【連載】国産木材・林業との歩み(第七回)

国家百年の大計 ~大局的森林管理を~

建材試験センター「建材試験情報」2014年7月号掲載


 木造建築は自然物である樹木を伐って加工して使うということから、いろいろな点で鉄骨構造、鉄筋コンクリート構造と違うところがあります。木材関係者の間で木造建築が環境面や人間生活の観点で良い点が多いと言っていることがいくつかあります。それを私なりにまとめてみます。


木造建築が良いと言われている点

  1. 木材は伐っても、再び植えて育てられる、再生可能な資源である。
  2. しかも国内でほぼ100%自給の可能性がある、数少ない資源である。
  3. 樹木は光合成により生長するが、その際二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する。
  4. 適切に管理された森林は雨水を一時に流出させず、洪水の調節ができる。
  5. 丸太から建築材料に加工するときのエネルギーが、鉄,アルミニウム,セメントなどに比べて格段に少ない。
  6. 木材は比強度(単位重量当たりの強度)が高いので、建築の総重量が小さくなり、耐震性や基礎工事などで有利になることが多い。
  7. 森林は全国くまなくあるので、木材を使用することはその地域の経済,産業,雇用などに貢献する可能性が高い。
  8. 木造建築は、改築・増築が容易である。
  9. 役割を終えて建物を解体する時,木材の再利用がしやすく、またエネルギーとしても利用できる。

 

木材資源の保続

 森林の木材資源を持続的に保続していくのは、そんなに簡単なことではありません。近世伐採機械の大型化で、これまで人手が入らなかった未開の森林が、大々的に伐採され丸裸になり、広範囲の森林資源が枯渇したケースは、特に発展途上国などで枚挙にいとまがありません。


適正な伐採量管理

 適正な年間伐採量(AAC = Annual Alowable Cut)を維持していくためには、生長量の把握と、その範囲内で伐採量を適切に統制できるシステムが必要です。

 この生長量の把握自体がたやすいことではありません。樹種,品種,生育条件などにより生長量は大きく異なるので机上では実情がつかめないのです。調査対象地を数多く選び、長期間定期的に現場に行って根気強く調べる必要があります。単純で地味ながら専門性の高い重要な仕事です。

 我が国も、かつて過伐がたたり資源の均衡が大きく崩れたことがあります。先の大戦後、国を挙げての全国的な植林が行われましたが、高度成長期にはまだ伐採(皆伐)するには早すぎて、伐採量の制限などの管理は不要でした。この間の旺盛な木材需要は、輸入材に頼っていたのです。

 ただ間伐は必要であったので、間伐作業の促進と、その際発生する木材(間伐材といわれる)の需要を喚起(「木材需要拡大」)していけばそれで事が済んでいました。

写真1 択伐の様子

適宜利用間伐(択伐)しながら、長期にわたって山を育てていくことが最も合理的。


大規模伐採時代の予兆

 それが現在いよいよ、伐採できる時期が来つつあります。本来大いに慶賀すべきことなのですが、実はこの事態は我が国林業の将来に関わる正念場でもあるのです。

 もしここで需要が一気に増えれば、伐採制限に経験のない我が国でどのようなことが起こるでしょうか。「少子化もあり、そんなに需要は増えないよ」と言う人がいます。しかし例えば為替動向は、木材の輸出入には大きな影響があります。円高が永らく続いていましたが、その頂点の頃は世界中から木材を持ってきても国産材はコストでかないませんでした。最近の円安傾向は、もし更に進めば状況は一変します。輸入材が一気に国内資源に切り替わる可能性も有るのです。

写真2 100年生近いスギ林

葉や枝がまだ繁っていて、盛んに成長している様子。

(樹高40~50m、胸高径55~70cm)


大規模発電がもたらす混乱

 先般の消費税増税に対する駆け込み需要や、木材利用ポイント制導入による国産材への傾斜による需要増で、国産材マーケットが一時的に過熱、収拾が付かないほどに混乱しました。我が国林業マーケットは、あの程度の需要増で混乱するほどに底が浅い、すなわち規模が小さいのです。

 最近、「バイオマス発電」の野放図とも見える多くの立地計画があります。そしてそのどれもが大規模で、それぞれの燃料=木質資源の需要量は、我が林業マーケットに対して異様とも言える規模なのです。

 開業に先行してある程度の備蓄など需給緩和対策が講じられるとは思いますが、先般の一時的需要増とは比べものにならない規模であり、そのもたらす混乱はかなり長期に及ぶでしょう。


伐採量管理をどう実行するか

 そもそも伐採量の管理統制という手法が、社会主義ならぬ自由主義社会の中で、どう実行できるか課題があります。ところで我が国と同じく自由主義政体であるヨーロッパの森林国では、この課題がクリアされていると言われています。フィンランド,オーストリア,ドイツなどは有数の木材輸出国で、質,量,価格共に到底我が国産材のかなうところではありません。しかも森林資源管理のよろしきを得て、今後もその強みが持続すると言われています。

 国民納得の上での林業ルールがあって、法的強制によらずともそれを熱心に推進する熟練の行政員、そのルールに基づいて業をなす事業者の民度、そして結果的にそのルールを実行することが林産業全体のプラスになるというこれまでの実績が、このサイクルを永続的なものにしています。

「林業は先進国でしか成立しない」と言われる所以です。このサイクルを我が国も実現出来るかが,「主伐期に入った」と言われる我が国のこれからの課題です。

写真3 ドイツの中堅製材工場

120年の長期育林を進めて、全国的にそれを実現しているドイツ林業。長期育林でも成長量は極めて高い。質の高い長尺材を供給てきる。


図1 日欧林齢構成比較

我が国では、森林の構成を5年ごとの樹齢で表すのに対し、ヨーロッパでは20年んお単位で表すのが一般的である。この方法で日欧の森材の構成を比較した。我が国森林は「成熟した」とはいえ、ヨーロッパに比べると非常に若齢であるのが分かる。


少子高齢化+中山間地からの人口流出

 我が国はもう一つ問題を抱えています。急速に進む少子高齢化と併せて、多くの若い人が郷里を離れて都市部へと移住していることです。それは森林の多い、「中山間地区」において最も顕著です。このような「不在村山主」は極めて多いのです。ある程度の規模があれば別ですが、小規模林の場合これらはほとんど「管理放棄林」になります。

 当地の森林組合の職員に聞いたのですが、これら「管理放棄林」は「三分の二以上、ひょっとして80%くらいかも」と言うので驚きました。そして不在村山主の連絡先は、行政はつかんでいたにしても「個人情報保護法」があって教えて貰えないと言うのです。管理放棄林はもちろん間伐もできていませんが、買い手があっても連絡も付かず、実は皆伐もできないのです。


森林管理は国家百年の大計

 手入れをされた優良林は,常に皆伐の可能性があります。需要増で木材価格が上がれば、手入れされて本来永く林業の営みを続けたい優良林がまず皆伐されて、間伐も皆伐も出来ない不良林のみが残る可能性があるのです。

 これから林業行政の主眼とすべきは、「適切で有効な資源管理」、「国内森林のポテンシャルを高める」ことへ舵を切るべきでしょう。個人情報保護法などの制限がある以上、これは行政の出番で、森林組合の尻を叩けば済む話ではありません。つまり経営主体がはっきりしている優良林は極力皆伐ではなくて長期的な生産・育林経営を行うことです。

 そして管理放棄林には直接足を運び調査の上、経営主体を明確にさせ遅れている間伐を進め森林の復活を図るべきでしょう。こうして来るべき需要増に対し,主伐(皆伐)材ではなく、新たな森林から生まれる間伐材を以て応えるべきであると考えます。

(代表取締役 佐々木幸久)