メールマガジン第111号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第67話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

67.GDPから思うこと

 

 以前も同じようなことを書いた記憶があるが、我が国のGDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落したとのことである。

 ワイドショーを見ていると、「失われた30年」等、我が国の経済の状況を悲観視する情報で溢れている。しかしこの30年間、比較的物価は安定しており、年金と貯蓄を取り崩しながら生活している高齢者にとっては、実は過ごし易い経済状況であったのではないかとも思う。一方、例えば住宅ローンを抱えた現役サラリーマンにとっては、思ったように給料が上がらないことは、かなり苦しいことのはずである。

 ここに来て賃上げの機運の高まりが見られるが、それは現役サラリーマンにとっては朗報であろうが、賃上げによる購買意欲の高まりにより、物価高・インフレ傾向が助長されることになれば、これは高齢者にとってはあまり有難いことではないとも言える。

 

 視点を変えて、業種別の経済の状況を見てみると、我々が属する建設業のGDPは2000年には8業種中第3位の地位を占めていたものが、2018年には8業種中第7位にまで凋落している。

 実は、建設業が最も好調であったのは、この統計のさらに10年程前の1990年頃であり、当時の年間新築着工床面積は3億m2であった。それが2000年には約2億m2となり現在は1.5億m2まで縮小している。新築着工床面積が縮小しているのであるから、GDPが縮小するのもやむを得ないことのようにも思う。

 ではなぜ新築着工床面積が縮小したのか。その理由の一つは、実は逆説的な見方にもなるのであるが、建築物の品質向上の努力の結果、建物寿命が延伸し、新築着工数が縮小したのである。

 つまり1990年以降、建物に対する高耐震化、高耐久化等の様々な要求の高まりにより、建物の品質は大きく向上した。結果として建物を長く使う傾向が顕著にみられるようになった。建設段階における環境負荷削減の要求も、建築物の長寿命化の推進に拍車をかけたことも間違いないと思われる。

 ここで問題なのは、建築物の品質が向上し耐久性も増し、建築寿命が延伸したのであるから、その効果は当然建設費に反映されるべきであったが、その努力を業界として怠ってきたのではないかと思うのである。

 

 経済は金回りが重要と言われるが、従来よりこの金回りに最も寄与してきたのは建設業界のはずである。その建設業界の活動が、縮小しているのであるから日本の経済全体が停滞し、結果としてGDPが諸外国に追い抜かれるのもやむを得ないことのようにも思う。

 現在、我々は大きな変革の時代を迎えているようにも思うが、ここは少し体勢を立て直して、原点に立ち戻り、建設業の基本的な在り方について見直しを図るのも重要なのではないかと思い始めている。

 

(稲田 達夫)