メールマガジン第44号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(26)

  「大径材が安い現状をこのまま放置して良いのか」

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 1995年(平成7年)まで私は木材関連業務に関係していた。故有って海運業や福祉用具業界等へ転職し、70才を期にサラリーマン生活を引退した所で、20年ぶりに木材業界と再度縁が出来た。その時に業界の変化に驚かされた問題のなかで、最も理解し難かったのが「40㎝上の大径材の価格急落の現実」である。

 

 長さ4Mの木材丸太の径級別市場価格推移表(鹿児島県森連隼人市場から拝借)を見ると、私が木材業界に未だ在席していた1995年が平成時代の丸太価格のピークで、その後の木材相場は低下し続け、2015年の丸太相場は平均53%まで低下している。

 

鹿児島県森林組合連合会作成の価格推移表よりグラフ化

 

 径級別丸太相場の変遷を更に細かに点検すると、「木材業界の全般的な不況問題よりも、更に深刻な問題」が隠されている。それが「大径材の価格低迷」と思う。

「20年振りに木材界へ復帰した者」から見て、「大径材のあまりにも激しい価格低下の問題を早く解決しないと、日本林業は立ち行かなくなるのでは!」と思い、多くの業界関係者へ質問してみた。所が大半の業界関係者からは、「君の指摘通りだが、しかし市場価格の低迷だから。手の打ちようが無い!」との諦めに近い回答が多いのに、私は歯痒い思いがしてならない。

 

 別表添付データを見ると、1995年の相場平均に比べて20年後の2015年相場は、「径級18~22㎝の丸太」は㎥当@12,000で58%へ下落している。「径級30~38㎝の丸太」は㎥当@11,000で36%へ。何と「径級40㎝上の丸太」は㎥当@9,800円で18%へと驚くべき値下りである。更に「径級18~22㎝の丸太@」に比べて、「径級40㎝上の丸太」の㎥当@比では1995年は262%高なのに、2015年は逆に82%までへと暴落している。

 また「径級40㎝以上の曲材価格」は、径級14㎝の丸太価格よりも安いだけでなく、バイオマス燃料向けの素材並みである。林材業界以外の一般国民からすれば、この様な丸太価格の急落への対策が遅れている実態を見て、「業界や行政は何故ここまで放置したのか!成果が出ない対策は、後手を踏んで来たと言われても止むを得ないのでは!」と驚かれる問題だ。

 

 我が国の人工造林地の5年毎樹令階級別蓄積量は、若令級から階級樹齢を経るごとに段々と多くなり、「10令階級(45~50年生)がピーク」となっている。そして人工林の年間成長量の半分も伐採されておらず、このままでは今後ますます樹令階級別表は高くなる事は必定である。山林は50年生を越えれば、径級40㎝上の丸太割合が高くなるのは自然の理で、現在の丸太相場は「山の再造林費用の確保さへ困難だ」と言われている。伐採時期が遅くなると、丸太の平均径級は更に大きくなるだけでなく、近年の大径材の丸太価格相場は年々低下しているから、今のままでは「山の総生産価値」も、年期が経つほどに下がるのではと心配される。

 山の生産量に見合うだけの木材需要量の拡大が難しい現状では、「山の木」は切るにも切れずに更に太って、㎥当@も山林価値も低下する悪循環となっている。切り時を過ぎれば更に丸太相場の低下を招く恐れが高いからと言って、伐採を先延ばしすれば大径材の㎥当@は低下する事になり、山の総体評価が低くなるのでは困る。

 

 現在でも「緑の羽根の募金等では、植林事業へ協力したいとの国民的理解」は浸透しているだけに、植林する以上に重要問題である「木材需要拡大への理解と協力」を呼び掛ければ、新しい動きも期待出来るのではと考えたい。少なくとも10年昔までは、大径材は中径材よりも、㎥当@では幾らかでも高かったから、市況が悪い時は需要状況を見乍ら伐採の先延ばしも可能だった。所が最近では価格は横並びではなく、大径材の方が安い取引価格となっている。だから伐採を先延ばしするほどに山林所有価値が低下する状態となっている。大径材になる前にと伐採量を増やしたら、丸太の需給バランスを乱す結果となり、市場売買相場を更に押し下げる。現状では需給量と丸太の相場との調整を考えると言う「計画的な山林経営は出来ない」状況にまで追い込まれていると言える。

 

 「昔は大径材価格は高かったのに、現在は何故に中径材よりも安くなったのか」の根本原因を早急に解明しないと、山林経営の根本的課題は解決出来ない。

 多くの業界人が急落理由として話すのは、「住宅の建築工法が変化し、大径材の需要が減ったから。」と説明する。そして「10年昔までは市場を占めていた中径材の量に適する製材の量産化工場ラインとなっていたため、逆に現在求められている大径丸太材を効率良く製材が出来る設備ラインになっていない。だから大径丸太は敬遠される事となり、需給バランスが崩れ入札価格が安くなっている。」と話してくれる。

 大径丸太だからと言って製材歩留が低下する訳ではないし、製材ラインの中に大割台車の設備を適切に整備出来さえすれば、生産性も落ちないはずだ。歩留りと生産性が問題なければ、少なくとも大径丸太の相場が安くなる理由は無くなる。国の生産設備の改善対策助成金制度を更に使い易くし、一日も早く大径材の大割設備機械を整備させるのが手っ取り早い解決策だと考える。

 

 我が国の環境問題では「二酸化炭素削減対策としては、若令級山林の成長に伴うCO2の吸収量の増大に依存」して来た。しかし樹齢80年生以上の老齢林になると、二酸化炭素の吸収量の増加は殆ど期待出来なくなる。それは、樹木が枝葉を落とし腐る過程で温室効果ガスを発生させ、森林の二酸化炭素の量的吸収力を相殺してしまうからである。森林の伐採時期を先延ばしする政策は、環境問題からは「解決の先送り」に過ぎず、山林の総体価値を減少させ、地球温暖化対策からも大径材の利用拡大対策は喫緊の課題なのである。

 輸入丸太からの製材品で数多く使われている大径の梁桁材を、「国産材の利用拡大へ転換」させる事は、我が国の山林管理からは重要課題であり、特に九州地区では政策的に梁桁用国産杉材の需要拡大に取り組む必要が有る。

 

 原発反対運動の影響から、石油石炭等の化石燃料利用型発電を一時的に増加させている現状を早く解消する事も重要で、森林の特性を活かしての二酸化炭素削減対策からも、国産材の大径材活用政策を進める必要が有るのだ。簡単に国の制度を転換さる事は難しいからこそ、最も問題解決に近い立場に居る業界関係者は、国民の支持を得られる様な根本的な解決策を考え、国へ提案し実行させる責任が有る。大径材活用を推進する責任は社会的にも重要なのである。

 

 製材品そのままでは乾燥等の品質管理が難しい梁桁材の利用だけでなく、他の新しい分野での需要拡大も図る必要がある。一般的な柱や小割製材品の利用促進と並行して、「高品質を確保し易い、集成材や2×4用のコア材等の生産性」を高め、製造原価も低下させる改善策を押し進める事で、少なくとも中径材よりも大径材が安い現状の解消に取り組む必要がある。

 また「木造はRC造よりも建築物の軽量化が図れる」可能性が大きい事に注目し、「工場内でのプレカット加工による、建設現場の工程簡素化とコスト削減」も期待される。更に高層建築物の壁や床材への利用拡大が話題となっている「高次加工木材製品CLTの利用促進と普及」への期待も大きい。屋外木製品の利用途拡大や土木資材での活用による需要拡大策を進めるには、木材の弱点と言われる「防火対策と木材腐朽と防蟻対策への根本的な取組み」も重要である。そのことが大径材の利用拡大の課題解決へ繋がると提案する。

(西園)