用促進対策として、全て軸組工法で可能な設計が取り入れられ、大スパンの車庫や講堂の材料も、地元工場で加工可能な地域材の利用を目指し、カラ松大断面集成材を使用した。防火対策には「45分準耐火基準の構造」とし、車庫や講堂の部材は「燃えしろ設計基準」を採用し、構造材は「木材の現し」で施工されている。(誰が見ても「純木造建築物だ」と判る設計だった。)

 

木の街造り計画からの出発」だったので、RC造や鉄骨構造等とのコスト比較はしなかったとの事で、従って特別な補助金も使用していないと説明が有った。(総工費を聞いたら84,000万円と、高いとは思われない)この様に地場産材を活用するのだとの意気込みを、全国の林業自治体では参考にして欲しいものと思った。

 

 設計は「札幌市のブンク社」と、地元の「清和・そうごう特定委託業務共同企業体」が協力し、建設は地元の「松谷・三九・井上特定建築工事共同企業体」が取り組んだ。入札で特別な技能資格や過去の経歴等の条件は付けなかったとの事だ。

 

 設計担当の話では「大スパン大開口の木造施設で、不燃化が要求された車庫部分の木材利用に苦慮した」と聞いたそうだが、周辺の人達からは「良い木造建築例が出来た」と好評との事だ。建築業者は「屋根面の断熱材の降雨対策や、構造材の木材現し部分の汚染や金物の収まりに苦慮した」との話があったそうだ。

 

 木造消防署勤務の職員からは「木の柔らかな味や、木のぬくもりや香りを感じられる建築での勤務は、緊張感が緩和される」と好評である。地域住民は「地元の大断面集成材を使った事で木造の特徴が表れていて、また木製家具類も見た目に優しさを感じる。木の香りに溢れていて心地良い」と高い評価をしている。市役所職員は「地域材利用推進事業としての木造建築物推進の良き参考事例となる。現し設計の採用で木の地用状況が見えるので、木造建築推進のアピールが出来ている。」と評価している。

 

 大断面集成材の強度については何の心配もしていないが、カラ松の特徴である乾燥が進めばクラックが生ずる可能性と、建具類では「反り」が生じるかもと不安は残るが、現状は影響は出ていない。外部使用の木製ルーバーは数年に一度のメンテナンスは必要で、梁材を「現し設計とした事で梁上部のホコリ清掃に手間が掛かりそう」との説明が有ったが、他の工法でも同じ話だと思った。

 

 平成293月完成の木造消防署は、1年間で370名弱の視察者が有ったそうだだが、「ホール・講堂・車庫のカラ松集成材やトド松の建具や壁材は特に素晴らしい」と評判が良いとのことだ。

 

「北見市地域材利用推進方針」の策定により、北見市では木造消防署の他に8棟の公共建築物が地域木材を利用して建てられ、木造化・木質化を推進している。一連の建築を通し、地元や周辺地域の木造施設の増加に結びつけているとの実感があるそうだ。

 

「北見市の自慢できる木材活用例」として、「カラ松材のCLT材を採用したセミナーハウス」(協同組合オホーツクウッドピアが製造したカラ松CLT材を多く使い、内部も「CLTの現し設計」として、誰の目にも木材が見えるデザインとのこと。)更に「留辺蘂小学校」(カラ松とトド松を採用し、平成303月から供用開始)の見学も勧められたが、私は旅の日程から見学を見送ったのが心残りであった。

  

  更なる木造需要拡大対策として、「CLT等の新技術等を活用した中高層住宅、そして非住宅建築物への利用拡大」を目指す。それには「国による技術指針の整備、建築基準法の規制緩和財政支援制度の充実、地方公共団体の指導による木造化の推進と支援体制が重要である」との意見を聞いた。「国産材振興と地方活性化対策には、木材利用拡大の流れを更にグレードアップさせ、産官学の連携と努力が必要である」との話には、全く同感した事は述べるまでも無い。今回は「RC造建築の更新に、木造消防署が建てられた」事が、大きなポイントと思った

 


 

 私は約30数年前に「カナダ西海岸リゾート地ウイスラーの町で、木造消防署を見て驚いた経験」から、我が国でも「日本の林業と地方振興対策」には、近いうちに木造消防署が普通に建てられる状況になれば」と思っていた。私の思いは心ある人達の努力で、最近は我が国でも事例が増えて来ている。もっともっと増やしたいものだ。それが地方の振興に貢献すると信じる。

 

 私が見学し報告書を書いた「5棟の消防署」を振り返れば、秩父市長の「東京の上流に住む住民としての責任から、都民の水甕の役目を果たすため水源涵養林を護り育てるためにも木材利用促進に努める。公共建築物木造化推進法の成立を機に、早速に木造消防署建設に取組んだ」との意気込み。豊後大野市では「木造建築に経験豊富な設計士が先導」していた。宮城県仙南地区は「宮城県林務部からの地元産材活用の提案に、地方行政が積極的に取組んだ例だった。東海道五十三次の宿場町関宿では、「伝建地区地区内の周辺環境に合わせるため、町長の英断で木造消防署を建設」した例だった。そして今回の北見市留辺蘂支署では、国と道と北見市が共同作成した地域材利用促進方針」に従って、「木材の街に相応しい建設事例を!」との取組だった。私が訪れた北海道・東北・関東・関西・九州の5棟の建物は、各地の各々の取組み姿勢が違っている事が、今後の他の地区での新しい取組みの可能性が大きい事を暗示している。新しい木造消防署への参考になれば幸甚である。

 

 後記 私は地元鹿児島県内の或る市長に、「林産業が主要産業であると言われている鹿児島や宮崎県でも、木造消防署の建設実現を!」と提案した。所が「あなたの主張は面白い。私もそうありたいと教えて消防や建設担当者に話してみたが、『木造消防署ですか!』と驚き聞く耳を持たなかった。」と言われた。私は「全国で既に何カ所も木造事例が出来ている。要は行政トップの熱意次第ですよ!」と申し上げた。全国の「木造消防署の先進事例」を訪ねてみると、木造消防署の建設は「行政のトップと担当者の熱意次第だ」とつくづく感じる。そこに火を付けるのは市民の熱意だと思うし、何でも最後は市民や議員の努力だと思う。四国や東北での木造消防署の建設情報も聞くので、私の押し掛け取材を、もう少し続けたいと考えている。最後に「鹿児島県と宮崎県内にも一日も早く実現」する事を願うものである。

  

女満別空港
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 (西園)