メールマガジン第58号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(40)

 「大阪北部地震のブロック塀事故と木塀の復活を」

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 今月のメルマガ原稿は、当初「別のテーマ」で準備を始めていた。所が6月18日朝7:56「震度6弱」の大阪北部地震が起きて、「ブロック塀の倒壊問題」が急浮上した。

 私は今後、更なる頑丈なRC造やフェンス等で造るよりも、このさい「木塀の設置」を再検討して貰う機会になればと考えるので、予定を変更し書いてみた。

 

気象庁ホームページより
気象庁ホームページより

 私は平成7年(1995)1月17日5時46分発生の「震度7」阪神淡路大震災(当時は「7の規準」は無く、発生後に追加し決定)の記憶が未だ頭に残っているから、大災害発生かと心配した。神戸市街地の直下型大地震では、三ノ宮駅前デパートは途中の階層部分が潰れ、また至る所で高速道路が倒壊し火災も多方面で発生して、犠牲者は6,434名に達した。

 当時の社会党の村山富市総理の初期対応の遅れから(連絡確認が遅れ、約2時間後だったとの報道有り)災害全体の把握と指示が遅れた事で、同時発生した市街地火災の鎮火に数日を要したほどだった。今回の地震発生の緊急放送を聞いた時は、私は「震度6弱と震度7とは、エネルギー量で32倍に相当」との解説を十分に理解は出来ないレベルなので、都市型震災は大きな犠牲を伴うと思ったものだ。

 

 「亡くなられた方々には申し訳ない」が、もし「ブロック倒壊事故の2件」が無ければ、23年前の被災体験で得た緊急体制の重要性が理解され、迅速な対応が出来た事も有り「日本の都市災害対策のレベルは上がったものだ」との話になる所だったと思う。

 今回の大阪北部地震の被害は、「死者5名と負傷者408名、一部損壊建物は約18,000件」で交通規制も一時的に終り、電気と水道の復旧工事も素早く、一部地区だけの供給再開が難しい「都市ガス供給」の復旧に数日を要した以外は心配したよりは早かった。

 

 「ブロック塀の倒壊対策」については、「昭和53年(1978)発生の宮城県沖地震での被害例多発で、建築基準法が改正強化」されている。

 今回の「高槻市立寿栄小4年生の三宅璃奈さん」の事故現場は、高さ1.9Mのコンクリート擁壁の上に、更に1.6Mのブロック塀が施工されていた。「法規定の控壁」が無かった上に、三宅さんが歩いていた歩道とは3.5M高の段差が有った事になる。建築基準法では「高さ2.2M以下と制限」され、「1.2Mを越える時は内部に鉄筋補強」を施工すると共に、更に「3.4Mの間隔毎で控壁を取り付ける」と定められている。

 事故が起きて振り返ると、子供達が毎日通う通学路なのに「擁壁高も控壁も違反」等と、長年に亘り二重の建築基準法違反が放置されていた訳で、当に違法物件が子供の命を奪ったのである。

 

全国建築コンクリートブロック工業会ホームページより

http://www.jcba-jp.com/daijiten/c05/index.html

 

  聞けば当日、彼女は当番で何時もより早めに家を出て、すれ違った人達に笑顔で「行ってきます」と挨拶した明るい子供が、地震発生時に運悪く「基準法違反の危険な壁の真下を歩いていた」事で犠牲となっている。送別の会で父親が読んだ「小学入学時に親子で作った10の約束の、『人のために尽くす』等を、いつも約束を守る自慢の子供だった」との弔辞を聞くに、余りにも気の毒な法令違反の犠牲者である。事故現場のテレビ画面では「倒壊した法令違反の壁面には、明るい緑の木々の絵が、危険性をごまかすかの様に描かれていた」のを見て、尚更空しい気持にさせられた。

 もう一件のブロック壁の犠牲者の安井実さん(80)は、10年以上も地域の子供達の登校見守りボランティアを続けていた真面目な人との事だ。「なぜ学校周辺で、これほどの法令違反が長年放置されて来たのか。安全優先は何が最重要なのか」と、外見に騙されない様な根本的な分析が必要と考える。

 

 街中にこうした手抜き工事が放置されて来たのは、「ブロック塀の設置個所が多過ぎて、宮城県沖地震後の基準法改正後でも危険個所の改善が見過ごされ、子供の見守り点検隊にも気付かれないほど一般風景化していた」事だと考える。

 また多くの安全対策の見直し機会となった東日本大震災では、多くの被害が余りにも激し過ぎたために「ブロック塀程度の被害は話題にならず」、後回しにされた事や目視点検だけでは危険と思われ難く、見落とされ易かった事例なのであろう。

 国交省や文科省による同様施工例の緊急全国調査では、調べる程に多くの違法物件や倒壊の恐れのある現場が次々と見つかり、「違法物件との認識さへも薄かった実態」が浮かび上がって来ている。今回のブロック塀の被害は「当に違法人災と言える事故」である。

 

 所で、具体的な解決策の報道は未だ少ないが、「防災=頑丈な設備造り的な発想」が出始めている状況が気掛りである。本当に「壊れない都市造りを目標」にしても良いのだろうか。  

 最近の自然災害は前例を上回る事例が次々に起きているだけに、「計画段階で、より安全に、より頑丈に」との考え方が先走り過ぎると、コストはドンドン嵩む事となり、「人間の住み易い環境とは別物の都市空間」となる事を心配する。メインの建物の耐久性向上や維持対策は進んで来ているが、周辺設備の老朽化や安全対策が置き去りにされている点が気掛りである。「見慣れた風景の安全点検や防災対策が十分」であるのか、一から見直す必要がある。

 

 大正3年(1914)の桜島大噴火では、犠牲者58人の半分の29人が爆発に伴う、地震の対岸の鹿児島市や周辺部で、石垣の倒壊や土砂崩れに巻き込まれた犠牲者だったとの記録が残る。鹿児島は加工し易い溶結凝灰岩が各地に産する事から、多くの建造物に利用されている事から、当時の新聞記事に「石材は、耐火性や街の美観から利点はあるが、地震時には危険性も高い」と、石造構築物の改築基準造りの必要性を指摘している。その後の報道でも「石塀に関する規制強化」について、「規定を空文化してはならない」と指摘している。

 一方では鶴丸城石垣や甲突川五大石橋等の石造構築物では被害は見られなかった。「材料選定だけでなく、施工職人のしっかりした腕が大切である」と言えるのであろう。

 

 今回も「ブロック塀は危険とのイメージ定着」を心配する人達から、「正しく造られたブロック塀は防災や防犯の役割を果たす」との主張は理解出来るが、私には目隠し用や頑丈さ優先よりも、街中にゆとりと潤いを造る「日本伝来の木塀の復活案」が、ほとんど聞こえて来ないのが残念である。

 

日本伝来の木塀の例 風間家旧別宅(高さ約2.1m) 山形県鶴岡市
日本伝来の木塀の例 風間家旧別宅(高さ約2.1m) 山形県鶴岡市

 

 30年昔の昭和時代の経験だが、私達は「サンフランシスコ海浜の、フィッシャーマンズワーフ『ピア39』の木製デッキ」を見学に行った時に、誘われて更にサンディエゴのアメリカ海軍基地を訪ねた。米海軍の太平洋艦隊主力母港の「軍艦の接岸施設は木造岸壁」だった事に驚ろかされた事を思い出す。日本の岸壁や大型接岸施設で、「木造岸壁」は見た事が無かったから、「米国の木造先進事例視察団」の一員として訪れたはずなのに、「何故木造か?」と聞いてしまった。(後で気付いて失笑した事も思い出す。)

 海兵隊の答は、「国を護る大事な軍艦を傷付けず、素早く離接岸させる事が最も重要だ。接岸部が木造なら、軍艦を傷付ける事は少ない。もし一部を破壊しても、木造なら修理は簡単に手早く出来る。RC造では軍艦も岸壁も維持管理費が嵩む」と、日本人の常識と異なる答が返って来た事が懐かしい。

 米海兵からすると、「日本の自衛隊のRC造接岸設備」の方が、むしろ緊急最優先の使用時には不適切工法だと説明された訳だ。(木造岸壁の使用木材は、「耐久性基準のK5」と最上位級の加圧式防腐処理が施されていた。ここがポイントなのかもしれない。他にも高速道路や鉄道の木製鉄橋等や木製ジェットコースターも見学したが、木造消防署前でバスを停めて物珍しそうに見学したら、先方から逆に不思議そうに見られた事も有った。

 

サンディエゴ海軍基地
サンディエゴ海軍基地

 

 「日本は木の文化の国」と、和風文化の根幹を成すとも言われるが、昭和30年代には「木材利用の敵視政策」が取られた。その後、行き過ぎ是正の努力が始まり改善されて来て、この10年でかなりの所まで回復している。最近は建築基準法の見直しもあり、10階建て木造ビルの建設も始まっている。もっと日本国内では「数少ない持続可能な国産資源でもある、木材の活用」に取り組むべきと思うし、その一つとして「危険性の高いブロック塀よりも、日本古来の木造塀の復活」の提案である。

 

 生活環境の安全対策は重要課題だが、過剰なコストを掛け過ぎない事と、「人間の住み易い環境造り」がもっと大切である。「木材の長所の、人への優しさを活かした環境整備」の推進を訴えるだけに終わらず、もしもの事故発生時には「命までは奪わない材料を使っての環境整備」に取組む事が重要である。

 

 今回の「ブロック塀事故と子供達の安全性」を考えれば、誰からも容易に危険状況を判定し易い「日本伝来の木塀の復活」を真剣に議論して欲しい。都市住民や行政担当者は、利便性と安全性を引き換えにしないだけの覚悟を持って、「材料選定と設置基準と維持管理の優先順位」を考えて欲しい。そして「頑丈なRC造」より、「もし壊れても、人への被害の小さい材料で造る木製塀の選定する防災対策を考えるチャンス」としたいが、皆さんは如何考えられますか。

 (西園)