論点(1)林業で活力を呼び戻せるか

「南日本新聞」平成16年(2004年)1月12日掲載


 我が国の林業・木材業は近年非常に厳しい状況にあると言われ続けており、そしてそれはもちろん事実であることに間違いない。

木材はいつのころから完全な国際商品になっており、為替相場による時々の変動はあるものの、基本的に競争力のある国から無い国へものが流れるようになっている。農業や畜産も時に自由化問題が噴出するが、林業は一足先に、十数年前にほぼ完全な自由化時代を迎えている。

 世界中の林業国における共通のキーワードは「国際競争力」であり、様々なその国独自のプラス・マイナスの条件や問題点を科学的・合理的に解決し近代産業としての林業システムを作り上げてきた。これらの国々は価格、供給力、品質などの総合力で遺憾なく強みを発揮し、未だ非近代的な状態の我が国林業・木材業界を痛打した。

 我が国のいわゆる国産材を脅かしている最大のライバルは、近年まず北米であり、ここ数年はヨーロッパであって、業界の地殻変動を起こすほどに大量の木製品が入ってきている。

ヨーロッパにそんなに広い国があるわけではないし、またそんなに山国とも聞いていない。なぜ他の国々ではなくてヨーロッパなのだろう、との疑念はどうしようもないほど高まった。

 肝属地区の木材組合を中心とした十二人でオーストリア、ドイツ、スイスなどの林業の視察に行ったのは三年前である。

 ご指導いただいている木質構造の教授がかねがね、進展著しいオーストリアの木材産業の視察と、グラーツ工科大学の先生に会うことを進めてくださっていた。三年前の視察では何と教授が私たちのツアーに同行してくださることになり夢の視察が実現した。

 視察初日、二日目の宿を自分たちの力ではどうしても見つけられずこの先生のお世話で、グラーツ市郊外の小さな村にあるホテルに、夜遅くなってから投宿した。最初の夜、先生がそのホテルの地下レストランで遠く日本の大隅の地からやってきた私たちの歓迎会を開いてくださった。これはもちろん先生と、同行の教授との友情のおかげてある。

 その席での歓迎スピーチで「オーストリアのここスチリア州は、人口約百万人であるが、そのうち18%が林業関連に就業している」とのことであった。これは信じられない数字であって、いったい我が国の何倍の水準であろう。

 翌朝村を出て目指す視察先まで、行けども行けども見渡す限り畑や牧場で全くの農村地帯である。産業としては農業と林業、そしてその加工産業、それらに関わるサービス業しかあるまいと思われる。

 非常に印象的なのは川の水が実に豊かでまさに満々とたたえている。恐らくは上流側に深い森林があるに違いないと考えられた。

 二日目の夜も同じレストランで食事した。それにしても二夜とも何とにぎわっていたことだろう。村の人たちと思われる大勢の男女のお年寄り、若者が思い思いにカウンターに寄りかかったり、座ったりしてにぎやかに楽しそうにおしゃべりしている。地元産だというワインや食事もおいしかった。

 この村は教会を中心に、通りの中側に噴水やベンチなどがあって両側歩いても十分もあれば尽きるような小さな村であった。そしてその後ドイツでも、スイスでも私たちが訪問した農村地帯の村々はこじんまりした美しい教会、ブルワリーや良いレストランがあったりして落ち着いた町のたたずまいは都会よりもはるかに魅力的だった。

 わが大隅地域でも、町々の衰退が著しい。大きくなくても良い、こじんまりした住み良く生き生きした町並み・生活環境の再構築は可能なのだろうか。

 我が国は国土の三分の二が森林であり、森林率は先進国中最大である。ヨーロッパなどに比べても比較にならない森林大国であり、森林の有り様や活用は私たちの生活に大きな影響を与える。

 ヨーロッパで林業が農業とともに、人々に仕事を与え地方の活性化を担い、ひいては国富を生む元になっている。

 一方、我が国林業は多大な国費や公費を使いながらなお、とても地域経済に貢献しているとはいえない現状である。このままでは地方の町々は永遠に復活の道筋が立たないではないか。

 ヨーロッパと我が国と、この違いはいったい何なのだろう。

(代表取締役 佐々木幸久)