集成材事業十周年を迎えて  我が社の構造改革

社内報「やまさ」平成13年12月号巻頭言


十周年を記念して

先般10月16日、当社の新規事業としての集成材事業創業十周年を迎えました。一連の工場のひとまずの落成、および構造用集成材、並びに大断面構造用集成材のJASが認証されたことを記念して、10年前のこの日に落成式を行いました。

遥か昔「グループ進発式」を挙行しましたが、それがきっかけだったか以後グループ業績の伸長は著しいものがありました。その行事を行った日が奇しくも30年前の1971年10月16日だったので、あやかる意味もあってこの日を、山佐木材のいわば第二の創業記念日とした由縁です。

工場建設に着手したのはそれに遡ること一年、事業スタートを決断したのはさらにその数ヶ月前になります。工場の建設中に最初のご注文をいただいたので、そのお客様の落成式は当社の工場落成式よりも一ヶ月前でした。


この10年は、私にとっても役職員にとってもまさに波乱に富んだ時期であったと思います。まさに創業期(第二とはいえ)の、波乱と危機と緊張感とそして感動に満ち満ちた時期でした。経営者冥利につきる時期だったといってよいかもしれません。当時の会社の実力レベルでこのような決断をしたのは、まさに私の若さ故の無分別と情熱のなせるわざであり、そこそこに分別と思慮を得た今の私のよくなしえるところではありません。

記念すべき十周年に意義ある行事として何がふさわしいか。長期的に国産材を事業の核としてやって行こうという長期ヴィジョンを作ったこともあり、スギについての総合的シンポジウムを行うことに落ち着きました。国産材に関わる人々に少なくともコストに関しては諦めの感じがあり、またユーザー、特に大手住宅メーカーにとって国産材は視野の外という感じがしています。それらの風潮に一石を投じたい思いもあります。

当地でシンポジウムを行うことの意義を認めて、日刊木材新聞様が同社の主催行事として取り組んでいただいたことが、まずは成功の元だったと感謝しています。立ち席が出るほどの盛況、又会場を覆う熱気は、多忙な中出ていただいたセミナーの講師、シンポジウムのパネラーの方々の実力のお蔭様だったと、強い印象を以て感じました。

 

事業転換について

セミナー講師のお一人、宮崎県木材利用技術センターの大熊所長はセミナーの中で「スギの国際的競争力を考える」というこのたびのテーマを取り上げ、このような視点に立つシンポジウムは初めて、と評価されました。

我が社では現在、新たな業務転換の試みを行っています。森林国でありながら我が国木材需要の80%を占める輸入材に対し、我が社としても競争力を持てる製品を作りたいと志し、その実現に取り組んでいます。

木材も今や国際商品である以上、輸入材の持つ競争力の一つ一つを虚心に見て、それに十分対処していかなければなりません。何を作るかに始まり、使用する原木、製材の仕方、加工の仕方、そして製造面のみでなく、販売面まで見直しをはかる必要があります。いくつかの問題点を残しながらも、念願の「輸入材に対する競争力」を、かなりのレベルまで実現する可能性があるように思っています。

これらをなるべく広く知ってもらい、そして実際のビジネスにつなげていく、これがこれからの私達の課題です。

 

国産材振興と環境・地域発展

私は一定の資源蓄積量を持った森林があれば、その資源を持続的に育成しつつ、この森林周辺に1万ha当たり300人雇用規模の産業形成が可能であると試算したことがあります。

即ち成長した森林を伐採し、再造林する、また生産された木材を原材料とする総合的な加工産業、これら一連の「森林を中心とする業務」を産業として確立する。これを殆ど公的負担無しに維持運営できれば、その社会的貢献たるや甚大なものになると思います。もちろん300人という試算には検証が必要ですが、仮にこれによれば、我が国2500万haの森林により、雇用できる人は75万人に及びます。恐らくそれば現行の数倍に及ぶと思われます。

問題は基盤となるべき肝心の森林です。小規模面積の民有林を対象に競争力ある林業経営はスタートできません。まずは我が国森林の30%の面積を持つ国有林の民活導入からだと思います。その一定面積を民間に委託し、林学、林産学の研究の粋を集約、森林を極限まで活用することを試みます。これを基盤に競争力ある林業経営が確立すれば、これは一つのインフラとして、周辺の小規模の民有林をも効率的に施業できる可能性が高まるでしょう。一日も早いそのような試みが、大隅かあるいはどこかで実現できることを期待しています。


最近森林の多目的効能を高く唱え、公的負担による森林管理が当然との論調が目立ちます。森林の効用は真理だと思いますから、公的負担も一理あるとは思うものの、行きすぎると嘘になります。かつての常識であった、木材生産業として林業が自立しつつ、将来の資源のため森林育成に努めれば、それが結果として環境や水源涵養にも貢献し得る、そのような森林や林業の原点もしくは常道に帰るべきで、公的負担はあくまで補助的・補完的であるべきです。

昨秋ヨーロッパに行った時、オーストリアのグラーツ郊外のホテルに二連泊しました。人口100万人のこの地域では農林業が盛んで、就業者の18%が林業関連で職を得ているということに驚きました。そのホテルのレストランは地元の人たちらしい老若男女で二夜ともにぎわっていました。

過疎の影忍び寄る我が中山間地において、ヨーロッパの小国が出来ているように、農林業は力強い活力を町にもたらすことが出来るでしょうか。公的負担に依存する、即ち社会に寄生するのでなく、産業として自立し、社会に貢献し、新しい文化を提言できる、そういう誇り高い林業の形があるはずです。

 

構造改革

今我が国全体がまさに「構造改革」を唱えています。林業・木材業界は、恐らく一足先(10年か、ひょっとして20年前)に、このような構造改革を必要とする時代に突入していたように思われます。

少なくとも私は当時そのように感じ、未熟ながら打開のためのアクションを起こそうとしたのでした。とはいえ、実は私達が当時改革しようとして奮闘したものの、言うなれば木材業の他分野への遅れを取り戻したに過ぎなかったと思います。現在の我が国全体が一挙に進もうとしている時代変革の流れの中、再度の構造改革に再び一から取り組むべきほどのものです。真にしんどい苦難の道と嘆息することがあります。

今構造改革と言っている中で気になることがあります。今我が国はバブル時代の後遺症としての巨大な資産目減りがあり、これの解消に国民すべてが呻吟していることは事実でしょう。とはいえ、その資産ギャップが片付けば全て良しとするのはもちろん間違いで、よく企業の経営資源として「ヒト、モノ、カネ、情報・・・」などの項目の内、「カネ」「モノ」が解決するのみで、他の問題は手つかずだということです。恐らくこれまでの戦後の比較的順調な中、社会や組織の中で、「ヒト」「組織」「価値観」「思考形態」「歴史観」その他において、様々な負の遺産があるように思われます。それらは決算書のように明快には見えないだけに、気づきにくく、話題にもあまりなりません。

それだけに、私達は今手掛けている事業転換の試みを中途半端に行うのでなく、全社的に徹底して実行し、磨き上げていくことが今最も重要です。

 

社内報「やまさ」平成13年(2001年)12月号巻頭言

代表取締役 佐々木幸久