メールマガジン第52号>西園顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(33)

 「宮城県仙南地域広域消防組合の木造消防署見学記」

 (「住宅と木材」2018年1月号「読者の窓」掲載)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 具体的な木材需要拡大策は「木造消防署建築の拡大」からだと私は思うので、全国の木造消防署建築

例を訪ね、情報を発信している。

 一昨年秋に秩父市広域消防組合の木造消防署2棟を、昨春は大分豊後大野市を訪ねた。今回は宮城県仙南地区の丸森町と蔵王町を報告する。他にも亀山市に東海道五十三次の関宿に木造消防署が在ると聞くので、早目に訪ねる計画だ。

 「日本は木の文化の国」と言われるが、北米等では普通に建つ木造消防署が、日本に少ないことから、木造消防署建築の拡大につながるよう、その建設経緯や建設計画の内容、木造の効果等について紹介していきたい。

 

 6月に宮城県大河原町の仙南地区消防組合本部を訪ね、下記口上を述べた上で、丸森町蔵王町の消防署見学をお願いした。

 日本の森林蓄積は増え国産材供給量も増大しているが、国産材建築用需要はそれほど伸びておらず、今の丸太価格では再造林資金を賄うことは難しい。林業活性化は需要拡大が必要条件で、平成22年の公共建築物等木材利用促進法の施行によりに低層公共建築物の木造率は伸びているものの30%に及ばない。

 地方自治体の公共建築の木造化については、木造化率の地区格差が大きく、国を下回る地域が多くみられる。「国民の木造住宅への防火の不安」が原因と言われるだけに、「木造消防署の建築拡大」が「木造

の防火の誤解解消に繋がる」と思う。等々。 

 

佐々木保典消防司令長の応対に感謝し、「Q&A」で纏める。

①Q:木造消防署建設を言い出した人は?

 A:旧庁舎老朽化と耐震対策から検討中の所へ、宮城県林業振興課から「公共建築物の木造施設補助制度」の情報提供が有り検討した。

 

②Q:木造化の理由は?

 A:対象地区が木造景観を基調とした街造り計画推進中で、出張所規模なら木造で可能と補助制度を活用した。

 

③Q:他地区の参考例は? A:他例は知らなかった。

 

④Q:建設面積と木材利用状況は?

 A:◎白石消防署蔵王出張所は平成25年竣工。

               建築面積462m2 で、木造平屋事務所318m2と車庫はS造。木材使用量66m3。

           ◎角田消防署丸森出張所は平成24年竣工。

               建築面積456m2 で、木造2階建事務所300m2と車庫はS造。木材使用量43m3。

        (両所とも地元材使用。他に村田町と川崎町消防署も小規模の木造)

 

(写真1)丸森消防署  外観

(写真2)丸森消防署  内観



 

⑤Q:工法上の特徴と木材利用の工夫は?

 A:事務室壁は地元産杉板張りを採用、24時間勤務の職員がリラックスできればと期待した。雰囲気が柔らかくなった。

 

⑥Q:防火対策は? A:消防車庫をS造で分離。

 

⑦Q:RC造と比べ建築コストは? A:補助金利用で安く付いた。

 

⑧Q:補助制度名は?

 A:森林整備加速化・林業再生事業補助制度。補助率135千円/m2。

 

⑨Q:担当設計事務所と建設業者の反応は?

 A:設計士と建築業者とも木造消防署は初経験だったが、消防業務に適した建物が完成。

 

⑩Q:運用後の住民や職員等の評価は?

 A:RC造より木のぬくもりを感じ、柔らかい印象と好評。

 

⑪Q:完成後の見学者や、消防署木造化への影響は?

 A:小学生が見学に来る程度。わざわざ「木造消防署だと見学に来たのは、貴方(西園)が初」と珍しがられた。「それほど林材業界の期待が大きい建物」と感謝を述べた。

 

⑫Q:住民の木材利用面や木造消防署建設への感想は?

 A:消防署は住宅地域外で良い、木造で問題無いから特に考えた事は無い。職員の反応は良い。

 

⑬Q:木造消防署が増えない理由は何と思うか? 

 A:木造消防署に何となく抵抗感が有ったが、補助制度が充実すれば広まると思う。

 

(写真3)蔵王消防署  外観

(写真4)蔵王消防署  内観



 

  丸森町は「蔵の街」として売出し中で、周辺と調和する「なまこ壁」を採用。見学アンケートに「町の雰

囲気に合い、温かみを感じる」と記されていた。

 蔵王町の室内杉板壁に、「毎日が家幸呼ぼう習慣(火災予防週間)」の垂れ幕が掛り、木造と似合う

と思った。

 近くの鎌先温泉を訪ね、築77年の4階木造の一条旅館も見学出来た。

 

 木造消防署推進者は、秩父市では故郷の森林資源の活用を考えた秩父市長が先導し、豊後大野市では木造に精通した建築設計士がリードした。仙南地区は宮城県林業振興課の提案を受け、又亀山市関宿は伝統的景観保存として復建したと聞く。

 「四者四様」の取り組みは、今後の可能性は広いと思うので、「各県1棟の木造消防署」の実現を期待する。

 見学失敗談も書くと、浜松市天竜支所の併設消防署が木造と聞き、4月「木どころ静岡県」と期待し訪ねた。建物は大断面集成材採用の大型木造2階建でも、1階の消防署部分は内外装は木製で、躯体はRC造だった。本物木造消防署の実現を期待する。

 

参考 最近の木材新聞記事を転載。

「29年3月北見市留辺蘂支所に木造準耐火消防署完成」

 一部RC造だが、平屋建1846m2はカラマツ構造用集成材174m3と、ヒバ土台9m3を使用。燃えしろ設計の準耐火構造で、天井の高い木造軸組の柱・梁は現し設計。

 鹿児島からは遠過ぎるが、何時かは訪ねたいと思う。

 (西園)