メールマガジン第34号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い~地方創生は国産材活用から(16)

  木造建築物の豆知識

  「木造の最古・最大容積・最大床面積・最も高い建物」は ?

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 「日本は木の文化の国」と良く言われるのに、最近は「和食」や「着物」ほど、国内で和式伝統構法の木造技術が活かされていない気がしてならない。代りに「コミック」等が「日本文化の一つ」として外貨獲得に貢献していると聞くと、木材業界は真剣に「日本は木の文化の国」との啓蒙活動に努めねばならないと思う。

 何故、日本は「木の文化の国」と言われるか。それは世界に誇る木造施設が数多く建築され残っているからであり、日本の景観を形造っている重要資産であるからだ。木造建築物は日本文化を代表しているからだ。又外国人から見た「日本らしい歴史と景観」には、木造建物は不可欠と評価されているから、衣食住の中の「住」だけが「和風文化の世界的普及」に遅れている現状は困ると考える。

 諸々の木造の知識と情報を国民がもっと知ってもらう事が、「日本の歴史と精神文化を支えて来た木造建築物の価値」を学び直す事となり、利用方法を誤らずに木材を上手に使ってもらえば、RC造よりも長寿の建築物を造る」事が出来ると、現代の日本人に再認識してもらいたいと思っている。

 外国人と日本人を比較する例として、「外国人が上手に箸を使い、和食を食べる姿」を見て、日本人が「箸の使い方が上手ですね」と誉めると、「和食を美味しく食べるには、箸を日本人と同じ様に使えるのがマナーでしょう!」と、質問に逆に不思議そうな顔で応じられるのと似た話である。最近の日本人が「日本の伝統的な景観造りの基本条件でもある木造建築物の価値を見落としている」事こそが問題なのだ。

 

 

 そこで今回は「世界に誇る『日本の宝』としての、世界最古最大容積の木造、最大床面積最も高い木造建築物」の豆知識を纏めてみる。

法隆寺五重塔
法隆寺五重塔

① 現存している「世界最古の木造建築」は、推古天皇の時の推古15年(607)、聖徳太子により奈良斑鳩に建立された、高さ31.5Mの「法隆寺五重塔」である。

 

 1400年もの間、地震や雷に耐え抜いた建物は、「木造建築物も管理と手入れ」に注意すれば、石造に負けない長寿建築物を造れると言う証である。釈迦の遺骨を祀る五重塔はデザイン的にも安定感があり、仏教的な宇宙感と悠久の歴史を感じさせる。

 飛鳥時代の日本を代表する木造建築物は国宝へ指定されており、1993年に日本最初の世界文化遺産にも登録されている。芯柱はヒノキが使用され、柔構造(芯柱が振動を吸収するとの説)の耐震構造は、ヤジロベーモデルの耐震性が注目を集め、隅田川沿いに建つスカイツリーにも原理が採用されている。又周囲の回廊木柱列は、ギリシャのパルテノン宮殿と同じ様なエンタシス型である事も興味を呼んでいる。

 正岡子規が晩年に訪れて読んだ「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」の句を思い出せば、斑鳩の里の情景が自然と目に浮かぶほどの日本を代表する建物である。

RC造建物は未だ100年を経過した建物事例は少ない。逆に高耐久性の期待に反し、数十年で劣化したRC造例は数え切れないのも事実である。

 

 木造建築物の素晴らしさを見直そうと、平成22年「公共建築物木造化推進法」が制定されたが、昨年の我が国の「公共建築物の総着工数は約10%」に過ぎない。そこに疑問を述べない木材業界関係者が反省すべき問題だと思う。最近新聞紙上で「憲法守れ」と叫ぶ人達は、同じ様に「公共建築物木造推進法も順守しよう」と何故言ってくれないのだろうか。憲法は成立後70年を経過したから、もう改正議論を始めても良い時期だと私は思うが、5年前に成立したばかりのホヤホヤの法律で、しかも日本文化を守り地方活性化には早く達成して欲しい。「公共建築物木造化法の目標」が注目されないのは、木材関係者からの国民へのアピール不足からではと思う。せめて50%の早期達成を期待するものである。

 

② 木造軸組構造で世界最大容積の建物は、聖武天皇により建てられた奈良の東大寺大仏殿だ。

 現在の建築(47M×57.5M×50.5Mの容積136,000㎥)よりも、天平宝治2年(758)の創建時は、間口88Mと遥かに大きかったそうだ。最初の建物焼失後1190年に再建され、更に元禄4年(1691)に再々建された時に太い芯柱を確保出来ず、鉄釘と鉄輪で締めた寄木造りとなっている。(今の集成木材の先輩である)

創建当時は、両隣に100Mを越す「七重の塔」の、東塔と西塔が建っていたそうだから、往時の東大寺が如何に壮大だったか想像して欲しい。

又堂内に鎮座されている「大仏様」の高さは15M、顔寸法3.2M、鼻高0.5Mだそうだが、1300年前に造られた事は奈良時代の日本人の発想力の壮大さに驚かされる。皆様も東大寺大仏殿の前に立たれたら、「昔の日本人は、人力でかくも大きな仏像と寺院を建築した」事に思いを馳せてもらい、「木造の魅力」に気付いて欲しいものだ。 

東大寺大仏殿
東大寺大仏殿

 

③ 木造建築物で我が国の最大床面積の建物は、京都下京に建つ広さ76M×58M=4,400㎡東本願寺の御影堂である。

 畳927枚敷で、一度に参拝客3,000人が座り法要が営めるとの事だ。東本願寺は真宗大谷派の開祖・親鸞聖人(1173~1262)の御真影を祀る寺院で、慶長9年(1604)現地へ移転され御影堂が建立されたが過去4度焼失している。現在の堂宇は明治28年(1895)再建され、参詣席中央に架けられたは、新潟県阿賀野川の川底から引き出されたと言う、長14.5M×梁丈1Mの大きなケヤキ材が使われていて、大紅梁と呼ばれている。

 所で東本願寺では、池泉回遊式庭園渉成園も四季の彩りが素晴しいと評判である。又寺院内に展示されている「毛綱」は、再建時の巨大木材を搬出運搬する時に重くて引綱が切れる事故が相次いだ事から、信者の女性達が髪毛の献納を申し出て、麻と練り合せた引き綱を作り、無時に運搬出来た記念として保管展示されているとの事だ。 

東本願寺 御影堂
東本願寺 御影堂
東寺五重塔
東寺五重塔

 

④ 近世以前での最大高さ54.8Mの木造建物東寺(教王護国寺)五重塔京都南口の九条通りに建つ。

796年創建の寺を弘法大使空海(774~835、第16次遣唐使の一人)が賜り、そこに真言宗本山として建築され、国宝に指定され「御大師様のお寺」として信心を集めている。

 過去4度火災に遭い今は5代目で、1644年徳川家光により再建奉納されている。同じ構内に建つ金堂豊臣秀頼が寄進した、入母屋造り木瓦葺き建物国宝である。

最近のRC造建物の1階平均高は約3.5Mと言われるから、1000年昔に15階建てに相当する木造建物が建てられていたのである。木造の長寿の耐久性と、日本人の伝統木造加工技術の素晴らしいを見る事が出来る。

又1994年に京都の他の古刹や二条城等と一緒に17件が纏められて、世界文化遺産へ登録されている。

 

 

 

 以上の資料を見てもらえば、木造建築物は「造り方と保存対策と管理次第」で、高耐久性の建物を建てられると判ってもらえたと思う。我が国の代表的な建物が、木造である事を再度学習し直し、現代の木造建築物の技能や技術向上に活かしてもらいたいと願う。

(西園)


<クイズの答え>

最古の木造建築 法隆寺五重塔(奈良県生駒郡斑鳩町) 西暦607年建立
最大容積の木造建築 東大寺大仏殿(奈良市雑司町) 47M×57.5M×50.5Mの容積136,000m3
最大床面積の木造建築 東本願寺御影堂(京都市下京区) 76M×58M=4,400m2
最も高い木造建築(近世以前) 東寺(教王護国寺)五重塔(京都市南区) 最大高さ54.8M