メールマガジン第107号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第63話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

63.JSSC育成研修会

 

 9月27日の朝9時15分から、東京神田の貸し会議室で日本鋼構造協会(JSSC)主催の育成講習会の講師を務めてきた。

 

 JSSCは、鋼構造建築に携わる設計者、施工者、鉄骨の製作工場、鋼材メーカーの技術者が一堂に会して意見交換を行うことを目的とした業界団体で、元々はそれぞれの業界の代表者が鋼構造に関するサロンを作ろうということで発足した協会である。

 JSSCの会員は団体会員と個人会員に分かれるが、個人会員は博士号取得者を原則とするなど、本来はステータスの高い協会である。もっとも私がJSSCの個人会員になったのは、博士号を取得するはるかに前で、JSSCの理事を務める勤務先の役員さんから、「今年は特別セールで誰でも個人会員になれるから、この際なっておくと君の為になると思うよ」と諭されて(騙されて)、同協会の個人会員になったのがJSSCとのお付き合いの始まりである。

 今ではJSSCは論文集を定期的に刊行するなど、学術協会としても立派に役割を果たしているが、そのJSSCの誰が企画したのか定かではないが、10年程前から育成講習会を開催するようになったのである。

 

 JSSC育成講習会の開講の趣旨は、同協会に所属するベテランの技術者が会員各社の若手社員を対象にして専門別に講義を行うことにより、会員各社の新人研修等の手助けをしようということである。概ね30程の専門講座が準備されており、期間は3か月に及ぶが、会員企業の社員はその全ての講座を無料で受講することができる。会員サービスに主眼を置いた試みで、最初開講の主旨を聞いた時には結構壮大な計画でもあったので、本当にできるのか少し疑いの目で見て居たのであるが、それが10年以上も続いているのである。

 私は発足以来毎年「品質管理」の講義を担当している。今年の受講生もほぼ入社0~2年という人たちが殆どである。もっとも私が最初に所属していた三菱地所を中途退職して、今年で13年になるが私にとってはあっという間であった。彼らも13年も経てば各社の主任技術者となるはずである。13年というのは彼ら受講生にとっては随分先と思っているかもしれないが実は意外とあっという間なので油断しないようにと話しておいたが、伝わっただろうか。少し心配である。

 

 さて、最近東京駅前大型ビルの鉄骨梁落下事故を初めとし、大きな品質問題が頻発している。その背景には永らく専門技術の一翼を担ってきた団塊世代の技術者のリタイアと、40歳代後半から50歳代前半にかけての専門技術者の不足の問題があると言われる。これは、高齢者問題、ロストジェネレーションの問題などの社会問題の裏返しでもある。これら人財に関わる問題が大企業を始めとする多くの会社経営者を苦しめ始めているのである。その打開策として、JSSCの育成講習のような試みは、実は地道だが極めて有益な活動なのではないかと日頃から思っている。

 明るい兆しもある。大学の就職担当の先生から聞いたところでは、大学の新卒採用は極めて堅調だそうで、就職するつもりのある学生であればすぐに採用先が決まるとのこと。若い人が就職に苦労しなくても良いというのは、本当に良いことである。その若者をいかにして育てるかが、我々の課題である。

 

 というわけで、今日は久しぶりに朝から真面目な気分で講師を務めて来たのであるが、その僕の純粋な気持ちが受講した若手技術者にちゃんと伝わったのか、少し心配ではある。

 

(稲田 達夫)