メールマガジン第54号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(36)

 「大隅柏原海岸での『ホウ酸のシロアリ食害調査試験地』の説明用資料」

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 昨年末にも私は「ホウ酸とシロアリ防除の話」を書いたが、山佐木材が柏原海岸で取組んでいる「野外試験」も2年目を経過し、現場ではボツボツ被害も見え始め見学できる段階になって来た。単に野外試験をしてデータを集めるだけでの目的でなく、『シロアリは舐めたら大変』な事と「木材保存の重要性」を、多くの人に現場を見て貰う事で、感じて貰いたいとの思いで取り組んでいる。もし見学希望者が居れば、その時の「説明用原稿」をと考えて作成したので、その案を今回は掲載します。 

 

説明用原稿

 木造住宅建設で忘れがちだが重要なのは、「防火対策シロアリ予防対策」である。シロアリ対策の薬剤として、世界では人間の健康面への安心安全対策面から「ホウ酸処理」が主力だが、日本では未だ合成農薬系の使用が多く使用されている事から、「ホウ酸処理木材の野外試験」例が少ない。 

 そこで山佐木材では、「木造住宅で多く使用される一般的樹種への、防腐剤として使用例の多いCUAZ防腐薬剤と、ホウ酸の処理濃度の違いによる防蟻効果」について、長期的な野外試験に取り組んで2年が経過した。纏まった見学希望者で事前連絡を頂ければ、現場を公開し案内します。

 

試験条件

試験地:鹿児島県東串良町柏原海岸の国有林内の松林

試験開始平成27年11月に、鹿児島県総合林業技術センターの指導の下で試験材を設置。

試験目的:一般的に使用される建築用材への防腐防蟻処理と、ホウ酸の濃度別の処理法との対シロアリ防除効果について、今後経年変化を追跡調査する。

 

試験樹種:スギ・ヒノキ・マツ・ベイマツ・ベイヒ・ベイツガの6種類の樹種。更にスギヒノキについては、辺材(Sapwood)心材(Heartwood)ドライ材グリーン材との比較試験も実施している。(全テストピース数は688本)

試験薬剤:ホウ酸は10%液加圧処理法真空処理法と、更に15%液の真空処理法と20%の塗布処理と、CUAZ加圧処理の5種の処理法と対比用の無処理材の、計6種類の試験を実施。

 

柏原試験地
柏原試験地
試験状況

⦿「第1試験地」と「第2試験地」には、JIS試験基準に従って「6樹種の30㎜角材に、夫々6種類の薬剤で処理した試験材」をセットしたコンテナを「各45台」配置した。(計90台)

  

⦿「第3試験地」と「第4試験地」には、「一般的に木造住宅で使われる土台用120㎜角材」の4樹種(スギ・ヒノキ・ベイマツ・ベイヒ)に、夫々4種類のホウ酸濃度の異なる処理を行った。そして端から30㎝毎に順次切断した3本の試験材」をセットしたコンテナを「各18台」配置した。(計36台。薬剤処理後に切断した面への、シロアリ食害影響を確認するとの挑戦的な試験である。)

 

⦿「第5試験地」には、近年増えている「断熱基礎施工」で使用される「発泡ウレタン断熱材」の、「ホウ酸混入ウレタン材」と「無処理ウレタン材」の上に無処理松材を設置し、「シロアリ接近状況」を比較するコンテナを「5台」配置した。(ホウ酸混入ウレタン断熱材のシロアリ忌避性の効果を確認する試験。)

 

⦿コンテナ総計:131台、自動温湿度計:4台。

試験点検状況
試験点検状況

 

経過報告

「試験設置後2年目の29年12月の点検調査」では、試験片へのシロアリ被害は一部で見られた程度である。しかし試験材周辺に設置した誘蟻材(クロマツ素材)は、1年経過で予想以の蟻害が発生していた。

  2年目の点検材料の一部は添付写真通り。誘蟻材の地際部より下部の大半が大きな食害を受けている。そこで、ほとんどの誘蟻材を新しいクロマツ素材に取り換える事にした。

 木材利用は接地条件では大変厳しい状況になる事と、木材の屋外利用では使用方法の違いによる耐久性の格差が大きい事が判った。

 

30㎜角の試験材と誘蟻材(素材は2年目でボロボロな状況になっている)
30㎜角の試験材と誘蟻材(素材は2年目でボロボロな状況になっている)
試験周囲の誘蟻材2年目と交換用材
試験周囲の誘蟻材2年目と交換用材

 

● 利用環境別での、普通の腐朽菌とシロアリ食害の特徴(両被害は同様の傾向が見られる)

利用環境 腐朽菌による被害 シロアリによる食害 アメリカカンザイシロアリによる被害
乾燥状態 〇被害は極小 〇被害は極小 ×乾燥材の被害は大。材面からの被害は気付き難い
湿潤状態 ×被害は大 ×被害は大 △乾燥材を食害する
接地状態 ××被害甚大 ××被害甚大 〇地下生息は見られない
30㎜角試験材(無処理)の下側面被害状況(上表面は無害)
30㎜角試験材(無処理)の下側面被害状況(上表面は無害)
120㎜角試験材無処理材の被害例(下側面では食害が始まっている)
120㎜角試験材無処理材の被害例(下側面では食害が始まっている)

120㎜角の試験材(無処理)下側面に食害を始めたシロアリの群
120㎜角の試験材(無処理)下側面に食害を始めたシロアリの群
120㎜角試験材の周辺の誘蟻材から無処理材への蟻道
120㎜角試験材の周辺の誘蟻材から無処理材への蟻道

基礎断熱用に使用されるウルタン材の防蟻比較試験
基礎断熱用に使用されるウルタン材の防蟻比較試験

 

● 木材利用時の腐朽菌シロアリの食害特徴と保存対策上の注意

通風の良い場所に置かれ、含水率25%以下の乾燥状態の木材には、腐朽菌もシロアリもほとんど繁殖し難い。

② 適温適湿の繁殖条件に置くと、シロアリ腐朽菌は同じ様な被害を被る傾向がある。

③ 「腐朽菌」は、湿度60%を越えると繁殖が活発化し始め、湿度が高いほど繁殖は旺盛になる。通風の有る所は乾燥し易いので被害は受け難い。

「シロアリ」暗部や湿潤状態を好み、明るい所や通風の良い乾燥し易いは食害され難く、木材の表面は食害されず材内だけを食害し移動する。少し離れた隣に在る木材を食害する時は、蟻道や空中蟻道(トンネル)を造り、外気や乾燥状況を避けながら次の食害材への通り路を確保する。

⑤ 周辺温度が低いとシロアリの活動量は低下する。一般的に5℃程度から活動を始め、気温が高くなるほど活動は激しくなり、25~40℃で食害活動は最大となる。45℃を越えると活動量は低下する。(営巣内や蟻道内の温湿度は、外気より生息し易い環境に維持される。)

「高温多湿の気候」の日本や東南アジアの夏は、「白蟻が最も活発に活動し易く被害が大きくなる環境」である。「アメリカの夏は、温度が高くても空気が乾燥」しているので、日本より腐朽菌やイエシロアリの被害例は少ない。「アメリカカンザイシロアリ」は、砂漠に生息している種だから乾燥材を食害する。

 

● 日本の木造住宅に被害を及ぼす代表的なシロアリは、「外来種のイエシロアリ」と「日本固有種のヤマトシロアリ」で、その特徴は次の通り。(特徴を考えて予防対策を考える)

 

イ)イエシロアリ:ヤマトシロアリより大きく職蟻の体長は5~7㎜。被害は温暖な西日本地区が中心で、気温が低い山間部には少ない。近年は房総半島付近の海岸線まで被害前線が北上している。主営巣は地下に在り、酸素不足を避けるため砂地系土壌を好む。口に水を含み食餌場所まで運搬する能力を持ち、獰猛な食性から家全体や2階まで被害が及び、コロニー(巣)は百万匹を超える例もある。羽アリの群飛は6月中旬から下旬の日没前後に見られる。

  

ロ)ヤマトシロアリ:イエシロアリよりも生息分布は広く、北海道中央部から南のほぼ全国的に生息。イエシロアリより小さく職蟻の体長は4~6㎜枯木の根等に巣を作り、コロニーは数万匹程度。水の運搬能力が乏しい事から、2階まで被害が及ぶ例は少ない。乾燥した木材を食害する例は少なく、風呂場玄関の盛り土、雨漏り水漏れ結露水等の「木材が湿気を帯びる場所」が被害を受ける。食痕は汚く、生息条件が悪化すると次の条件の良い所へ巣を移動する。羽アリの群飛は4月末から5月上旬の雨が降った翌日の暖かい正午頃に見られる。

 

ハ)関東以北は寒くてシロアリ被害もヤマトシロアリが主なので、西日本に比べてシロアリ被害が目立ち難い。日本全体のシロアリ対策への取組みが遅れがちになるのが問題である。

 

南九州地域での木造住宅建設では、「耐久性向上による維持対策」は必須条件である。

① 「人が馴染み易く中庸の生活環境造りに最適な木造住宅」は、シロアリや腐朽菌にも繁殖し易い環境である。

 

② 近年の住宅建設では、「室内の温湿度を最適環境」とするため、天井や壁や床の断熱効果を高める工法が採られる。そのことが「外気と建物内に温湿度差が生ずる原因」となり、木材が結露し易い場所は湿度が高くなるので、シロアリの生息に必要な水分が確保され繁殖し易い環境となる。木造住宅の耐久性を確保するには「屋根裏・壁内・床下での結露削減対策」が重要である。

 

③ 木造住宅の耐久性向上対策には、次の条件を考える事が重要である。

イ)設計や施工段階で、耐久性の高い設計や工法を採用する。 

 

ロ)青森ヒバ・クリ・ベイヒバ等の高耐久性の材料を使用する。(樹種別の性能分類表には「ヒノキ材のシロアリ耐久性は中程度」と書かれている。野外試験でも指摘通りの結果が見られる。) 

 

ハ)「建物の床下や壁内部」に使う杉材や米栂等の一般木材は、防腐防蟻効果の高い薬剤で工場で加圧注入してから使用する事を勧める。 

 

ニ)化粧材以外の材は、防腐防蟻効果の高い薬剤に浸漬処理して使用するのが望ましい。 

ホ)建物の構造部材や壁内部分を組立てた段階で、防腐防蟻の予防対策として「薬剤をたっぷりと丁寧に散布する事」が重要である。 

 

ヘ)木造住宅の居住者は5~10年毎に保全状況を点検し、維持保全のために定期的手入を行う事が望ましい。(屋根や外壁等の人目に付く所は定期的に手入れする人は多いのに、床下や壁内等の被害を受け易い見えない部分は見落とされている。定期的に注意すれば、木造住宅の長期的保全や維持対策は可能である。) 

 

ト)上記諸問題を適切に対処する事が、木造住宅の耐久性維持対策の基本条件である。

 

ホウ酸の木材保全処理の優位性

イ)木造住宅の耐久性向上対策のために薬剤処理する場合は、「人間の健康と安全性を優先して考える時代」である。我が国で多く使われている合成農薬系でのシロアリ対策は、世界的には使用禁止または規制強化されて来ている。 

 

ロ)「ホウ酸」は天然の鉱物資源で農薬や目薬にも使用される等、人間の健康には安全安心な資源である。「住宅でのシロアリ予防効果が高い薬剤」として、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドや欧州等では、80%以上のシェアーを占めている。

 

ハ)ホウ酸処理には、加圧注入法・浸漬法・建設現場での散布や塗布法があり、状況に応じ適切に選択して処置する事を勧める。又既成住宅のシロアリ駆除に「噴霧式」の採用も増えている。  

      

ニ)「ホウ酸」は高い後期浸潤性を持つから、徐々に木材の深部まで浸透する事で、長期的保存効果が期待出来る。(他の薬剤には見られない特性である。)

 

ホ)ホウ酸使用は「適切な濃度で処理」する事が重要である。高濃度薬剤を丁寧にムラ無く処理する事が絶対的な使用条件である。(「うすい濃度」でのホウ酸使用では効果は期待できない。品質管理と確認が重要である。)

 

ヘ)ホウ酸処理は雨水や雨漏れ等に晒されない限り、長期間の薬効が期待出来る。5~10年毎の定期的な再施工が必要な合成系農薬の薬効に比べ、長期の保全効果が期待出来るのでトータルコストは安くつく事になる。(特にシロアリ被害の多く見られる「床下や壁内の再処理は困難」である事に気付いて欲しいものだ。)

 

ト)建物等の解体処理後の環境汚染の心配が無い。

 

総合判断:木造住宅を長期に維持保全するには、防腐防蟻対策が重要だが、それには「健康や環境に安心安全であるが、対シロアリへの薬効が高いホウ酸処理」の採用を勧める。

 

 山佐木材は鹿児島県内で唯一のホウ酸専用の加圧処理装置を設置し、更に現場での適切な処理能力も有する等、「多彩なホウ酸処理法」を提供できる。事前の相談を期待します。 

 (西園)