メールマガジン第41号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(23)

  「笠利試験地のホウ酸処理材の試験報告」

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 平成19年から、奄美市笠利宇宿漁港近くのモクマオ林内で、鹿児島県林業総合技術センターが、木材各樹種のシロアリ食害試験に取組んで来られた。山佐木材は森田副所長へ協力を御願いし、同試験場で平成23年度からホウ酸処理材の耐久性確認試験に取組んで来た。試験地利用10年を経過した事で、奄美市との試験林使用契約を解消する事になった。29年1月25日の最後の点検調査と撤去作業に同行したので報告記を書く。

 

 前日最終便で奄美空港入りし、翌朝レンタカーを借りて名瀬を出発。龍郷町に在る県の大島林業試験場址に在る事務所で鹿児島県職3名と合流し、長靴や草刈り道具類を積込み笠利海岸の試験地へ向かう。9:00薙ぎ払い手伝い協力を頼んでいた前田氏と合流。氏が前日藪払いを済ませていたので、まずA試験区から森田副所長と大島支庁林務担当と私等の5名で最終点検を始める。昨年2月の点検調査では、ハブほど怖くはないが地元で通称アカマタ(マッタブ)と呼ぶ蛇が、コンテナ箱を空けたら中にトグロを巻いて居たので、今回は慎重に取り掛った。しかし大寒の一番寒い時期のせいか、全てのコンテナを空けても、何も出てこなかったのは逆に拍子抜けであった。

 

 次いでB試験区も調査した。両試験区とも1年前の調査で、試験材周辺に設置された誘蟻材のシロアリ食害が激しく役目を果たせない状況だったので、昨年5月に誘蟻材(クロマツ)を全数取り換えておいた。誘蟻材の地上部は何の被害も受けていない様に見えた。しかし9カ月を経過しただけで引き抜く事も難しいほどに、シロアリに食い尽されボロボロになっている状況を見て、「高温多湿の奄美地域はシロアリ被害確認試験地として、日本一の最適地」だと改めて感じた。(但し 猛毒のハブさえいなければだが)

 

 試験地最終確認の実施機会に、森田副所長の了解と協力を得て、関心有る人達にと試験状況の見学案内を送付した。11:00現地見学希望の大島支庁林務水産課長、地元の酒井設計士、鹿児島建設新聞社、東京から参加の三菱地所2名の計5名の見学者を案内した。

 見学希望5名は、シロアリ野外試験地を見るのは初体験との事で、森田副所長の丁寧な現状説明を聞き、試験片の被害実態を見て「木材を保存対策無しで使用する事の問題の大きさと、奄美のシロアリ被害の激しさ」を実感して貰ったと思う。

 

 

試験地の概要は次の通り。

H19~21年の試験は、奄美産木材(リュウキュウマツ、イタジイ、イジュ)と、国産スギ・ヒノキ材へ木材保存剤を加圧注入処理した杭の野外設置試験を、笠利地区と日置市吹上松林で同時に試験を行った。吹上試験地に比べ、笠利試験地はシロアリ被害度が高くなる傾向が見られ、使用地域と木材樹種の特徴に応じた適切な木材保存処理を実施する重要さが判った。水溶性薬剤のホウ酸は野外での使用を考えていないが、屋外や地中では効果が低下する状況が確認された。

 

 H22~24年の試験は、ホウ酸系薬剤は屋外試験には適さないので、非接地・非暴露状態にして、ホウ酸系木材難燃化剤と有機系防腐防蟻剤の処理材との耐蟻性能の比較試験を行った。リュウキュウマツのホウ酸処理試験材は、4%より10%処理材の耐蟻性能が軽微だった。又有機系薬剤と被害状況は同じ程度だった。

更にH25年に開始した、リュウキュウマツのホウ酸4%・6%・8%の濃度の試験材の比較では、リュウキュウマツは10%以上の濃度での注入が必要な事が明らかになった。但し3年目以降は有機系薬剤処理や10%ホウ酸でもシロアリ食害を或る程度は受けていた。試験方法の再検討の必要も考えられる。

  

 H23年から山佐木材と共同で、「スギ・ヒノキ・ベイツガの板材と角材の、ホウ酸4%・6%・10%濃度の処理材を、非接地状態にしてコンテナ内に設置」の試験を行った。ベイツガ未処理材は1年経過時点で半数が食害し尽くされ、スギ未処理材も内部にまで白蟻食害が及んでいた。3年でベイツガ未処理材は全て食い尽くされた。未処理ではヒノキ未処理材は4年目までは最も食害は小さかったが、それ以上経過するとスギと同程度の状況となった。今回はリュウキュウマツのホウ酸処理材ほどの処理濃度による食害差はなかった。また未処理材に比べて、ホウ酸処理した試験材のシロアリ食害は小さかった

 


 

 薬剤濃度が濃い方が耐久性は強い事は想定出来た。今回の試験を更に整理分析し、今後の試験では、心材や辺材の区分や重量測定等を事前に実施して、今後の木材保存対策に活かしていく必要が有る。

 

 最後に西園から、「ホウ酸の健康面への安全性の高い木材保存剤としての長所と、逆に雨水等への流脱性の弱点」も丁寧に説明し、木材保存処理対策上の注意点を説明した。

「木材は素材として全てが蟻害や腐朽菌に弱い」のでは無く、木材を使う時は「木材の長所と短所を理解し、その特徴に対処する事が重要である。昔の大工は「木材の特徴を考えて使用したが、近年は木材の長短所を考慮せずに使う事が問題なのだ。」と補足した。

 昨年5月に試験材周辺に再設置した「誘蟻材の激しい被害状況」に、見学会参加者は皆が目を丸くしていた。イエシロアリ蟻害の激しさを知れば、無処理で木材を使う事の無謀さは十分に見て貰えたと思う。非接地試験と言っても、地上高5センチ程度のレンガの設置台では、試験中に周囲の土が盛り上り、試験材に土が被る等の問題点が出ていた。もう少し高くしないと、建物内での利用現状よりシロアリ害を受け易い状況となっていると、改善の必要性を感じた。

 

 最後に27年11月から、東串良町の柏原海岸で開始した「スギ・ヒノキ・マツ・ベイヒバ・ベイツガ等の心材と辺材、及び乾燥材とグリーン材等の、ホウ酸濃度10%と15%の加圧処理と塗布処理と無処理材の比較試験」を、大規模に開始した事も案内した。

 また当日配布した山佐木材のパンフレットに掲載してある宇検中体育館等の大断面集成材を利用した大型建築物の写真や資料にも関心を持って頂いた。

 

 見学会と試験地後片付けを済ましてから東京からの見学者には、酒井設計の推奨された、赤尾木の「みなと屋の鶏飯」を案内したが、「さすが本場物は美味い」と大変好評だった事と、大寒とは言え奄美大島では緋寒桜が既に5分咲だった事を付記しておく。

(西園)