国産材の現在と将来 ~現場からの提言~

平成9年(1997年)3月15日発行「林政ジャーナル」NO.15掲載 


資源未成熟と零細経営がネック

国産材はなぜ苦しいのか。これには二つの理由があって、まずは基本的に資源の蓄積がまだまだ乏しいという構造的な問題がある。

例えば、スギのヤング係数は齢級が増すにつれて高くなり、構造用集成材の原料としては60~70年生くらいは必要だが、いまは30~35年生が大半を占めている。この点、齢級が低いというのは、国産材の大きな弱点だ。

もう一つは山元の林業も加工産業も零細だということ。これは人、モノ、カネなどの経営資源が弱体だということを意味する。

 

育林費の引き下げが必要

わが国の育林費は、ha当たり150万円という例もあるが、鹿児島では200万円くらいだろう。これを4%複利で計算すると、45年では876万円となる。収穫量を350m3とすると、立木価格は1万円とする。そうすると、4%複利で逆算すれば、育林費はha当たり60万円にしなければならない。これができれば山も加工も成り立つ。

その意味では加工と育林の連携を強め、ha当たり50~60万円の費用をかけ、30~40年で材質も良い物を収穫できるという育林手法を確立しなければならない。そうすれば必ず国産材時代が来ると思う。特に今、伐期が近づき、人件費も高いというこの時代にこそ、次代の育林手法を提言しなければならない。そうしなければ、昔、犠牲的精神で植えてもらった木を伐るだけで国産材が終わってしまう可能性がある。それについては私は非常に危機感がある。

 

克服すべき四つの課題

国産材加工面で克服すべき課題は何か。私は、

・規模拡大

・労働生産性の向上

・システムの改善

・研究開発力の向上、の四点があると思う。


まず、木材加工も林業と同じように規模拡大が必要なことは言うまでもないし、これは好むと好まざるとにかかわらず、集約化が進むと思う。

労働生産性については、アメリカやカナダと日本では労働者の働き方がまるで違う。彼らの働きぶりは猛烈で、日本人の三倍は働く。日本人は確かに残業はよくするが、同じ8時間でなら向こうとは比較にならない。輸入住宅が安いというのは労働生産性の違いもあると思う。

システムについては、時代的背景を指摘しなければならない。わが国は「物が乏しく、人手は余る」という時代が2000年も続き、「人手が足りず、物は余る」という時代はここ30年くらいにすぎない。日本の伝統技術というのは人手が十分あった時代の技術で、人件費が安く、材料は貴重で高い。そこで大いに人手をかけて、材料を大事に使い、しっかりとしたものを作った。資源を節約していたわけだが、反面、技術の習得には長期間を要した。

ところが、今は人手が足りず、物はいくらでもあるという時代になっている。そのあたりの発想の転換がまだできていない。物余り、人手不足時代に見合ったシステムを林業から住宅まで確立する必要がある。

研究開発面では、日本は各研究機関の連携がとれていない。例えば、ウェハウザー社はテクノロジーセンターという研究所を持っており、そこでは700人が働き、うち400人は研究に従事している。同社の社有林の面積は九州の全森林面積とほぼ同じ。それを対象に一貫体制で研究開発をやっているわけだ。

では九州ではどうか。まずたくさん山主がいて、行政機関も多く、意思統一がなかなかできない。研究者もたくさんいるし、各県に林業試験場もあれば工業試験場もあり、大学もそれぞれにあるが、それらが連携がとれていない。こんなことでは勝つことはできない。


新たな需要開発を

『日経ベンチャー』の今年(1996年)1月号に、2050年には住宅着工は年間42万戸になり、工務店の数は激減するという予測が出ていた。そうなると、必然的に木材業界も変革を迫られることになる。

それでアメリカの木材需要構造を調べると、約8,500万m3の木材の用途内訳は2×4住宅が全体の37%、トレーラーハウスなどの工場生産住宅が5%、非住宅建築が18%、住宅改築が22%、産業用消費が18%となっている(出典「現代アメリカの木材産業」村嶌由直著)。この非住宅が18%、改築が22%というのが日本との大きな違いだ。日本も今後はこの方面で需要開拓を図る必要がある。

住宅でも現在は木材といえば骨組みばかりだが、壁面や内装にもっと木材を使えるように技術開発やマーケティングをするべきだ。このほかに大型木造建築物や最近ブームの木橋といった非住宅分野男大きな狙い目だ。


以上、お話したことを国産材が今後取り組むべき課題としてまとめると、次のようになる。

①山林の良好な維持管理ができるシステムを確立する(林業経営規模の集約化など)

②木材加工の発展変化を踏まえた、新しい林業のコンセプトと技術を確立する(低コスト育成技術の確立など)

③日本型木材加工のあり方を確立する(労働生産性の飛躍的向上など)

④非住宅用建築物の木造化を進める

⑤研究組織の連携を進める

⑥新しいコンセプトに基づく、全体システムを構築するためにこそ補助金を有効に使う

(佐々木 幸久)

(1996年5月28日講演、文責・赤堀楠雄)