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★【社長連載】 Woodistのつぶやき(5) 

   非住宅木造(公共木造)建築を支えるもの

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非住宅木造(公共木造)建築を支えるもの

 木造建築を実現するためには、材料が必要であり、木材加工や架設を担う担い手が必要です。さらにまだ歴史の浅い我が国の近代大型木造建築には、新しい構法や技術開発も不可欠です。

 ここで言う担い手とは、設計や架設を担う構造計算をする者、施工図(加工図)を書くもの、物を作り加工し、現場で建て込み(架設)をする者など多岐にわたります。

 また建築は必ず国土の条件、環境、社会や風土、法に大きく依拠します。そして公正な競争も不可欠です。

 

 私はこれらの要素を下図のようにまとめてみました。

 

 非住宅木造(公共木造)建築を支えるもの

 藤原書店から「ウッドファースト!」と言う本が出版されました。この書名となっているウッドファーストという言葉は、全国森林組合連合会と全国木材組合連合会が共同で発表した概念で、木材利用の拡大と日本林業活性化を実現するために、木材を優先して活用する社会を実現しようと提唱しています。恐らくはこの提唱を受けてのこの「ウッドファースト!」の出版と思われます。

 

 この本の中で、公共建築協会副会長藤田伊織氏が「公共建築物に木を使おう」と題して執筆しておられます。氏は以前国土交通省の官庁営繕部長を勤められた方であり、「公共建築物木材利用促進法」の制定には氏も大いに関与されています。これらの事情の記述もあり、大変面白いものですがここでは略します。

 氏の論文の中に、「5.次世代公共建築研究会木造建築部会の活動」という章があります。項目のみ引用します。

 

次世代公共建築研究会木造建築部会

具体的調査研究内容

1.公共建築における木材利用の推進に資する技術の調査

2.公共木造建築の整備のための木材・製材の供給側の状況の調査

3.木造庁舎単価の適正化に資する技術の調査研究

4.先進木造公共建築事例の調査

5.モデル的事業への技術的支援

6.公共建築物等の木造化推進にあたり例えば法規制など解決すべき事項の調査研究           

  (別冊環 ウッドファースト! 公共建築物に木を使おう 藤田伊織)

 

この諸項目を先ほどの図に当てはめてみました。以下の通りです。上の項目の1.は図の中で①と表示しています。

 こうして見たとき上記6項目の中に、担い手についての言及が抜けていることに気づきます。確かに担い手育成は基本的に民の仕事であり、研究会の構成は恐らく研究者や行政の方々が主であろうと思われますので、ある意味やむを得ないものと思われますが、実際には建設業においては担い手が実に重要な役割を果たしているのです。

 ここで論及している担い手とは、繰り返しになりますが、設計や構造計算をする者、施工図(加工図)を書くもの、物を作り加工し、現場で建て込み(架設)をする者など多岐にわたります。そしてまさに担い手となる人材不足のために、国のかけ声にも関わらず木造推進化が円滑に進んでいないのです。 

 

公共建築の木造化が進まないのは何故か?

 ある地域でかなり大きな公共施設が計画され、木造化が決定しました。「地元の木材、地元の技術による」という素晴らしいキャッチフレーズのもと、立派な設計も出来ました。そして発注の段階になって、いろいろ問題が出てきたのですが、それはまず木材拾い出しから始まりました。 

 積算事務所は基礎や設備などの見積もりは全く問題ないのですが、このような大きな木造建築は経験がなかったようで、木材の拾い出し業務ができない、ということになったようなのです。木材の拾い出しが出来なければ、木材の発注も、建設工事自体の発注も出来なくなります。結局この業務は当方にお鉢が回ってきました。

 当方の木材拾い出し業務は、自社の木材販売を目的にしているので、もし多めに見積もれば競争に負けるし、少なく見積もった場合は自社で負担して責任を負います。今回のプロジェクトでは当方は「地元」ではないので、この仕事で木材を販売できる可能性はありません。もし当方の拾い出しに間違いがあったときは誰が責任を負うのか気になります。

 

 もう一つ大きな問題がありました。施工図作成の問題です。施工図作成という仕事は一般の方には分かりづらいと思います。住宅の場合、施工図など無くても設計図から大工さんがいともたやすく木材を加工し、家を作っています。これは住宅設計者が大工と同じルールで設計するから出来ているのです。

 公共工事などを設計する人は、大工の使う規矩術などは恐らく全く知らず、様々なデザインを設計用のコンピューターを使って自由に書いています。こうなると木材を加工するにも、設計図から施工図を起こし、一本一本コンピューターで加工図を書いてそれに基づき加工するしかありません。大工さんが地元にたくさんいるから大規模な木造建築でもたやすくできるに違いない、というのは大いなる勘違いなのです。これだけの規模の建物になると、施工図を書く人材が地元にいないというのは現在では無理もないということになります。

 

 ある木材関係大手の方から聞いた話です。さる役所から、「公共建築木造化がなかなか進まない理由は何か?何かまだ規制緩和が足りないからか?」との問い合わせがあったそうです。私は断言しますが、非住宅木造建築がなかなか進まないのは、法規制緩和が不十分だから、ではありません。その原因の殆どは先述の、まさに「担い手不足」のためなのです。

 官民協力して早急に「担い手育成」に取り組まない限り、地方創生にも木材利用の促進にも、この分野での進捗は殆ど見られないだろうと思います。

 (代表取締役 佐々木 幸久)