【連載】国産木材・林業との歩み(第三回)

木材の”強さ”について

建材試験センター「建材試験情報」2013年2月号掲載


木材に加工や建築の現場で、「木材の強さ」が話題になる時、通常は文字通り強度のことを言っているのですが、時に「耐久性」のことをさしていることがあります。腐れやシロアリに「強い」ことを、「木材は心材が強い」、「○○(の樹種)が強い」などと言っているのです。

今回は現場で言う「木材の強さ」、すなわち木材の強度と耐久性のことを述べてみます。

弱いスギを強くする

 生物材料である木材は、柔らかく若干たわみ易い(ヤング係数が低い)ものの、曲げ強さや圧縮力などは、比重の割にはかなりの性能があります。また外力が加わればある程度変形しますが、その後の復元性能が高いのが特徴です。

 この点コンクリートは、鉄筋が入ることによって強固な構造物になりますが、外力によって少しの変形が生じればひびが入り、補修が必要になる場合もあります。従って鉄筋コンクリートの建物を作るときは少しの変形も極力押さえる考え方に立たざるを得ません。

 木造建築もそれに倣っていることから,木材のたわみを極力押さえて、変形の少ない建物を作るべくさまざまな工夫が行われています。

 スギは強靱で、荷重がかかってたわんでもなかなか折れないため、足場板はスギに限るといわれます。ただ非常にたわみ易く、変形を嫌う現在の建築現場主流からは必要以上に遠ざけられ、輸入材に押されています。

 このような事情から木材(中でもスギ)を鉄や炭素繊維で補強して、たわみを押さえる試みが行われてきました。山佐木材では集成材の外層板にベイマツ(ダグラスファー)を、内層にはスギを使った「異樹種集成材」を開発しました。


異樹種集成材

 応力負担の大きい外層に強度性能の高いベイマツを、比較的少ない内層にスギを用いたのがベイマツスギ異樹種集成材です。平成10年頃中国木材社長の堀川さんから一緒に技術開発しないか、とのお申し入れをいただきました。

 一般に普及しているベイマツラミナは中径材から全量をラミナに加工しています。この中から高い品質性能を要求される異樹種用外層ラミナのみ抽出すると、心材部を含む残りの用途振り向け先がありません。従って理屈上は製作可能でも、ビジネスとしては成立しない現実がありました。

 その点同社は良質の大径材を用いて、心材部を含む中心部から平角を大量に生産しており、側材から良質ラミナのみを供給できる体制にありました。

 山佐木材としても、スギ若齢材や曲がり材の有効活用が可能と思われ、両者で取り組んできました。スタートして四年後の平成14年7月、我が国初のJAS認可を山佐木材(株)と中国木材(株)が同時取得しました。

異樹種集成材(上下各2枚がベイマツ、内層はスギ)
異樹種集成材(上下各2枚がベイマツ、内層はスギ)

 

CLT国産化の取組み

 また木材は繊維に沿って縦に使うと大変強く、横に使うと弱いのですが、これを木材の「異方性」と呼んでいます。利用の際に留意すべきことで、他の建築材料と大きく違う点です。この異方性を見事に解消したのが、繊維方向を互いに直交させて作る合板であり、そのコストパフォーマンスの高さと相まって住宅などで大量に使われています。

 この十数年ヨーロッパで急速に進展したのがCLT(CrossLaminated Timber)です。合板がかつら剥きしたベニヤ単板を使用するのに対して、こちらは製材を直交させて作っています。合板よりも幅や長さ、厚みともに大きなサイズの物が作られていて、ビルや集合住宅など、大規模な建物に使用されます。

 国内でも早急に供給体制を整えようと、「日本CLT 協会」が結成され、山佐木材も参加しています。林野庁から「木材利用技術整備等支援事業」を受託、材料性能や音響の床の性能試験など、2013年3月には成果を報告できるよう取り組んでいます。

CLTの曲げ性能試験
CLTの曲げ性能試験


耐久性の高い(強い)木材

 ヒノキは耐久性の高い木材として定評があります。劣化対策等級の中でも、ヒバやクリ、サワラなどと共に防腐処理をした物と同等の扱いをされています。

 ところが最近驚くべきことがありました。先般鹿児島県内の離島で、かなりの規模の木造工事が行われました。設計にヒノキ土台が指定されており、木工事を受注していた山佐木材は材料を準備して、加工の開始に備えておりました。

 ところが地元から「ヒノキは弱いのでスギに変更して欲しい」という強い要請があったのです。真に迫った切実なお願いであり、設計事務所さん、山佐木材も要望を受け入れざるを得ませんでした。もちろんこの時の強い、弱いは強度のことではなくて、冒頭で紹介した耐久性のことです。その地域ではこのような認識が広く普及しているのでした。

 

木造施設の耐久性

 これまでの二十数年間にかかわった施設が、さまざまな劣化による被害を受けてきました。これらの苦い体験からいくつかの原則を列記してみます。


  1. 木造施設は、保存について何の配慮もしてなければ、屋外で7 年、屋内でも厳しい条件下では10〜12年で腐朽する。
  2. 屋外施設についてはメンテナンスフリーはあり得ないと考えるべき。何年かおきの定期的なメンテナンスが必須。
  3. 浴室周り、食品加工など耐久性から見て厳しい条件の用途では、なるべく使用木材すべての防腐防蟻処理が望ましい。
  4. 事例・山佐木材所在地の温泉棟で、建築数年後にカビなどの劣化が見られたのでメンテナンス処理をした。その後10年近く経過するも、健全な状態を維持している。この時、足場代を入れて約500万円かかった。
  5. この施設で最初から1棟分の木材すべてを防腐防蟻処理していたら、概ね100 万円もあれば十分であったろう。
  6. 上記施設と同じ頃建設された他の木造温泉棟では、腐朽と蟻害により最近木造で再建されたが、解体・新設費に約2 億円かかった。
  7. 認定薬剤であっても条件下では効果があまり期待できない物がある。

(代表取締役 佐々木幸久)