メールマガジン第50号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(32)

 「完成!3階建木造庁舎 小林市役所」

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 9月末、小林市役所前を通った時に木造庁舎が新しく完成しているのに気付いた。しかし夕方5時前で雨も降っていたので、次の機会に改めて訪ねて見学する事にした。

 高校時代の友人の中山成彬君が総選挙で代議士に復活当選したので、10月24日宮崎市での会合に同席した翌朝に小林市役所を見学したので報告記を書く。

 

 新庁舎は2棟が別棟で建築されていて、行政棟の4階建5010㎡の構造はSRC造だが、内装は純木造と思う程ふんだんに上手に木材が使われている。隣接して建つ3階建の議会棟1994㎡の構造材には中断面集成材が採用されて、在来木造工法で建設されている。

 大型の木造行政庁舎が宮崎県内で建設されるのは、平成に入ってからは初めてと聞くので、もっと話題になっても良いのではと思った。(2階建てまでの学校や保育園、介護施設等の木造化は、最近では当たり前と考えられるまでになって来たが、3階建木造庁舎はまだ珍しい。)

 鹿児島県で平成に入ってからの木造庁舎は4年前に霧島市横川支所で、大断面集成材と樹齢100年超えの大径杉丸太を魅せる建物が建ったが、規模は平屋造り約698㎡と小さかった。現在屋久島町で取掛っている木造庁舎は、全体は2019年完成目標だが、2階建の事務所棟と、議会棟等は平屋4棟で設計されていて、総面積3630㎡の大規模木造庁舎の計画が進行中である。屋久杉の島らしい素晴らしい木造庁舎の完成が期待される。

 

 東日本大震災発生時に多くの行政庁舎が防災拠点となったが、小林市の旧庁舎は昭和39年のRC造建設で、老朽化が激しく現在の耐震基準にも適合していなかったため、市民の安心安全対面策からも耐震性が確保された建物への改築が喫緊の課題となっていた。

 案内の小林市建築課担当者に「木造庁舎建設の仕掛人は誰ですか」と訊ねた所、「市庁舎建設市民懇談会が設けられ、新庁舎建設基本計画の協議」を始めた。懇談会で纏めた基本コンセプトは「市民に開かれた、誰でもが使いやすい庁舎に」等と、ユニバーサルデザインに配慮すると共に、「地域産業の活性化に繋がる対策や、省エネ対策からの地球環境への配慮」、そして郷土を表現する「夷守の森のイメージ」に合致する庁舎を目指す事となり、「木の香りあふれる小林市産材を使用した庁舎」が提案された。

 

 地元産材を活かしての木造建築が提案された時に、肥後正弘市長が市民の要望に賛同して積極的に推進した事で木造庁舎が実現する事となった。議会棟の木造3階建の庁舎建築は未だ全国的にも珍しく、他に先駆けて取組み建てた事に誇りを持って説明された担当の姿が印象的だった。

 「木造庁舎にしたら感じが柔らかいと好評だ。木の香りが良くて、小林の地域特徴も表わす事も出来た」と、木造にしての満足感に溢れた答が返って来た。

 コンクリート造だった隣の旧庁舎の解体現場と見比べると、「RC造を解体し、代りに木造庁舎を建てる」と言う、今までの常識とは逆の発想で取り組んでみて、木造の美しさを活かした「日本古来の木造建築の素晴らしさに気付かされる機会」となったそうだ。

新庁舎建設基本計画に従い公募型プロポーザルが実施され、5社の提案から4社の案を専門委員会で点数評価した所、他の提案を断然引き離して梓設計九州支社案が推挙された。東京が本社の梓設計は一級建築士を300名近く抱える全国規模の設計事務所で、福岡・那覇・石垣・函館・神戸や羽田空港等と空港設計に強く、病院の設計経験も豊富で徳洲会大隅鹿屋病院も担当した事務所である。今回は特に地産材を使用した時のリスクに対しての対応案が評価されたそうだ。

 地元産業の活性化のため、施工業者は行政棟を坂下組と緒方組JVで、議会棟を坂口建設と丸山工務店JVと地元企業が選ばれた。木造建築だが耐震構造は通常時の1.5倍と、防災に強い庁舎が実現出来ている。木造3階建の議会棟には、宮崎県内企業で製造可能な中断面集成材梁を採用し、1000㎡以内に防火壁を設ける工夫を行う等、1時間耐火の燃え代設計を採用して在来工法で建てられている。

 

 耐力壁の構造チェックは東京大学稲山教授が担当され、柱が150㎜角と筋違90㎜角と貫材30×90㎜を組合せた格子状構造となっている。宮崎県木材試験場耐震強度の確認検査を行い、「小林式耐力壁」と言っても良い特別工法で建設されている。エントランスホールの壁を木製の格子組としたのは、耐震性対策だけでなく和風の外観を創り上げ、木造建物全体を引き立てる役目も兼ねている。また「木漏れ日」が何とも言えない美しさを醸し出しそうな予感がするので、小春日和には窓越しの日陰のアンジュレーションの楽しみが期待出来そうだ。

 

 「床材には地元産スギ材」が採用されていたので、私は「特別な強度補強を考えた塗装」を使っているのかと不安気に尋ねた。すると「12㎜厚スギ板材を、3㎜厚までに圧密加工する特殊加工技術を採用した。木床の傷の心配はしていない」との説明があった。

 「木材の持つ優しさの特徴を長く維持する」には、「今後の定期的メンテが重要」との担当者の説明は、当にその通りである。建物の強度や丈夫さだけを求めるなら、メンテナンスフリーの資材を選べば良いだろう。しかし「今回、人に優しい木材を選んだからには、木材の美しさを次世代まで維持し続けるため、定期的なメンテナンスを計画的に実施して行く」事が、建物の維持管理の根本的課題と言える。その対策に先手を打った管理方針に取り組まれた小林市建築課の対応には教えられる事が多そうだ。

 

 

 木造3階建の議会棟の1階には、高齢者が訪れる機会が多い部署の長寿介護課と福祉課が配置される等と市民への気使いが感じられる。又2~3階の市議会議場は吹き抜け構造となっていて、高い天井は木格子を組んだ設計と間接照明が取り入れられて、議場全体が柔らかい雰囲気に包まれている。議員席や議長席及び執行部席も木製家具で誂えられ、中央の発言者用演台は一般的な合板張りではなく、特注木製品を採用した事で重厚感がある。原稿を乗せる台も木製で供えられ、小林市の「木へのこだわり」に感心させられ、良い雰囲気の議場が準備されると議事討論も市民想いのものとなると期待する。

 また木製階段は下からも見通せる吹き抜け設計が採られた事で、建物に広がりと開放感を感じさせ、エレベーター枠も木製に拘っていた。建物内に配置された木製椅子等も周りの木材利用に合わせたデザインが採用されていたが、建物への徹底した木材利用とは少し異質な感じのするベンチ等が一部で目に付いた事が、私には惜しいかなと思われた。

 

 

 新庁舎は今年8月14日に仮開庁されたが、隣のRC造旧庁舎の解体作業が11月まで掛るそうで、その後に周辺駐車場等の整備を行い、庁舎のグランドオープンは平成30年3月24日との事だ。全体の工事が完了すれば、もっと木造庁舎の美しさが楽しめるだろうと期待する。工事全体が完成した暁には是非とも多くの人に足を運んでもらい、小林市の木造庁舎の話題を、日本全国へ広めて欲しいものだ。

 最後に私が「参考にしたいので、木造庁舎建設や仮開庁等を紹介した新聞記事コピー等を頂けませんか」とお願いした所、テレビ局は取材に来て放映されたが、新聞社は宮崎日日新聞も南日本新聞も未だ掲載していないとの事だ。地場産業の振興と地材地消に取組み、南九州地区では地場産材を活用した珍しい木造3階建市役所の庁舎だけに、もっと他の市町村へ刺激を与えるためにも採り上げて紹介して貰いたいと思った。

 

 

 小林市役所近くのカクイックスウィング小林店は、8年前(2009年)に山佐木材で製造の大断面集成材を、梁材に使って木造2階建店舗が建設されている。「12M長の大断面集成梁材を使えば、中間柱の無い広い店舗建設が出来る」と当時も注目されたが、今回の小林市役所の大型木造3階建庁舎の建設を知って、「小林営業所は時代を先取りした建築だった」と職員達にも改めて気付いてもらえた様だ。街全体に木材利用の雰囲気を盛上げるには、周辺に同じコンセプトの建物が増える事が重要だ。「小林は昔から、モミ板を中心とした木材産業が盛んだったが、木造が似合う街だ」と話題にして欲しいものだ。

 ただ残念に思うのは、近くに建つ83年前(昭和9年)に建設された旧小林小学校の木造講堂で、長年に亘り公民館や展示会場等としても活用されて来た「みどり会館」が、近々解体されるとの噂を聞くのは残念と思った。「小林は木材の街だった歴史」を思い出させるレジェンドと言える遺産価値の高い建物だけに、重要文化財として申請すれば承認確実と言われる物件だと思う。「貴重な遺産を、何とか残せないものか」との意見は多いし、都会の知恵を借りて、企業のブランチオフィイス等での活用が出来れば、企業誘致にも活用できるし話題となるのは間違いないだろう。

 所で、屋外に「木製受水槽」が出来ていると後から知った。珍しい木製施設なので再度訪ねて確認したいと考えている。 

 (西園)