メールマガジン第44号>社長連載

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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(11) 

 「我が国林業七不思議(解題編)

        同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?」

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私が思う「我が国林業七不思議」

  • 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?
  • 不思議その2.山元収益が確保できるくらいに丸太価格を上げられないの?
  • 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?
  • 不思議その4.同じ山を長伐期、短伐期と簡単に切り替えられるものなの?
  • 不思議その5.他の林業国ではなぜ再造林コストが20万円以下なの?
  • 不思議その6.他の林業国ではなぜ伐採費が2000円以下なの?
  • 不思議その7.なぜ我が国で他の林業国並の低コスト林業が出来ないの?

様々な国の林業を視察

 私はこれまで二十余年の中で林業国と言われるいくつかの国々を見てきました。製材、集成材などの工場も、自らの本業であり興味深く視察、随分参考にもなりました。同時にその国の林業についても見学できる時はお願いしましたが、その国独自の林業手法もひときわ興味深く楽しいでした。

 

長伐期林業

 こうして視察してきた中には120年法正林が全国的に成立している、極めつきの「長伐期林業」を実現しているドイツがあります。文化の成熟度が高く、歴史的建造物を含む多彩な木造建築が豊かなドイツが、高齢級材生産を志向する長伐期林業を選択したのは何となく納得しました。総じてヨーロッパは長伐期施業が多いようです。それでも欧州内で気候風土に大きな差があるので、一律ではありません。

 

短伐期林業

 一方25年から30年という極めつきの「短伐期林業」を実現しているニュージーランドもあります。伐期50~60年のアメリカ北部、カナダの林業も短伐期林業の範疇に入るように思われます。

 ニュージーランド林業については、本メルマガ「ニュージーランド再訪記」、アーカイブス「ニュージーランド視察記」も参照して下さい。

 ニュージーランドは酪農や畜産が非常に盛んです。これらの多くは非常に大規模な近代産業であり、国際的な競争力を持っています。

 林業はこれら酪農や畜産と土地利用についても競争環境にあります。投下資本に対して相応の配当ができなければ、収益性の高い方に資本や土地利用が流れる可能性があります。

 

国の置かれた条件で作られる林業体系

 いずれもそれぞれの国の国土や気象条件や文化、経済を背景にその国独自の林業体系を編み出していて、それを全国的に普及させています。こうして林業や木材工業はその国の近代産業の一つとして、経済的にも資源自給にも国に貢献しています。 

 これらの国々を見てきた私の意見を申し上げると、「長伐期林業」と「短伐期林業」は別体系の林業であり、長伐期林業を念頭に植栽した生育途上の森林を、途中で短伐期林業に切り替えるのは不合理である、というものです。 

 木材は樹齢が高いほど材質は高まり品質が安定してきます。以前北米材の輸入からヨーロッパ材の輸入転換に関わった商社の人に聞いたことです。

 長伐期のヨーロッパ材は材質が安定していて、はね材が少ない。

 一方短伐期の北米材はどうしても一定の比率ではね材が生じる。

 北米材の場合そのはね材を引き取ってくれる存在が必要だった。

 

競争力のある林業

 林業のコストとしては伐採と再造林に要する費用が主なものであり、我が国は他の林業国が到達した低コスト体制には成功していません。短伐期施業の場合はさらにこの影響が大きく、高コスト体質の改善ができなければそもそも短伐期での林業経営は成立しません。

 

 再造林コストのことは、本連載7号9号で述べました。

 もう一つの伐採コストについては、樹木の大きさでコストが大きく異なることを8号で詳しく述べました。 

 長伐期と短伐期で最も異なるのは面積当たりの植栽本数です。樹種や植栽する場所の地力によって生長量は当然異なります。その条件が同じであれば、面積当たりの植栽本数が多くても少なくても面積当たりの総生長量は変わらないと言っても良いと思います。

 

 そこで皆伐時の一本当たり材積(単木材積)をいくらに持って行くか。1m3なのか、2m3なのか、あるいは2.5m3なのか。

 扱う本数が少ないほどコスト低減できることは明らかですが、といって木材の利用価値もあります。それを故泉忠義氏(泉林業前社長)は、「単木材積1m3以上なら伐採コストは1m3当たり2000円」と表現していました。

 

 年間生長量1ha当たり15m3なら、50年で1ha総生長量は750m3、皆伐時残存本数750本で単木材積1m3になります。もし除伐間伐を50%行うなら、植栽本数は1500本となります。

 同じようにもし年間生長量が10m3なら、50年で1ha総生長量は500m3、皆伐時残存本数500本で、単木材積1m3になります。もし除伐間伐を50%行うなら、植栽本数は1000本となります。 

 これが短伐期林業の施業の基本と思われます。3000本植栽は明らかに長伐期を念頭に置いた植栽本数であり、これを40-50年の短伐期で伐採しても、単木材積は小さく、伐採コストの高止まりで収益が出るはずもありません。

 

林業は国家百年の大計

 我が国では植栽済み森林を、長伐期にでも短伐期にでも出来るように考えている人が多いようです。そして数年前までは「長伐期林業」で進むべき、と唱える人が多かったのですが、最近では殆どの人が「短伐期林業」に転換すべき、と唱えるようになりました。論理の裏付けがあってと言うよりも、山主が皆伐して所得を得たい、という現実があってそれの追認かとも思われます。

 

 そして皆伐が進行しつつある中いくつかの課題が顕在化してきました。

  代表的なものを挙げると、

  1. 山の後継者がいない。
  2. 皆伐による収益で再造林が無理であること。
  3. 再造林のための人手確保が無理であること。特に植え付けまでは出来ても、その後に必要う下刈り作業員の確保が困難。
  4. 苗木が足りない。 

 これらの現象は極めて明確に「皆伐してはいけない」という方向性を示すように私には考えられます。

 そもそも収穫する、というからには「伐期が来た」からするものではなく、収益に自信があってするものでしょう。伐って損だったら何らかの対策を考えなければなりません。

 

 戦後植林のために多額の国公費を費やして豊かな森林を作ってきました。全国で行幸を得て陛下ご臨御の元植樹祭が執り行われました。全国民が国土再建のために取り組んだのです。総力戦による資源の蕩尽からの復活、そして帝国の解体を迫られ、外地から引き上げてきた多数の国民の居住する地方殖産のためにも、誠に時宜を得た施策で大成功したように思われています。

 

 「伐期」がきたからと、早すぎる皆伐を大々的に行い、収益が足りないからと再び膨大な国公費を投ずるというのが許されるとは思えません。そもそも大規模な再造林を実行する人手は地方から払底しているのです。このようによき時代に先達が造成してくれた貴重な山林資源は、短期間に蕩尽することなく、間伐、択抜しながら末永く利活用していくべきです。

 

次回は、過疎地に於ける後継対策と

• 不思議その1.それでもなぜ皆伐するの?

• 不思議その3.再造林率を高める方法はあるの?そして実際にそれは可能?

について述べます。

 (代表取締役 佐々木 幸久)