メールマガジン第69号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(50)

 「木材利用と防火問題と建築基準法の緩和」

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 私は先月のメルマガで、木材保存対策として「ホウ酸の防腐効力試験の中間報告」を書いた。そこで、「木材利用時に確実な保存対策を行えば、木材の長期利用は可能だ」と、「木材保存対策の基本を守ることの必要性」を述べた。

 今回は木材利用促進のもう一つのネックとされる「防火」について述べてみる。木造の防火問題は、戦争中の米軍空襲による被災体験が強く影響し、昭和25年の建築基準法の成立では「木造建築は2階建・300㎡までの個人住宅」程度と考えられていたと言って良い。その影響で「大幅に木材利用は制限」される時代が続き、何時の間にか大半の国民は「木造は火災に弱い」と思い込む様になってしまった。しかし近年は「木材も使用条件を考え工夫して使えば巾広い分野で利用は可能」と考え直され、使用基準が緩和されて来ている。その点を皆様に知って欲しい。

 

 私は建築設計士でも建築の専門家でもないが、長年にわたり木材の需要拡大をと唱えて来た者として、「木造の最新の防火対策基準は、都市部の防火規制地域内4階建木造住宅が建設可能」な状況を知ってもらいたいのである。そして「学校建築では3階建の3000㎡以内なら木造建築が許可」されるし、全国では建設事例が増えている。更に最新の木材の防火対策技術を採り入れた「1時間耐火2時間耐火の木質建材の製造供給」が始まっている。現在は最新の基準や規制をクリアーすれば「木造10階建て」も建築可能となり、今年春には、山佐木材のCLTを使って仙台市に「10階建ての高層集合住宅」(木造+鉄骨造の木造ハイブリッド構造)が建っている。

 

そこで私の知っている範囲で「木材利用上の防火問題と基準」を整理し書いている。

 建築物には「耐火建築物準耐火建築物」がある。

〇「耐火建築物」とは主要構造物が耐火構造で、一定の火災終了時まで耐えられると確認できる建物で、また延焼の恐れのある部分に防火対策が施されている建物とされている。

 耐火構造には、① 木造軸組構法の構造部分に石膏ボードで防火被覆し、その表面に木材を貼り付ける「メンブレン型耐火構造」が主である。この工法を使っての特殊建築物は防火地域内で木造共同住宅4階建が可能である。最近は1階をRC造として、25階を木造建物とする事例が都市部で増えて来ている。

② 「燃え止り型耐火構造」は、集成材等の芯部分を石膏ボードで燃止り層として囲い、その上に化粧面として木材を貼り合せ耐火構造物にする国交大臣認定制度がある。

③ 鉄骨を集成材等で被覆する事で強度性能を確保する「木質ハイブリッド構造材」で建築する国交大臣の認定制度もある。

 防火性能が耐火性能検証法で確認できれば、200㎜以上の木梁は「現し条件での利用」も可能である。中層規模の木造耐火建築物も、最上階から4階部分までを「1時間耐火基準」で建築し、その下の1~13階を「2時間耐火基準」でクリアーできれば、現在でも「木造17階建までは建築可能」な事を知って欲しい。

 

〇「準耐火建築物」は、木造でも主要構造部を準耐火構造類焼の可能性のある面側の軒裏や外壁を45分耐火条件とし、その他の面は軒裏30分と外壁30分の耐火基準とする)で建築可能である。

「木材を現し条件で使用」する時の「柱と梁の燃えしろ基準」は、昭和62に「30分の耐火基準」が発表された。そして平成12に「45分耐火基準」が追加され、更に平成27に「1時間耐火」も発表された。(「燃えしろ設計」とは、部材表面から燃えしろ寸法を除いた残存断面で許容応力度計算を行い、火災時の倒壊防止に構造計算上支障が無いと確認する設計方法) 

※柱と梁の「燃えしろ値」太くて厚い木材を使う事で、耐火建築材として使用可)

 接合部のボルト等の被覆に木材の使用は可能である。耐火被覆は石膏ボードが一般的だが、「木材の燃えしろ設計」の応用例が近年増えている。

 他にも「大臣認定による準耐火構造の認定制度」がある。防火制限のある市街地にログハウス等が建っているのは、特別に大臣認定を受けた建築物件である。 

 

 建築基準法の木材利用制限は年々緩和されて来たが、更に昨年、平成306月に大幅な緩和方針が公布され、令和16月から施行された。

  従来は「防火への心配から木材使用が制限」されていた訳だが、今回の法改正では「緩和の表現はなく、合理化の単語」が使われている。今まで「木材利用に厳し過ぎたが、基準を明確にして木材利用方法が合理化された」と言う事になる。

 

今回の建築基準法の改正の要点は

    「木造建築物等の制限の合理化」で中層の木造共同住宅等の基準が改善され、防火対策の改修や建替を促進する事になった。

イ)耐火構造物としなくとも良い木造建築物の範囲を、従来の「高さ13M以下で、軒高9M以下」から「16M以下、かつ階数3以下」へと条件緩和された。

「高さ16Mまでの4階建て中層木造建築が建設可能」となったのだ。

ロ)「木材の現し使用で、耐火構造が建築可能」となった。

ハ)防火地域や準防火地域内では高い延焼防止基準が求められてきたが、建物内部の壁や柱等に木材利用が可能となる基準に見直され、「木造建築でも、燃えしろ設計で採用できる木造壁が可能となった。今までは建物の各階層合計の1000㎡以内毎に防火壁が必要だったが、今後は1000㎡以内の床面積なら上下両面に防火材を貼る「広い防火木床の採用」が可能となった。

②「密集市街地の解消等」を目指し既存の不適格建築物の指導条項が整理され、木造密集地域での安全性の確保や指導が行われ易く改正された。防火地域・準防火地域内では従来は耐火建築物だけ建蔽率10%が緩和されたが、今後は準防火地区の準耐火建築物(木造も可)も建蔽率が10%緩和され、市街地の安全確保策が進め易くなった。

    既存の「床面積200㎡未満で、階層3以下の戸建て住宅」を、福祉施設商業施設等へ用途変更する場合は、「3階に火災警報装置を設置し、また階段の安全区画を措置し、在館者が迅速に避難できる対策を取ると、改築再利用が可能となった。用途変更時の建築確認申請の上限が100㎡から200㎡へ緩和された。

今回の改正は増え続ける木造空家の利用緩和策と考えられる。

 

 従来は「中層建築物の壁・柱等は全て耐火構造(両面を石膏ボード等で被覆)が条件」だったが、「通常よりも太くて厚い木材を使うことで、火災時でも燃え残り層で構造耐力が維持でき、延焼範囲を限定できる防火壁を設置する」ことで、木材の利用促進が図られ設計の自由度が拡大された。

 

 20214月からは入札契約が改正され、「著しく短い工期」が制限される。今後は「施工期間の平準化の努力義務」も課され、年度末の工期の集中が見直され事が期待できる。また建設業登録の許可要件に社会保険の加入が条件付けられた。21年度の技術検定試験からは、学科試験と実地試験に分けられ、「第一次検定(学科)」に合格すれば「技師補」が新しく付与される。次に「第二次検定(実地)」試験へと2段階制へ改正される。若手に中間資格を付与する改善で、建設業界にとっては過去の習慣からの大きな転換となる。

 

 戦後は防火・防災面から「木材は火に弱い」と思われ、建築用の木材は利用が制限された「不遇時代」が長く続いた。耐火性能の確認と実験が積み重ねられた結果、性能基準の規定や建築基準法の見直しが進み、国の政策は「木材利用の推奨時代」へ転換を始めている。しかし長年にわたり木材の防火規制が厳しかった制限の影響から、国民の意識が完全に変わるまでには未だ相当な時間が掛かるだろう。新しい防火基準と木材の活用方法が、国民の常識になる日が早く来る様に繰り返し啓蒙と広報活動が必要である。

 

 平成22年(2010年)に公共建築物木造化推進法が制定され、「公共建築物はほとんどを木造化する」と既定された。しかし現実は「ほとんどを」との言葉通りには至っていない。来年の東京オリンピックのメイン会場となる東京千駄ヶ谷の「新国立競技場」には大量の木材が利用されている。私は工事中の現場を眺めたが「戦後長く続いた、『鉄筋コンクリート造建物が出来たら、近代的な建築物が建てられた』と表現した偏り過ぎた国民の常識」が、今度のオリンピック開催を機に一転する事を期待したいものである。

 私は「木造消防署の訪問見学レポート」を度々書いているが、「消防署が木造で建設できる事を日本人の多くに知ってもらう事で、『木造建築物の防火対策は管理運用次第であって、火災と木造建築は無縁である』事を知ってもらいたい」から報告記を書いているのだ。

 これからは人工知能やAI5G等のテクノロジーが発達するにつれて、「人間が持っている動物的な本能が、もっと居心地の良い素材を求める時代になる」と言われる。そうなると木材の本物の良さが見直される時代が来ると期待している。

 

 わが国の森林所有者は均等相続制度が大きく影響し、小規模所有者が多くなり集約化され難い状況にある。そのため生産性が低くなり森林経営に関心を持たない森林所有者が急増している。結果として適切に管理なされない放置森林が多くなり、伐採後に植林されない山林が増えている。山の生産性向上には作業現場の大規模経営と機械化と効率化が求められるが、まずは森林管理面積を集約し如何にまとまった規模にするかが課題と言える。今後林業を活性化するには、国際競争力の強化と需要拡大と付加価値の向上が絶対条件である。

 課題に対処するため、20194月から森林経営管理法が施行された。

2024年から「森林整備の新制度」として、これからは「国民の住民税に年間1000円が上乗せされ、国庫へ徴収」される。その先行策として今年から5年間は、国から各市町村へ、私有林面積や人口割合及び林業従事者数等の基準数を基にして計算され、「森林環境譲与税」が地方へ還付される制度が始まった。還付金は森林整備費用や林道造成費、林材業の人材育成の費用、木材の需要拡大政策費等として使われることになっている。

 

 近年バイオマス発電が注目されて来ている。バイオマス発電で、海外流出していた化石燃料の輸入費用が、国内の特に地方の林業分野へ金が回る意味は大きく、地方創生の観点からも大きな期待が寄せられる。しかし4050年も人手を掛け育てた人工林の一部の利用状況は、「本当にこれで森林活用と言えるのか」ともう一度考えて欲しいと思う現場がある。

支障木の有効活用だけなら全く問題無いが、バイオ発電の現場を見ると「太くて通直な、用材として使える木材まで、バイオ発電用の燃料として使われている。燃やすだけの役目で終わらせて良いものか」と疑問を感じさせる。

 

 2041年に「高さ350M70階建の木造超高層建築物を東京丸の内地区」に完成させたいと、「住友林業が創業350周年に合わせて、W350計画」を発表したが、木造見直しの時代の象徴的な計画と言える。ビル内部には店舗やオフィス・ホテル・住宅等が入居するそうだが、内装材には木材と木質建材が大量に使われる計画だから、既存の「鉄とコンクリートのビル」とは雰囲気も居住性も大きく変わるだろう。構造材は「木質建材と鉄骨材が91のハイブリッド造の計画」と聞くので、「木造建築物と表現」しても差し支えないだろう。世界的にも例を見ない計画だけに一般の人達には奇想天外と思えるかもしれないが、「環境木化都市の実現を」との夢に、国民の一人として私は大いに期待したい。(現在日本一高いビルの大阪市阿倍野区「あべのハルカス」は、高さ300Mで地上60階建の鉄筋コンクリート造である。)

 

 木材の強さや固さや弾力性及び耐久性は、項目的には人工の建築資材に劣るが、「木材は比重に対する強さ等、総合的には優れた素材」である。特に室内環境の調質機能が優れていて、人間の住む環境造りには人工素材は未だ木材には遠く及ばないと言われる。更に都市に木造建築物を造る事は「CO2の固定化で地球の温暖化防止に貢献し、都市に第二の森の機能を創造する」事になる。木造建築物を高層化する事は「都心に大きな森を育てる」事に繋がり、「森林とは縁遠いと思われていた大都市に、新しい森を造る活動」が始まる訳だ。

 「火事になったら、どうするのだ!」と、過去の常識に捕らわれた人達は心配するかもしれない。しかし「今から22年後の2041年には、更なる国産材活用の技術が開発されるから、サスティナブルな建築の夢は可能」と信じたい。「木材の良さを判らせる最高最大のモデル」となるのは間違いないし「日本林材業の大転換に繋がる夢を追って欲しい」と応援したいものだ。また「日本には何かと対抗心を燃やす中国が、住友林業の計画に続いて取り組むなら、再生可能資源での世界的な活用競争」に繋がると期待できるし、当に言う事無しと考える。

 

 日本の子供達に「森の木を切る事の是非」を聞くと、「良くない」と答える子供が多いのが現実だ。林業の盛んな北欧の子供達に同じ質問をすると、「良い事だ。素晴らしい地域の仕事だ」と答えるそうだ。

 「守り育てるべき森を不法伐採している」との考え方と、「伐採と植林を繰り返すことで再生可能資源の木材を活用する産業」との違いを、しっかりと子供達に理解させている差と考える。子供教育の前に、まずは大人達が学び直すことが重要である。今後どのようにして「人間が木や森と両立して行くか」を、未来を担う日本の子供達に伝える教育は重要である。

 

 約30年前の話になるが「使い捨ての木の箸を使うことは環境破壊につながる。スプーンや樹脂製のマイ箸を持参し使う運動が推奨された時代」が有ったが、その考え方を先導した我が国の報道関係者には十分に反省してもらいたい。そして過去の扇動の影響を取り戻して貰いたいと願うものである。森林環境税を有効に活用することで、これから森林の長期的恩恵を受ける子供達に、未来への投資として森林資源と木材の有効活用を考えなければならない。

 「都市部では木材利用の規制緩和を進め、山林側では機械化林業の導入で労働環境を改善させ生産性を向上させて、林業を成長産業へと転換」させる。「都会と地方間で、森林環境税で総額600億円の資金が、有効に回るシステム」を造り上げる必要がある。

 

 最後に、私は建築関係の専門家ではないので、私の今回の提案の詳細部分については、より専門的知識を持つ人達に確認される事をお勧めします。 

 (西園)