メールマガジン第24号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(6)

 木材利用と『山の日』の制定」

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前回までの「木への想い・シリーズ」を読んで頂いて、皆様には「木材利用」が地方の活性化に如何に重要であるかについて、相当なご理解と関心を頂いた事と思います。宜しく御協力下さい。

 

山の日の制定

さて来年8月11日には、新しい祝日として「山の日」が始まる事をご存じでしょうか。1年後に始まる祝日なので、木材を扱う山佐木材関係者の一人として、皆さんに活用方法について早目に考えて頂いたらと思い此処に取り上げます。

 所で私の周辺の人々に訊ねても、「山の日」が来年から始まると知っている人は思ったよりも少なく、その制定理由やどんな祝賀行事が行われるか等まで考え及んでいる人はほとんど居ない様です。

 現在日本には祝日が15日有り、最後に制定されたのが「海の日」で既に20年も前の事ですが、海の無い県の人達からは「海の日」は縁遠い祝日だとして違和感を持って居たと聞きます。そこで山国県系の代議士諸氏と日本山岳会等が連携して、2014年に「国民の祝日に関する法案」の改定に取組み、珍しく全党一致で賛同し成立させて来年2016年8月11日から始まります。


法律には制定理由が必要ですから、定義では「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する日とする」と決められました。その定義に対して「制定由来や根拠が曖昧過ぎる」と、国会議員数名が党議に違反してまで反対したほどです。と言うほどに「山の日」の制定根拠は曖昧模糊としているのです。

 8月11日と決まったのも、今まで6月と8月に祝日が無かったので「日本は西欧社会に比べて労働休日が少ないから」とか、「お盆休み前後に祝日を増やそうか」等の漠然とした意見で決まったとしか思えないと言う人も居るほどです。


所で「国民の祝日」が制定されると「国民誰でもが休める」と思うのは早とちりなのです。「祝日は休みなさい」との法律も規則も無いから、「休みにするかどうかは、勤務先の企業や組織が決める」のです。学生や子供達は元々夏休み期間ですし、公務員も大手を振って民間より先に休みを取れる環境には無いですから、現在の市民の認識状況から考えると来年8月11日の「山の日」は、十分な国民的納得は生れないままでのスタートとなる可能性が高いでしょう。ひょっとすると山岳会等が音頭を取り「登山やハイキングを企画する」程度で御茶を濁される可能性も有ります。

 そこで「山や森の貴重な生産物である木材の関連産業の従事者」が、自分達の所属職場の存在価値を高めるためにチャンスと考え少し拡大解釈して、「山と木材」を関係付けたイベントを創り出さないと勿体無い気がします。


日本は世界有数の森林国

さて日本はフィンランド・スウェーデンについで「森林面積率では世界第三位の『森林大国』で、国土の7割を森林」が占めています。国土面積に占める割合は公的記録では、「山地」61%で「丘陵」11.8%と分類されていて、その合計の約73%が一般的には「山地」と言われます。(宅地はわずか4.4%で、そこに大半の国民は住んでいます。)皆さんは「山地」と「森林」はどう違うかご存知でしたか。

 一方森林面積は発表機関により数字が違いますが67%が標準的です。その山地と森林面積比の割合の差は何なのかは皆さんも考えて下さい。また日本の森林面積のうちの人工林率は41%で、フィンランドに次いで世界第2位だそうです。(日本は工業国で貿易立国と思っている人が多いでしょうが、同時に森林国でもある訳です。それは「戦後のはげ山」を高齢者と言われる65才以上の人々が、努力して植林してきた結果なのです。)

 私が言いたいのは「山の日」は「森林や木材の日」と考えても何等差し支え無いと言う事です。私の「山」と同じく「木材」も高く評価しようとの提案は、林材業関係者から声を上げないと業界外の人達からは出ない発想です。林材業従事者が先頭に立ち行動を起こさなければ始まらないのです。


色々な資料を調べると「山の日」制定に当り、次の理由や目標を述べた資料も有ります。

➀山の恵みに感謝する日とする。  

②我が国の美しく豊かな自然を守ろう。

③日本の素晴らしい自然を次世代へ引き継ごうと考える日。

④山や森林は、人々の体の健康や心の健康に欠かせない財産であると再確認する日としよう。

⑤山や森林と人々との関わりを考える日にしよう。

等の資料を見ると、単に「山登り」の祝賀行事だけに終わらせては惜しいと納得して貰えるでしょう。

 

 又「山そのものや、植生している森林だけ」への感謝に終わらせると、「次世代への森林の持続性を大切にする」との、もう一つの目的を見失う事になります。世間には「山に木を植えるだけで自然は守れる。」との考えを持つ人達も結構多いですが、スローガンを叫び自然に任せるだけでは、「立派な森林」は作れません。国土の67%を占める貴重な資源を活かさないでは、日本の国家的損失と言えます。

 確かに森林には何百年も掛けて育った森や木や、中には樹齢6000余年の「屋久島の縄文杉」の様に保全すべき天然林や地域や樹木類も沢山有ります。その様な対象は国民の財産として、特別保護地区として保全する事は当然です。保護と活用のバランスを取る事は重要です。


「土地」から生産される「農産物」は短期間で収穫利用されますが、森の中で50~200年の期間を掛けて作られるのが「木材」なのです。木材は長期間掛けて育つ資源だからこそ、自然の恵みを最大限に有効に活用する「人間の匠」が必要になるのです。明治時代の産業革命が始まるまでは、世の中の資材の大半が木材で作られていた事からも判る様に、木材は有効に上手に加工すれば付加価値はまだまだ高められます。そして人間生活に便利で安らぎを与える材料であるだけに、私達はもっと知恵を出して木材資源を上手に活かさなければなりません。

 更に森林資源の重要な役目は、成長過程でCO2を固定化すると共に酸素を供給する事で、人間生活には無くてはならない環境を維持保全する重要な役目を担っています。産業革命以後の世界は、石油・石炭等の二酸化炭素系エネルギーを大量消費する事で成長を遂げて来ました。その結果CO2が急速に増加していて、この傾向が続き温暖化が更に進めば、2100年には地球気温が2~3度度上がり、結果として海面が2~4M高くなる恐れがあると警告されています。わずか80年後への警告ですから、環境問題は今や人間生活に一番大きな影響を与えるテーマで、低炭素社会を実現させるには石油石炭系燃料の使用量を大幅に減らそうとの運動が、世界各国で急拡大しています。(日本人は過去の問題には厳しいが、将来の課題には意識が低い様に思われます。)

 二酸化炭素の発生源を押さえる行動が重要ですが、そのためにはもっと沢山の木材を利用する事で「都市の中に大量の炭素を蓄える」努力と工夫も必要であり、更に伐採後に継続して新たな植林を行う事が低炭素化社会には重要な施策であって、其の活動が世界の環境問題を救うのです。

 都市住民は原発反対運動を叫ぶ前に「木材利用促進運動」にも真剣に取り組んで欲しい気がします。


「山の日」に何をすべきか

1年後の第一回「山の日の祝賀事業」では、ただ単に「皆で山登りを勧めるだけでなく、山の贈物である木材に感謝すると共に、木材利用促進を勧める運動こそが環境保全維持に重要だと国民へ知らしめる運動」を始める事を提案します。この様な行動は「森林に囲まれている地方の人々」(特に南九州地域の各林業県民)から積極的に働き掛けないと都市部の人々には通ぜず、日本中での木材需要拡大運動は盛り上がらないでしょう。

 地方の3000万人の人々が、「努力して一人で2の木材を使う行動」よりも、9000万人の都市部の人々を巻き込み、「木の良さを知らしめて、一人で1の木材を使ってもらう運動」を推進する方が、国内の木材の総需要量は増えるのです。地方に住む私達が好機到来とばかりに、木材利用促進を国民運動とするチャンスを活かしましょう。それが地方創生そのものとなるのです。

 そのためには「木材の長所」を口にするだけでは、今までと同じ結果に終わる恐れが強いです。

「木は燃えるけど防火対策に配慮すれば安全である。木材を利用する時は防腐防蟻対策の基本を守る事が重要。天然資材の素晴らしい長所を活かすためには、メンテナンス技術の普及が重要だ。」等との、木材活用のノウハウを具体的に国民に判り易く伝える木材供給側の責任が問われるのです。

 (西園)