メールマガジン第31号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(13)

 2020年東京オリンピックの新国立競技場に国産材を大々的に採用

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 2020年に開かれる東京オリンピック主要会場の新国立競技場の基本設計は、イラクの首都バクダッド出身の女性建築設計士ザハ・ハディド氏によるデザインが最優秀作として採用され、高さ70メートルを超える巨大な設計案に一度決まった。しかし緑に囲まれた神宮の杜の環境との調和に欠けるとか、又建設コストが3500億円へと膨張した事で、予算が高額になり過ぎるとの意見から解消される事となった。

 建設費目標1550億円の条件付で新たな設計案を、「新国立競技場整備事業(新国立競技場国際デザインコンペ)」として再募集された。最初のコンテストで2位に入選し、繰り上げ案も出た妹島和代女史の所属事務所は、今回は参加を見送った。

  ザハ・ハディド アーキテクト(イギリス)作成

(引用)新国立競技場 (http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/)

 

 一次審査では、大成建設と梓設計事務所・隈研吾建築都市設計事務所の共同企業体によるA案と、鹿島建設・竹中建設と伊東豊夫設計事務所によるB案の2点に絞られた後に、委員会で審議され、27年12月22日、JSC(日本スポーツ交流センター)から決定案が発表された。

 決定したA案は、神宮の緑や周辺環境との調和を目指す『水と緑のスタジアム』、『持続的な森を形成する大地に近い環境共生型スタジアム』等のコンセプトで設計されている。「法隆寺」をモデルとした「和のイメージ」表現した、地下2階・地上5階の競技場は、1階と5階を市民が気軽に訪ねられる様に繋がっている。

 観覧席は3層構造で深い軒庇が迫り出し、直射日光を遮る構造となっている。和のイメージを取り入れた屋根部分は、「木材と鉄を利用したハイブリット構造」で、我が国の歴史と伝統文化や「日本らしさ」を表現している。建物高49.2Mで軒高42.6Mと、低層に押えられた事で、圧迫感を軽減させ周囲との調和が図られている。又シンプルな同じ断面の構造を採用し、コストを低減させ工期短縮を図っている。

 入札建設費は1489億円と、設計管理費用39.8億円であった。建築申請許可が下りれば2016年12月に着工し、2019年11月末の完成引渡しが目標。オリンピック開催時の客席数は68,000席とされ、今後100年は使えるスタジアムを目指しての、維持管理面が配慮されている。しかし東京オリンピックは8月開催なので、空調対策が課題として残っている。尚 隈研吾氏の設計作品では、渋谷駅地区の駅街区開発や、歌舞伎座タワービル等が広く知られている。

 

大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV作成

(引用)新国立競技場 (http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/)

 

 今回採用されなかったB案の見積金額1496億円で、設計コンセプトは「新たな伝統を再発見するユニバーサルデザインの白磁のスタジアム」とされた。最終審査ではデザイン性は逆に高く評された様だが、建物高54Mで、工期が長い事が選定外になった理由と推定される。「縄文文化」をイメージさせる「72本の純木製の柱」を使用し、日本伝統建築を再現させている。又スタンド内にも木材を多く使用する事で、建物全体に優しさと暖かさを持たせていた。 

 鹿島建設・竹中建設と伊東豊夫設計事務所作成

(引用)新国立競技場 (http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/)

 決定された3日後に、自民党の農林部会・林政小委員会では、「デザイン案には木材が多用されているが、競技場内の客席椅子がプラスティック製では、従来の一般競技場と変らない印象が強い。肝心の観客が触れる部分にも木材を採用し、『日本らしさ』を実現して欲しい。」そして新国立競技場での木材利用は、木材や木製品との触れ合いを通して、木材の良さ木材利用の意識を醸成する等、『木育』に大いに資すると期待される。

 更に「可能な限り全国の地域材を活用する事」等と決議されて、オリンピック大臣と文科大臣と農水大臣宛へ提出された。

 デザイン案を詳細に点検すると、神宮外苑の木々の緑と調和を目指し木材を利用した外装、木材を多用した「軒庇」の木製縦格子国産材多用した大屋根、日本らしさを演出するための木の内装CLT材を活用した屋外サイン等と、「木材が日本らしい建築を表現するには最適材料である」と考えられている事が良く判る。更に部材調達と加工が容易な中断面集成材を採用している。又新国立競技場の他にも有明アリーナ、海の森水上競技場等の設計でも、木材利用が進められている。当に木材利用こそ和の文化の表現なのだ。

 ところで「新国立競技場の木材使用した施設の上に、聖火台を設置する事は消防法からは認め難い」との批判が出て来ているが、この様な意見こそ当に、「木は燃える材料だから、消防基準からは使用すべきで無い」との、如何にも日本的な官僚思考からだと私は言いたい。むしろ消防関係者も最近の世界の流れを参考にして、「使用材料が木材でも、火事を起させない管理方法を指導する事」が消防の役目で有り、最近の木材利用推進を進める国策に沿っていると、従来の語句にとらわれて来た考え方を転換させて欲しい。

 

 新国立競技場の木材調達基準については、

  1. 選定する木材は、森林認証を得た森林から調達する。
  2. 森林管理や木材加工流通システムで管理された、信頼性の高い木材を使用する事で、生産履歴が管理された木材を使い品質を確保する。
  3. 全国から集められる国産スギを主に使い、国内林業・木材産業の活性化を促す。
  4. 全国から調達可能な中断面集成材を屋根面に使用する。

   以上の基準が決められている。

 

 森林認証制度とは、森林経営の持続性や環境保全への配慮等のために、一定の基準に基づいた森林を認証し、その認証された森林から産出される「木材及び木材加工製品」を建設業者等へ提供する表示管理制度である。国内で認証を得ている森林は、国際認証林国内認証林が合せて現在165万ha在るが、国内森林総面積の約7%に過ぎない。

 山梨・静岡・北海道・熊本等では既に取得されているが、鹿児島県には認証森林は現在の所指定されていない。と言う事は現状のままでは鹿児島県材は、オリンピック関連施設に納材する事は出来ない状況なのである。

 集成材加工工場は、CoC認証(Chain of Custody・管理の連鎖)取得工場での製品に限られる事になるが、未だ全国の認定工場数は多くは無く、山佐木材は近々認証工場として承認される予定である。

 全国民の注目を集める東京オリンピック関連各会場に、国産木材が大量に使用される事で、木材利用促進の風が吹いてくれる事を期待する。

(西園)