メールマガジン第110号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第66話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

66.能登半島地震

 

 「新年おめでとうございます」と言うつもりが、大変な年始めになってしまった。元日の能登半島地震、そして翌日(2日)にはJAL機と海上保安庁の輸送機の衝突事故。

 不幸中の幸いと言うべきは、JAL機の乗員・乗客が奇跡的に全員無事脱出できたことであったが、海上保安庁の乗員5名は亡くなられた。

 能登半島地震の被災地への支援物資の輸送が任務であったと聞いて、地震が無かったらこんな事故は起こらなかったのにと思うと切ない気持ちになった。

 

 暗澹たる年明けとなったが気を取り直し、1月3日からは防災科学技術研究所の「K-NET」にアクセスし、2つの地震波をダウンロードして応答スペクトルを作ってみた。

 ISK006富来(最大加速度2678gal)、ISK003輪島(最大加速度1496gal)の2つの地震波である。ISK006富来は固有周期0.5秒以下の帯域で今までの観測波では見たことがないような大きな卓越周期が確認された。(応答スペクトルの青い線)

 報道によれば能登半島広域に渡って低層の木造建物が壊滅的被害を受けているということであるが、さもありなんという気がする地震波である。ISK003輪島の波は1秒から2秒の帯域に大きな卓越周期が見られる。(緑の線)

 7階建てのビルの転倒が大きく報じられたが、この影響ではないかと思われる。

 もう少し細かい分析がしてみたくなったので、急遽建物に入力する塑性歪エネルギーの吸収度合いを計算するプログラムを作成してみることにした。丁度1月29日に令和5年度の林野庁助成事業の成果報告会を控えており、その検討資料として5・10・20階建てのモデル建物を用意していたので、それらの建物を対象に、富来と輪島の波でスタディーを試みることにしたのである。

 

 これまでの私の常識では、海洋型の地震(例えばEL CENTRO波等)の場合、建物に対するエネルギー入力(左グラフの縦軸)は比較的緩やかでありそれに呼応して累積変形量(右グラフの横軸)は大きくなる傾向がある。この場合制震装置の効きは比較的良いのがこのような地震波の特徴である。


海洋型地震の場合の特徴

 一方、直下形地震(例えばJMA-KOBE等)の場合は建物に対するエネルギー入力の度合いは急激であるが、その割に建物の累積変形はあまり増大せず、制震装置等の効きは悪いのが特徴となる。

 

 制震装置の効きが悪いということは、靭性で地震に対抗する鉄骨造のような建物は地震被害が大きくなる傾向にある。例えば阪神淡路大震災で鉄骨造建物の大梁端部のフランジプレートに多くの破断が確認されたのは、その影響と考えられる。


直下型地震の場合の特徴

 スタディーを進めると、今回の地震は建物に対するエネルギー入力の度合いは直下型地震の特徴を持つ地震と思われるが、意外と累積変形も大きく制震装置の効きが良い地震波であることが分かった。その理由は明確には説明できないが、今までの私の常識とはかなり異なる現象である。

 というわけで、年始めから結果として結構忙しく、またまだまだ分からないことが多いことに気づかされるスタートとなった。今年度の助成事業で開発した木質パネル制震壁は能登半島の地震に対しては効果的に作用してくれたのが解析的にではあるが確認できた。


ISK003輪島の場合


ISK006富来の場合

 

 福岡大学時代以来10年近く取り組んで来た、鋼木混合構造システムの開発も、最終的段階を迎えている。今年度の助成事業の成果は当初の予想以上に良い結果が得られたのではないかと思っている。これから普及に向けた新しい取り組みが始まるが、気を引き締めて頑張ろうと強く思った次第である。

 

(稲田 達夫)