【連載】国産木材・林業との歩み(第一回)

国産スギ集成材

建材試験センター「建材試験情報」2012年6月号掲載


「スギで構造材だって?」

 構造用集成材のJAS(日本農林規格)認定を受けようと思えば、まず何の樹種を使って製品を作るのか、決める必要があります。もちろんこれを一つに絞る必要はありません。現に私たちの工場でも必要に応じ、今ではベイマツ,ヒノキ,カラマツ,異樹種(ベイマツ+スギ)などの樹種でもJAS 認定を受けています。

 22 年前、私たちはまずスギ構造用集成材JAS 認定の申請をしました。その理由は鹿児島県では柱はもちろん、梁桁(横架材)にもスギをよく使っていたこと、それに輸入材のラミナを使うのは山間部を拠点とする私たちにとって取り組む意義が薄い、この2 点からでした。

 その時専門家の声として聞こえてきたのが、「スギで構造材だって?」ということでした。実はスギを使ってJAS 認定を受けたのは山佐木材が初めてでした。

 ちなみに鹿児島県内でスギをこれだけ使う理由は余りよくわかりませんが、ひとつの大きな要因としてはシロアリの存在です。スギのシロアリに対する耐性は定評があり、事実シロアリのついた現場で壁や床をはぐってみると、スギの根太などを避けて、スギ以外の構造材や広葉樹のフローリングに食害が進行しているのをよく見ます。もちろん他の材料を食べ尽くせば、最後にはスギも食害されるので、防蟻処理が必要であることは言うまでもありません。


「弱い」スギも樹齢が高まると材質も高まる

当時大学などでの材質研究は「無欠点小試験体(節・割れ等の構造上の欠点が比較的少ない小さな試験体)」を用いたものが主体で、実際の建築で必要となる実大材での材質試験は緒に就いたばかりで、データもほとんどありませんでした。宮崎大学を退官なさったばかりの中村徳孫先生に出会うことができました。その後先生には、木材工学について10年近くにわたり、一から手ほどきを受けました。工場の片隅に手作りの試験機を据え、材質試験など様々な試験をしたものです。

 スギの基準強度は他の樹種に比べても低い数字が与えられていますが、それでも当時は、スギラミナはかなりの比率で構造用としては不適合となり、他用途に転用せざるを得ませんでした。20 年が経過した今では材質で除外する比率はほぼゼロになりました。当時の試験の中で40 年生,55 年生,65 年生,80 年生について材質テストをしたことがあります。それでわかったことは、木材の年齢が高まるほど強度などの材質は飛躍的に高まることでした(図1)。我が国でも高齢級林業が定着し、樹齢100 年くらいのスギが普通に入手できるようになれば、「スギは弱い」とはいわれなくなると思います。

図1 樹齢別ヤング係数データ(山佐木材調べ 平成元年)
図1 樹齢別ヤング係数データ(山佐木材調べ 平成元年)


丸太価格の推移

 当時の丸太の価格は40年生のスギ並材で,1㎥当り3 万2千円台でした。これが現在12 ~ 13千円であり、概ね35 ~40%に下がったことになります。

 その理由の一つとして、今でこそ40年生の丸太はふんだんに入手できますが、20 年前には多くの森林がまだその樹齢に達せず、希少価値があったのでしょう。併せて我が国の経済力が高まるにつれ円レートが高まり、輸入木材の価格低下、次第に国内丸太価格も低下してきました。他産業でも厳しい円高を克服したところが生き残りました。

 従って当時スギラミナは輸入材の2 倍以上の価格になりました。このような状況下で、スギを主製品にしようとしたのは、まさにめくら蛇に怖じずでした。

 後年著名な研究者の方が、鹿児島市で講演なさった折、国産材の利用促進について関心が高まっている昨今、私たちの取組みに対し「先見の明があった」と評価して頂きましたが、実態はこのような無知からきた結果でした。


森林の持つポテンシャルをフルに活かす

 政府は「森林・林業再生プラン」の中で、「Ⅱ.めざすべき姿」を、「10年後の木材自給率50%以上」という大変意欲的な方針を立てました。

 これまで我が国木材利用は、実態においても政策的にも、極端な住宅偏重でした。このことの問題点は、山で伐採現場(写真1)を見ているとよく分かります。伐採した木材は、径級(直径)や、品質により様々な種類や品質のものがあり、住宅向けだけに用途を絞ると使えないもの、不適当なものが大量に出ます。これまでそれらは山林に放置されるケースが多く、林業経営にマイナスでしたし、林地の健全さからも困ったことでした。最悪の頃は50%近い木材が捨てられたケースも多々見られたものです。

 非住宅建築木造化への動きと、さらにエネルギー用途にも着目されるようになり、森林や木材の持つポテンシャルをもっと広く活用すべきと考えていた身として、やっと永年の胸のつかえが下りた思いです。

写真1 皆伐後の森林。現在は大幅に改善されている
写真1 皆伐後の森林。現在は大幅に改善されている


長伐期をやめて再び短伐期林業に?

 最近各地で皆伐をしないと国の数値目標を達成できないという声を聞くようになりした。皆伐は余り手間が掛からず、一度に収穫量も多いので目前のコストは安く、木材業者はつい安易にそちらにいきがちです。しかしながら伐った後のことを考えると問題があります。我が国では植林コストが海外に比べ、数倍から10 倍といわれています。この問題を解決しない限り、皆伐論は無責任といわざるを得ません。今「低コスト林業」を唱えて真剣に努力している人がいますが、まだそれは大勢になっていません。

 植えると称して伐採届けをし、伐採後仮に放置されれば行政には恐らく打つ手がありません。林業に携わる人はここをじっと我慢して,数十年後の我が国林業の成功を願い、皆伐を禁じるのが最も正しい選択肢と思われます。


長伐期林業は林業の得策になる

これまで長年スギは50年位で成長が止まるといわれ、その時点で伐採し再植林することが正しいといわれてきました。しかしそれは恐らく誤りで、各地でこれらの定説を否定する調査データが公表されています。私も100 年まで旺盛に成長している事例を見ています(写真2)。もし50年ごとに植栽、伐採を二度繰り返す場合と、100年で伐る(中間での間伐+主伐)場合との収穫量が余り変わらなければ、戦略的な方向性はおのずから定まります。先述の通り材質でも大きなメリットがあるのですから。

 ただ民間がそれまで我慢できない、自分が生きている内にもう皆伐したいという心情になるのはやむを得ません。その上であえていうのですが、行政はそれを押さえる役割に徹しなければなりません。

 林業は国家百年の大計。新たに法規制をこしらえてでも国民に我慢を強いることも有ってしかるべきと思います。持続的森林経営は先進国でしか成功していないといわれるゆえんです。

写真2 開設100周年 前田家林業所の山 
写真2 開設100周年 前田家林業所の山 

北海道道南 林齢90 ~ 92年,樹高40 ~ 45m

胸高径55 ~ 70㎝ まだ盛んに成長している

(代表取締役 佐々木幸久)