メールマガジン第79号>稲田顧問

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★【稲田顧問】タツオが行く!(第35話)

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「これまでのタツオが行く!」(リンク

35.新しい丸ビルの構造

 さて2回ばかり最近のテレワーク(ノミニケーション)の話題について書いたが、そろそろ本題の新しい丸ビルに話題を戻そうと思う。


 新しい丸ビルの構造システムをどのように考えるか、これは当時の私にとって大きな課題であったと思う。まず最初に思いついたのは、新しい丸ビルに免震構造を採用しようということであった。

 免震構造とは、建物本体と基礎構造の間に積層ゴムと呼ぶ水平方向には大変に柔らかく、鉛直方向には十分強固な構造体を挟み込むことにより、建物全体の固有周期を長期化し、地震に強い安定した建物を造る技術である。阪神淡路大震災の経験から、免震構造の大地震に対する有効性が再認識された時期でもあり、多くの研究者の目が免震構造に向けられていた。

 

 私の友人にも、以前より免震構造の研究に取り組んでいる専門家がいたので、早速超高層建物に免震構造を適用することの是非について、意見を聞くことにした。しかしその反応は否定的なものが殆どであった。

 その理由としては、

  1. 超高層建物は、免震化しなくとも既に十分長周期化がなされており、地震に対し本来強い構造である。超高層建物をさらに免震化してもメリットは少ない。
  2. 超高層は、高さと幅の比が大きく、水平変形も柱の軸変形に基づく曲げ変形の割合が大きいことから、免震化による水平変形の抑制効果は小さいのではないか。というようなことではなかったかと思う。

 いずれも尤もな意見と思われたが、私としては、それらの意見を認めたとしてもさらに免震化に拘る別の理由があった。


 それは、超高層建物では一次固有周期は確かに長周期となっており、地震に対する安全性という点では免震構造建物に比べ遜色が無いというのはその通りだと思う。しかし、超高層建物にはニ次、三次という、より高次の固有周期が存在し、それは丁度蛇がくねくね進むような形状の揺れを引き起こしている。そのような高次の揺れの周期は、通常の中低層の建物に近い周期であり、中低層建物のガタガタというような揺れを引き起こすことになる。結果として超高層建物の応答加速度は、特に低層階では、やや増大する傾向があり居住者に不安を感じさせる恐れがある。


 勿論このような揺れの程度は大したものではなく、建物の安全性を脅かすようなものでは無い。しかし、超高層建物に免震化を施すと、このガタガタという高次モードの揺れそのものが消滅してしまうのである。

 従って応答加速度も通常の超高層建物に比べかなり低いレベルに抑えられることになる。新しい丸ビルを極めて高い耐震安全性を保有するビルにするという目標から考えれば、振動モードそのものを改善する超高層建物の免震化という方向性は、21世紀最初の超高層ビルとなるであろう新しい丸ビルにとっては、正に相応しい構造形式ではないかと思えたのである。


 しかし外部の専門家への意見聴取と並行して、社内調整も進めたのであるが、そちらの方もあまり芳しいものでは無かった。

 その理由としては、

  1. 本体建物の基礎底に免震層を設置すると本体建物の周辺に免震建物が衝突しないためのクリアランスが必要となるが、そのための面積の欠損が馬鹿にならない。
  2. クリアランスの外周に頑強な土留め壁が必要となるがそれを建設するための費用が膨大となる。というようなものであった。

 私は例えば、1階床下あたりに免震層を設ければそのような問題は解決できるのではないかということを提案してみたのであるが、「地下3階まで駐車場があるので、そこまではエレベータが降りなければならないので、1階床下に免震層を設けるのは無理だ」ということで、私の提案は一蹴されてしまったのである。


 当時の状況を振り返ると、何より残念だったのは、私の提案に対し支持してくれる見方が社内外に殆ど居なかったということである。四面楚歌の状況の中で無理な提案を押し通すというのは得策では無いと判断し、免震超高層という提案はひとまず取り下げることにした。


 その後、今では免震超高層は一般的な技術となり、都市部の高級マンションではよく採用されている工法である。免震層を通過可能なエレベータも実用化されており、免震層を最下層に設けない中間層免震も当たり前の技術となっている。非常識と思われた技術がいつの間にか当たり前の技術になってしまうというのは、建築の世界ではよくあることで、それがまた建築技術の面白い所でもある。
 あと10年も経てば木造超高層も当たり前になると思えば、少し楽しくもある。

(稲田 達夫)