【連載】国産木材・林業との歩み(第四回)

規格・基準について

建材試験センター「建材試験情報」2013年6月号掲載


規格、基準の有用性

 我が国ではすべての主要な材料について細密な規格や基準が整備されていますので、定められた基準通りに施工すれば、必要とする性能が均一に得られる点でこれは大したことだと思います。

 我が国は世界に冠たる地震国ですが、地震の割には被害が少ないといわれるのは職人たちの手抜きをしない仕事と、精緻な規格、基準があるからでしょう。そのことを理解した上で、あえて問題点を一、二あげてみます。

 

「規格遵守」が隠れみの?

 ヒノキ心材はさまざまな樹種の中でも、比較的耐久性に優れた木材として「耐久性区分D-1」と区分けされています。土台という最も劣化しやすい部位であっても、防腐防蟻処理なしで住宅性能表示耐久性能基準等級3 と位置づけられています。

 しかし、2013 年2 月号の本欄で紹介したように、経験的にヒノキの耐久性能に対する疑問をはっきり表明する人たちもいます。このことをある有力な住宅関係者に紹介して、ヒノキ土台にも念のために防腐防蟻処理をしたらいかがかとお勧めしたことがあります。その時のお答えが「たしかにその話は聞いたことがある。しかしお国がそれで良いと決めておられるのに、私達が異を唱えるのもなあ」ということでした。

 木材は樹種により耐久性に差があるのは間違いありません。ただ耐久性の高いとされる樹種でも、本当に何の処理もしなくて良いほどに十分な耐久性が有るのかどうかについては、否定的な試験結果もあります。規格を守ることは大事ですが、技術者が規格の存在ゆえに判断停止をしてしまっては本末転倒でしょう。

奄美試験地での劣化試験

鹿児島県、山佐木材㈱の共同試験

試験地:奄美市笠利町宇宿市有林内

樹種:リュウキュウマツ、スギ、ヒノキ

 

CLT 10年前の挫折

 山佐木材㈱でCLT の実用化に取り組んでいることは本欄で紹介しました。規格の変更や新設は建設関連では大事件であり、二十余年前大断面集成材に一定の耐火性能を認められたとき以来の大きな出来事ではないかと思われます。

 私はこのCLT が構造用として世界で初めて実用化されて間もない2000 年(平成12 年)に、オーストリアのKLH 社、グラーツ工科大学などを見学する機会に恵まれました。それはひとえに京都大学木質科学研究所小松幸平教授(当時)のおかげです。先生の人脈により視察計画ができ、親しくご案内していただいたことによりこの視察が実現しました。

 実はこの視察の3、4 年前に、集成材のパネルを使った耐力壁の商品化を目指したことがあります。ある試験機関に試験を依頼し、期待していた程度の数字上の耐力は出たのですが、構造担当者から「壊れ方がブリットルで、耐力壁として実用化するのは勧められない」との評価を受け、この時は商品化をあきらめました。しかし大型木造建築の床や壁に使う適当な材料がないものかという気持ちは続いていました。視察してこれはまさにうってつけの材料ではないかと高揚した思いでした。

 この視察が終わってすぐ、四国に油圧プレスの出物があるとの話がありました。早速この年代物のプレスを購入、整備した後、据えつけて製品の試作作りに掛かりました。材料の性能試験をすると、前の集成材パネルの時と違って荷重をかけて変形が進んでもパネルの割裂が全く起こらないのに驚きました。これこそ粘り強く安全な耐力壁や床ができると大いに喜びました。

CLT使用例

オーストリアグラーツ工科大学実験棟

工事中(完成直前)2000年

 

 ところが世の中は甘くなくて、当時の私たちの力ではさまざまな規格、基準の厚い壁を乗り越えることができませんでした。天井材に使ったり、壁に使うときは筋かいと併用しました。あるいは法にかからない程度のミニハウスに使ったりしていました。次第にあきらめて、せっかく据え付けたプレスは、木橋や二方向ラーメンで集成材の二次接着の需要が増えたのでそちらの用途に使うことで胸をなだめた次第です。それが十年以上たって,急に日の目を見ることになったことは大変嬉しいことです。

 CLT を最初に実用化したKLH 社はグラーツ工科大学の優れた先生の指導を受けつつシステムを開発、特に国の規格成立を待つことなく、商品化し、次第に評価を高めて需要は飛躍的に伸びました。開発以来約二十年、現在では十社近いメーカーがそれぞれ専門家と共同でさまざまなタイプの製品やシステムを開発、海外にも販路を広げて、今では数百億円の生産高規模になっているようです。逆に商品にバリエーションが多すぎて、今では共通の規格、基準を作ることは難しくなっているようです。それでも事故なくきちんとした製品と技術のシステムを構築できているそれぞれの技術力や国のシステムに敬服しています。

国産CLTの使用例 校舎内部の天井
国産CLTの使用例 校舎内部の天井

 

研究成果の実用化に新しいルールを

 企業では品質確保とコスト低減などを目的としてマニュアルを作ります。これは法令ではありませんから、新しい工夫や製品が生まれれば常時迅速に改変することが、システムとして組み込まれています。

 国の規格や基準も、それが技術に関連するものである限り、不断に行われる技術の進歩や新製品の発明に応じて変化していくべきものと思います。学会をのぞくと全国各地で膨大な研究が行われていて驚きます。しかしながら(もし)創意に満ちた優れたものであっても,もしそれを実用化しようと思えば膨大なエネルギーとお金がかかる現状で、研究のための研究に終わっています。

 もし万一にも国の仕組みによって、新しい発明が起きにくい、もしくは発明されても実用化できないなど、技術革新を阻害しているようなことがあるならば、罪深いことです。何か新しい道が開けないものかと切に願っている次第です。

(代表取締役 佐々木幸久)