メールマガジン第53号>西園顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(33)

 「新税 森林環境税の創設」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 昨年末に「地価税」導入以来、実に27年ぶりに新税創設案が二件一緒に通常国会へ提出される事が決まった。税額が同額の1,000円となる「森林環境税」と「国際観光旅客税」である。観光税は日本人も外国人も、「出国時に一人1,000円」を支払う仕組みで、森林環境税は国民の約6200万人が対象となり、「住民税に年間1,000円を上乗せ」して徴収される。

 今回私は、国産材振興の転換対策と大いに期待出来る「森林環境税」について述べる。

 

 森林環境税は「何故1,000円か?」と問われた斎藤健農水大臣は、「我が国の山林の維持管理に必要な資金だ。従来の予算では対応できない森林が、どれだけ在るかという所から積算した。」と、必要資金の予測からの逆算だと回答している。林野庁は山奥等の手入が難しい私有林の人工林面積を基準とし、「間伐作業や再造林等の森林整備が必要な私有林が、年間で10~15万Haほど在る。その費用が1Ha当り約40~50万円が掛かる」と見積り、更に「放置状況となっている森林所有者の同意取付けや、各種の測量費用等も加算すると約600億円」が必要との試算だ。現在の林野庁関係予算額は年間3,000億円だから、新税は林野予算の20%増に相当する。

 現在、東日本大震災復興資金として、住民税に年間1,000円が上乗せ納税されているが、平成35年(2023年)に10年の約束期限が来る。その期限が切れる2024年から、同額の1,000円を「森林環境税」へ切り替える計画案だ。(観光税は2019年1月から徴収開始となる。)

 

 日本国土は378千km2で、森林が67%と国土の2/3以上を占める。戦後荒廃したハゲ山を官民挙げて「国土保全と木材生産」の目的から、勢力的に植林を行って緑豊かな国土を創り上げて来た。所が適正伐期と言われる50年生を越えたスギやヒノキが大量に育ってきたのに、肝心の木材需要量は減少している。需給バランスの片寄りから木材相場は低迷し、現在の取引価格では、民間人が育林作業へ再投資するには程遠い状況だ。これでは「日本の緑の山」を維持する事は難しく、森林も山の土地評価額もビックリするほど低レベルに追い詰められている。

 更に戦後の相続制度の改正で、山林等も被相続人全員への均等相続となった事から、土地の所有権が段々と分割され、小面積に分断登記される状況となった。東日本大震災の復興計画で土地の不在地主問題が復旧工事の障害となった様に、地方から都会への人口流失の影響もあり所有者不明の土地が多く、更に明治時代の登記から四代も相続手続きが放置されている農地や山林が多い事が問題となっている。(分割相続手続きの確定のために、法定相続人100余人の同意が必要な例もあり、手続き完了までに5年の期間と相続土地評価額の10倍の費用を要したと言う笑えない例も聞く。)まさに農山村では日本国土を効率的に活用する盲点となっている。

 

 農地は1割程度が不在地主の土地として問題視されるが、山林では4割以上が所有者不明だと推測される状況にある。

 親や先祖が先行的に投資した植林地が途中から全く手入されなくなり、相続放棄状況の不在地主が所有する山林の現状は、都市部に住む人達が考える以上に山は荒れていて、林業や地方を苦しめている。(近年の集中豪雨による山林崩壊から起きている大災害も、放置林が起因していると言われる。)

 山林管理に無関心な地元不在の所有者が増え続け、管理の基盤と言われる間伐作業が放置されている現状は、改善が殆ど期待出来ない状況である。そして今後も地方から都会への人口流出は、益々加速されるのは間違いない。

 

 森林管理の現状は「国土保全水源涵養国土荒廃対策からも由々しき状況」なのである。その対策費用としての新税案だが、都市住民の「日常生活からは森林の恩恵を感じる事は無い。田舎の論理で全ての国民から新税を取るのは納得できない」と不満を述べる声を、報道が無責任に取り上げ始めている。森林環境税の創設は国や地方自治体だけに任せず、林材業や木材を利用する建設業及び流通に関連する事業者等が連携して、「森林環境の整備と活用の重要性」を訴えないと、地方の山林や国土は手入れが行き届かず、益々荒れる事になる。

 

 

 自民党では「不在地主対策」を2~3年前から、問題解決に向けて議論を始めていた。農地の規模拡大には集約化が必要との話に始まり、次いで東日本大震災の復旧事業で、宅地整備や道路付替え工事等で緊急性が増し、そして「林地は更に問題面積が大きい」と検討枠が広がってきた。

 所が「宅地問題は民法の所有権に関わる」と法務省のガードが固く、前へ進まなくなった。そこで問題点を、国交省と農水省関係に分けて整理を進め、「固定資産税を納入している人が、事実上の管理者とみなす」と纏められた。「市町村へ森林管理を委託出来る仕組み」が作られ、運用法を簡素化して今度の通常国会に提出する事になった。

 「森林環境税」は10数年前から議論が始まっていたが、やっと国会へ提出される事になった。住民税に上乗せの東日本大震災の特別納付税と同額で、約束の徴収期限が切れる平成36年(2024)から、国民への税の徴収は始まる。持主不明の山林が点在する現状と、間伐や再造林等が遅れている状況を、一緒に解決しようとする改革案だけに、今年の通常国会での成立を期待したい。

 

 日本の森林面積250千km2のうち100千km2が人工林で、その5割が「11令級(樹齢50年)以上の主伐期を迎えた林地」であるのに、その山林の成長量の6割しか利用されていない現状が問題である。

 また財産の均等相続制度の影響で、我が国の森林の所有形態は零細化されて来ているが、森林所有者の8割は森林経営意欲が低く、逆に現在の素材生産業者の7割は規模拡大の意向が強い。そのミスマッチを解消するためには林道網の開設や整備と、林業機械の更新等による生産コストの国際的競争力を回復させる必要がある。そこで新しい森林環境税で林業の経営環境を整備し、「小規模で管理能力の乏しい山林所有者」から「市町村が森林管理の委託」を受けて、更に「意欲と能力の有る林業経営者へ再委託」を行い、国際競争力の有る国内林業を育てるための改革案である。

 

 「森林環境税」の仕組は税収額の9割を市町村へ、1割を各県へ譲与する制度である。

 各市町村への譲与額の配分基準は、50%が私有林の人工林面積比で、20%は林業従事者数比で、30%は市町村人口比で案分される。所が現状の森林の荒廃状況を考えると悠長に、5年先まで先延ばしできない状況にある。そこで必要対策費200億円を特別会計として予算化し、平成31年度からは借金して運用を開始し、新しい税の徴収が始まったら穴埋めするとなっている。 

林野庁ホームページより
林野庁ホームページより

 

 今回の新税を、「森林は木材生産の対象」とだけ考えれば、全ての国民へ負担を要請する事は容易には納得して貰い難いだろう。そこで今回は、森林の公的機能が一般の人達にも判り易い様に、次の通りの公的評価額が発表された。

災害防止機能土壌保全機能が36.7兆円

②CO2吸収等の地球温暖化防止機能が1.4兆円

洪水緩和や水質浄化等の水源涵養機能が29.8兆円

 森林は「総額67.9兆円の公的機能を有する」とのデータを見せられると、森林の果す公的機能の大きさに今更ながら驚かされる。その様な大きな負担を、森林所有者だけに負わせるのは忍び難いと、国民には理解してもらいたい。)

 日本は特に国際的地球温暖化防止協定で、「CO2の2.7%の削減」の大半を「森林によるCO2吸収」に依存すると公表している。状況を都会の人々に丁寧に強く訴え、納得してもらう事が重要である。

 

 所で鹿児島県では既に、「森林を全ての県民で守り育てる意識の醸成費」として「県民税の森林環境税」を「県民一人当り500円、法人は規模に応じて1,000~40,000円」を徴収している。「森林環境の保全と県産材の安定供給基地造りに活用」し、目的を➀森林に学びふれあう推進事業と、②森林を育てる整備事業に充てるとしている。

 今回の「国税としての森林環境税」の新法は、日本人の住民税納税者の全てに課税されるから、鹿児島県民には二重課税とも指摘されかねない。鹿児島県が「県独自の現制度」を今後どう処理するか注目される。 

 (西園)