M田のぶらり旅・さつまの国「落花生と双子の木橋」

第8回 鹿屋市 落花生と双子の木橋

 台風6号が迷走しながら通過しているうちに、暦の上では秋になってしまった。この時期、肝属鹿屋の笠之原台地の畑では落花生の収穫の真っ最中である。水が乏しく、台風の風が激しく吹きさらすシラス台地の畑作は、草丈が低く土の中に収穫の対象が埋もれているサツマイモと落花生が風害リスクの少ない作物として生産されてきた歴史があるようだ。

 酒造用、デンプン用の甘藷を主体とすれば、落花生の作付けはさほど多くはなく、その収穫はほとんど手作業でおこなわれている。夏のはじめ頃から、広い畑に腰をかがめて、株を引き抜いては子房柄(しぼうへい)に付いているたくさんの鞘(さや)をひとつひとつ根気よくちぎっている姿をあちこちで目にするようになる。

 

台風6号の風で吹かれた落花生畑。左手前の株だけ鞘が見えている
台風6号の風で吹かれた落花生畑。左手前の株だけ鞘が見えている

 

 収穫された鞘は、生落花生として、スーパーや直売所にならんでいる。今は1kgで1,000円くらいが相場のようだ。新鮮なものを塩ゆでにして熱いままどんぶりに盛り、冷えたビールといただくのが、最速、大満足の調理法だ。

 だが、生落花生には時間と手間のかかる至高の調理法がある。それは薩摩語で「だっきしょ豆腐」(ピーナツ豆腐)と呼ばれている。生落花生の絞り汁をくず粉もしくは甘藷デンプンと混ぜて煮固めた純白のゼリーで、つるりのあとねっとりとした食感を味わえる一品だ。

 家庭の味として作られていたが、夏の暑い時期に火にかけた鍋をかき回し続ける手間が災いしてか、家でつくられることはまれのようだ。ちかごろではスーパーなどで既製品を買ってきて味わうのがふつうになってきた。

 そのような中、大隅半島で最高の「だっきしょ豆腐」(※1)を提供してくれるのは、国道269号線を北田交差点から200mほど西に歩いたところにある「小松食堂」だろう。ここは、チャンポンで有名な大衆食堂だが、すぐ隣で「和魂洋菜」という惣菜店もやっているのだ。この店のだっきしょ豆腐は鹿屋産の落花生で作られていて、透き通るような白さととろりとした食感が特徴の逸品である。口に入れたとたんにふわっと広がる落花生の香りもたまらない魅力だ。お値段も手頃なのがうれしい。

 

一パック二人前くらい。甘めのたれをかけていただく
一パック二人前くらい。甘めのたれをかけていただく

 

 さて、小松食堂から北田交差点にもどろう。ここは東西に国道269号線、北に向かう国道504号線が交る要衝だ。東北角にリナシティかのやという複合施設が建っている。リナシティの東には鹿屋川が流れており、施設建屋と川向こうの駐車場をつなぐ木橋が2本架かっている。どちらも曲線橋で、幅員5.2m、橋長は上流側が21.5m、下流側が23mと、見た目もサイズも双子のような人道橋である。両方の親柱とも「ふれあいばし」「平成18年3月」の橋名板が埋め込まれている。

 

下流に架かる歩道橋から2橋を俯瞰する。左がリナシティかのや
下流に架かる歩道橋から2橋を俯瞰する。左がリナシティかのや

 

 対岸から広角で施設全体を撮影してみた。リナシティの前庭で、両岸の野外ステージが二つの橋によってつながり、円形の回廊ができあがっているのがよくわかる。この双子の曲線橋は、施設全体のデザインの中で、人と人、人と水とがふれあうためになくてはならないアイテムなのではなかろうか。

 湾曲集成材を含む材料と架橋を弊社で納めさせていただいた。弊社が納材・施工を担当した木橋の中でも代表的な一つだと思う。川面近くの遊歩道から全体を見上げると橋の構造もよくわかることだろう。近くにお越しの際は是非ご覧いただきたい。

 

(※1)M田の個人的感想です。

 

 

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小松食堂・惣菜屋 和魂洋菜

 鹿屋市北田町9-5

 定休日 不定休

 営業時間 10時~14時

 

参考:サカタのタネ園芸通信 ラッカセイの育て方・栽培方法

   木橋資料館 福岡大学工学部社会デザイン工学科 

(M田)