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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(15) 

 我が国林業七不思議(総まとめ)

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 これまで我が国林業の様々な課題を8回に渡って述べてきました。掲載中に特に直接何かの反論や賛同はありませんでしたが、面談の最中に「何でカナダの育林費はそんなに安いんですかね」とか、「やっぱり長伐期の方が良いのかなあ」というような話題がひょこっと出て、案外に読んでいる人がいたのだろうと思いました。

 今回はこれまでの総まとめをして、この林業七不思議シリーズをひとまず閉じることにします。


1.最近大径材が増え、用途が無く価格が安いと言われるようになった。これを原因の一つとして、「早期に皆伐して再造林すべき」という意見が主流になったと考えられる。

 ただ大径材になるのは林業のためには本来喜ぶべき事であって、他の林業先進国では如何に効率的に大径材にするかに知恵を絞っている。

 

 2.なぜ大径材が林業にとって喜ぶべき事なのか。それは次の理由による。

 大径材になれば伐採コストが劇的に下がる。人吉市泉林業故泉忠義社長は、「単木材積1m3以上なら伐採コストは、現場から製材工場までの運搬を含めて、1m3当り2500円程度で出来る」と言っておられた。

 製材においても大径材は歩留まり、生産性など有利になる。

 

 今その優位性がなかなか見えづらいのは、長らく大径材が手に入らず取り扱う体験がないからだ。

 製材はかつて植林した森林が育ってきた過程を追ってきている。植林後間もない時期の、出材が小径材中心の頃は小径材製材が一世を風靡していたし、森林が次第に育ってくると、中目材に適した製材工場が次第に出来てきた。今森林が大径化してきたのが事実ならば、加工はその体制に移るべきである。

 

3.大径材は本当にそれほど安定した供給体制にあるのだろうか。取引圏内で数万m3以上の供給が出来るのであれば、工場の事業性は高く経済的に工場立地が可能だろう。

 この件に関して曽於地区堂園森林組合長は「もはや伐採する材の3分の1は大径材である」という。もしそれが事実ならば林業の大問題として言われているこの課題の解決法はそんなに困難なことではなく、大径材専門の製材工場を作ればよい、ということになる。

 

4.儲かる林業を実現するためにどの程度の大径材に仕立てるのが適当だろうか。欧米、ニュージーランドでは長伐期か短伐期かの施業に関わらず、単木材積3m3前後を目処にしているようである。我が国でそこまで行くには時間がかかるし、一足飛びでは作業路や林業機械、製材工場などのインフラが追随できない。まずは泉さんが身を以て実証された畢生の至言である「単木材積1m3以上」程度を目指すべきだろう。

 そして単木材積が小さいとき、大きいときの伐採コストを検証し、単木材積ごとの伐採歩掛かり表を作る必要がある。

 

5.単木材積1m3の場合に伐採・運搬コストが2500円で出来るならば、製材工場着値12000円として、立木代9500円が確保できる。1ha500m3以上の蓄積があれば、皆伐時山元収入1ha当り500万円が実現出来る。

 とすれば林業経営のあり方を根本的に見直すべきであって、「単木材積1m3を早期に実現できる林業」という指針に切り替えるべきである。

 

6.現在「伐期が来ている」と言われる森林は、その殆どが植栽時1ha当り3000本植えている。普通除伐を1~2回、間伐を3回程度は行っているはずで、残存本数は900~1000本くらいだろう。蓄積量は成長の良い山で600m3、余り良くなければ300m3程度だろうか。とすれば単木材積は0.3~0.6m3程度で、これでは伐採コストは下がらないので十分な林業所得を得られない。

 あと2回から3回間伐、もしくは択抜を行うのが良いだろう。それでも成長の良い山では今でも立木の中には単木材積1m3に近いものがあるかもしれない。現時点では大径材が安いこともあり、択抜の際にはそちらを優先して行えば良いだろう。単木材積別歩掛かり表があれば、伐採コストは下がり、材積は上がるので皆伐前にも多くの間伐収入が確保できる。

 優勢木に被圧されて成長が遅れていた劣勢木(決して品質が劣等なのではない)も、間伐後鬱閉(うっぺい:木と木とが接しあって隙間がなくなる)が解ければ、また盛んに成長するだろう。ちなみに樹木は、90年、100年位までは適切な密度管理を行えば、十分旺盛な成長活動を続けるようである。

 

7.鹿児島県は皆伐後の再造林率が全国でも最も低い地域の一つと言われている。聞けば再造林そのものは年々増加しているのだが、皆伐の進行が余りに早く、結果的に再造林率が低位になってしまったらしい。

 再造林のためには膨大なお金と多大な人的エネルギーが必要である。戦後でも最高レベルの人手不足の時代に入っている現在、大々的な再造林事業は時代に合わない。

 我が国再造林費は現在非常に高く、国際的に見て10倍ほどの水準にある。これでは皆伐するたびに膨大な国公費を消尽することになる。

 しかも再造林後のシカ害がひどいと聞く。不利なことの多い皆伐をなぜにこのように行うのか。

 

8.それには少子化、さらには中山間地過疎の問題があると考えられる。後継者のいない(いても山を見向きもしない現状)高齢山主は一時も早く皆伐して、一時の資金を得たい。若いとき汗を流して造林した苦労を考えるとそれもやむを得ないことである。しかし治山治水は国家百年の大計、これを矛盾なく正す必要がある。

 

9.伐採するときは必ず市町村に届けることになっている。ただ届けを受け取るのみでなく、窓口では是非長伐期施業を勧めて欲しいが、後継者がいなければ同意しないだろう。その場合皆伐するのでなく底地ごと森林を一旦町が買い取るのである。そのあとは公有林にするのが最も好ましいが、一定以上の面積に集約したあと、ファンドや森林組合、林業経営に意欲のある事業体がこれを買い取り、長期に収益の上がる合理的森林経営を行えばよい。よほど林業に不適の山以外は、必ず収益を上げられると考えている。

 立木の蓄積量や森林面積などの基準を作り、売買共に納得性の高い公正で適正な価格で取引する。

「林業構造改善」という林業振興の施策があるが、林地集約が究極の林業構造改善であり、集約した森林において林業経営のプロが専門的な儲かる林業経営を行う。零細な森林に補助金頼みの経営が事態をここまで悪化させたという要素もある。森林の集約が成ったあとは補助事業の多くが無用のことになるだろう。

 

10.それでも様々な理由から皆伐せざるを得ないこともあるだろう。

 我が国では再造林に要する費用は、7項で述べたように国際水準に比べて一桁高い。これを解消しない限り、林業は永遠の金食い虫と言われるに違いない。

 「林業は成長産業」との評価を本物にするためにも、当面まずは現行の三分の一程度を目指すべきだろう。それが実現すれば、短伐期での林業経営も、長伐期林業と並行して高収益を確保できるようになる。

 (代表取締役 佐々木 幸久)