メールマガジン第109号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第65話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

65.木材は環境共生材料と言えるか

 

 いろいろな方から、建物を木造にした場合の地球環境問題への貢献の度合いをどのように評価したら良いか、相談を受けることがよくある。私は随分以前から、日本建築学会(AIJ)の地球環境委員会に所属しているので、同委員会の代表的な成果の一つに、AIJ・LCA指針を紹介することにしている。LCA指針には建築材料の製造過程におけるCO2排出原単位(重量当たりのCO2排出量)が示されており、一応それを使えばそれなりの評価ができるのではないかというのが私の考えである。

 

 LCA指針によれば、鋼材は1.136ton-CO2/ton、生コンは0.205ton-CO2/ton、製材は0.319ton-CO2/tonとある。思ったよりも製材の原単位が大きいと思うかもしれないが、これは重量原単位だからである。体積原単位にすれば、生コンは0.472ton-CO2/m3、製材は0.121ton-CO2/m3となり木材の方が製造時におけるCO2排出量は小さいことにはなる。

 しかし、そもそも木材の製造時のCO2排出量とは何のことを言っているのかと思われるかもしれない。例えば鋼材の場合には酸化鉄で構成される鉄鉱石からの脱酸過程で大量のCO2が排出されることが知られている。但しAIJ・LCA指針の特徴は、産業連関表に基づいて、その建築材料が製品となるまでに全ての過程で排出されるCO2を積算して求めている。例えば鋼材のような脱酸過程の他、輸送等により発生するCO2量もカウントされている。LCA指針が発表された時の説明では、製材のCO2原単位に大きな影響を及ぼしているのは、木材の乾燥工程で重油を炊いたことにより発生するCO2量が多い為と聞いた。それから考えれば、最近の製材所では乾燥工程では廃材(バイオマス)を使用しているケースが増えており、重油を炊いている所は少ないのではないかと思う。その意味では現状における製材のCO2排出原単位はもっと小さくなって良いのではないかとも思う。

 

 そのようなこともあって、最近では木材の地球環境問題への貢献の度合いを評価する指標として木材の炭素貯蔵量という考えが、採用されることが多くなってきている。木材は植林されて成長する過程で大量のCO2を吸収し、炭素として固定する物質である。CO2を吸収し炭素として固定する過程そのものが正に地球環境問題への貢献と捉えられるから、評価軸としてはAIJ・LCA指針の考え方よりははるかに直接的であり、良い評価法のようにも思える。森でCO2を吸収・固定した木材を建築物にして街に持ち込むことで、森を都市に移設することができるというのは、林野庁の木材活用に関する主張でもある。

 さて、この木材の炭素貯蔵量というのがどの程度の値になるかと言うと、昨年林野庁から示された計算法によれば、CO2換算値で0.606ton-CO2/m3という値になる。但し丸太を伐採し建築物になるまでの過程を考えると、円形の丸太から四角形の製材を切り出す過程を考えても、実は100%木材を使用しているわけではない。木材製品の歩留まりは概ね30%程度と考えられるから、木材製品の製造過程では0.606ton-CO2/m3の7/3倍のCO2、つまり1.414ton-CO2/m3のCO2が、廃材として燃焼廃棄されていることになるが、これは結構大きな数値となる。

 

 急に大丈夫なのか心配になったので、この辺の関係を図に書いて整理してみることにした。その図が以下のようなものである。説明すると、

 1)図の一番下に引いた青い線はAIJ・LCA指針に示されているCO2原単位である。

 2)その上の赤い線までが、木材製品で建築物を建設した場合の建物に貯蔵されているCO2量という

  ことになる。

 3)その上の黒い線までが、木材製品の製造過程で、歩留まりの関係から燃焼排出されるCO2量である。

 4)但し、今回の建設行為の為に伐採された木材は、植林および木材の成長過程で再生されることに

  なるが、それを数量的に表したのが黄色い線である。

 

 このように考えて来ると、少なくともサステナブル・デベロップメントが成立する限りにおいては、木材は環境共生材料と考えて良いことになると思う。このようなことを考えている内に、ひょっとしてパンドラの箱を開けてしまったのではないかと危惧していたが、杞憂だったようである。少し安心したので、このようなレポートを書いてみた次第である。

 

(稲田 達夫)