メールマガジン第30号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(12)

 京都大学生存圏研究所 今村裕嗣名誉教授の木材保存の講義を聞いて

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 2月4日、大阪木材会館で有った「神々の国・島根県木材展示会」で同時開催された、今村裕嗣京大名誉教授の講演「木材保存の常識と非常識」を聞いた。とても判り易い講演だった事と、私のメルマガのテーマである国産材振興策にも参考になる内容だったので報告します。

 

 今村裕嗣先生は京都大学教授を定年退官後も、京都大学生存圏研究所の関連である建築研究所で「木材保存の研究」を続けられている。同時に日本木材保存協会会長も兼ねられている等、日本の木材保存研究分野の第一人者である。所で京都大学生存圏研究所では、宇宙と森林木材と大気関係を幅広く研究する機構であって、その中で今村先生達は「伝統建築としての木造建築」の特に木材保存分野の研究が重要として取組まれている。

 先生の講義では最初に「法隆寺で利用されている木材は、環境保全に貢献している」と解説され、今後木材は建築分野だけでなく土木資材にも木材利用途を広げるべきと思いを語られた。 

法隆寺
法隆寺
法隆寺五重塔
法隆寺五重塔

 

① 木材利用による環境貢献 

1)森林を活性化させる効果:木材の利用拡大は森林荒廃を予防する手段として有効である。 

2)化石燃料の代替効果としての木材活用を:化石燃料を使用するとCO2が発生するが、一方木造建築物を建てる事によるCO2削減効果は、鉄骨造の50%、RC造の1/3と少ない。

化石燃料は使うとCO2が発生するが、木材を使用すると環境浄化への貢献度が高い。

3)木材の炭素保存効果:昨年12月にパリで開催されたCOP21では、日本は2030年には13年対比26%も削減すると公約した。又CO2削減目標の16%を森林へ割当てる等、空気中でのCO2削減効果の期待は大きい。現存の法隆寺芯柱は400年生の木材が使用されているが、その木材の芯部分は3世紀の卑弥呼の吐いた息を固定したCO2が木質化した事になる。木材を沢山長期間使う事は環境浄化に重要で有る訳で、同じく木材保存技術も低酸素化社会の実現には重要なのである。

 

② 木材の腐朽とは

褐色キノコが木材を腐朽させる。針葉樹のセルロースに繁殖し強度を劣化させる。白色キノコは広葉樹に繁殖し椎茸等が代表。木材の栄養部分が無くなると胞子を作り飛散し繁殖を続ける。

⦿木材腐朽菌の発生3条件とは:a) 温度15~35℃が最適、b)酸素、c)水分30~200%(最適湿度50~90%)の3条件が全て揃うと、腐朽菌が発生する。

地下埋設されると、地下に水分は存在するが空気が欠乏する事から腐朽は抑制される。(地下水のレベルで影響を受ける)又松杭は生材で使用される例が多いので、空気が含まれ難い影響も有り、地下は水分過多なので微生物の存在も少ないからである。

物の地下松杭として水中で利用された例としては、1800年前の遺跡や東京駅地下杭等からの発掘例等と数多い。(先月のメルマガで紹介した西田橋梯子胴木も同じ理由からである)

辺材は腐り易く、桧やヒバでも辺材は腐る。心材は腐り難いが、条件が悪ければ腐朽菌は付く事に注意する。昔の大工は経験から、木材の腐朽対策として施工時に次の様な知恵を働かせていた。(今一度昔の知恵を、現代人は学び直す事が必要である。)

 

⦿腐朽の特徴

1)「腐りは木口から」:木材は側に対して、水分浸潤割合は木口からは100倍多い。

昔の宮大工の知恵として、木口部分の水分の浸透を予防した工夫例では、京都清水寺舞台の木口部分の斜め板、岩国錦帯橋の木口銅板被せ等で、長期間の腐朽防止を実現して来た。

2)部材の接触部分:木口と木口の接点部分から特に腐食は始まる

3)木と鉄は仲が悪い:鉄は結露し、木は腐ると酸性化し鉄を錆びさせる。相乗劣化。

4)木材白化:古い建物に見られる。腐れでは無い、石と同じ成分。

5)緑色化:藻類の発生で水分を含む事から腐朽を進行させる。 

  

清水寺
清水寺
岩国錦帯橋
岩国錦帯橋

 

③ 蟻害と虫害 

・生物分類では、ハチやアリは異肢目、白蟻は原ゴキブリ目の一種の等肢目である。

日本に生息している白蟻は20種類。ヤマトシロアリの巣は数千~数万匹。イエシロアリの巣は数十万~百万匹に及ぶ事もある。

・女王シロアリは10~20年棲息する、兵隊白蟻が10%棲息、眼は退化している。

・職蟻はヤスリ歯で材料を引きちぎり噛み砕く、悪食でプラスティックや発泡剤も食材にする。行動特性として蟻土で蟻道を作り、床下や静かな所を好む。木口・仕口・継手部分から食害し、セパレーターや床下配管等の隙間が大好きで侵入する。

・イエシロアリは神奈川・房総以南まで生息し獰猛である、水運搬能力を有するので、

2階や屋根裏まで食害する。

・ヤマトシロアリは、寒さに少し強いので、更に北の東北地区まで棲息している。

・アメリカカンザイは水の運搬能力は特に無いので、木材中の水分だけ利用し糞は乾燥

していて俵状。

・ヒラタキクイムシはナラ系統、キリ、ケヤキ、南洋材、ポプラ、ユーカリ等の乾燥した広葉樹を食害し、約3㎜径の穴を作る。ケブカシバンムシは古材や竹材を食害する。

 

④ 「木材は何年、長持ちするか」

米ヒバや米杉は耐久性大、杉・桧の耐久性は中クラス。 辺材の耐久性は低い。薬剤処理(加圧)だけでの予防は難しい。クレオソート加圧注入した製品は、37~50年の耐久性が期待出来る。現在の防腐注入の主流はAAC・CuAZ等。

「熱処理したサーモウッド」は、加熱水蒸気180~220℃で処理すれば、「腐らない狂わない効果」の期待大きい。220℃以上が適切で180℃以下では十分な効果は期待出来ない。

フェノール樹脂注入。

「ベンガラ」は着色効果のみで防腐効果は無い。

ヒノキチオールも殺菌効果のみ  夫々の特長を知って使用する事が大事である。

 

⑤ 木材利用のもう一つの課題

木材は樹種毎の耐久性の特徴を考えて使用する事が重要。

日本人の「白木志向の文化」は耐久性からは誤解の基になっている。

木材使用の注意の説明が重要で、セルロースが腐朽原因である常識を広める必要が有る。塗装だけでは木材腐朽の予防は2年間が限度である。(2~3年毎の塗装が理想的)

木材は表面が凸凹し親水性が有る特性が、水分を吸い易く腐朽の原因となる。

 

◎木材の利用時には「木材使用上の注意と指導」を徹底し、木材需要拡大運動の前提条件と考えて取組む事が重要である。

1)木材利用の前に、十分な耐久設計を考えて使用する。

2)使用場所を考え必要な場所には、耐久性能の高い樹種を選定する。

3)木造住宅では定期的に適切な診断を行い、維持管理や点検補習を重視する。

※最近の高気密高断熱住宅や、水回り間取りを2階まで分散配置する傾向は、高耐久性住宅の条件には反する事になる。

上記三条件を考慮せずに「木材素材にだけ長期耐久性を期待」するのは、木材利用面からは厳しい状況を招く事を考えて取組んで欲しい。

木材取扱い業者は、木造建築物の補修点検の重要性を、設計士や建築業者及び住宅取得者へ指導する事が重要である。

北欧や北米の木材利用先進国では、木材保全対策の実施は必要条件と考えられているのに、「木材大好きの日本人」が「木材の弱点対策には配慮不足」である事が、木材の需要拡大のネックになっている事への対策が必要。

 以上の木材利用上の注意や解説が有った。今回はホウ酸の耐久性効果には言及されなかったが、環境への安全性から考えればホウ酸は重要な木材保存対策の薬剤である事は間違い無い。 

 

 更に続けて木構造振興協会原田氏からは、「平成22年の公共建築物木造化推進法が制定されたが、24年度は全国で9%に終わっている。林業では大手製紙会社は自力で海外に短伐期樹種を植林し輸入する時代となり、山林では「鹿の繁殖」による植林の被害が顕著で、防護対策が重要課題となっている。

 秋田県では木造住宅率が高い事が、学力全国1位に貢献しているとの説がある。

乳牛飼育木舎の採乳量は、一般的築舎に比べて1.5倍で、又マウスのハウス材料比較実験では、木造での生存率はRC造に比べ5倍高いとのデーターも有る。データーを活用すべきだ。

 木材屋や工務店が守るべき「木材利用のエチケット」として、「木材が腐る様な設計と建築や管理をしない」事と、木材は活き物であると考え、定期的に手入れが必要である事を事前に丁寧に説明する。又木材利用時には「長所を活かし短所は避ける指導」が重要である。

 大手住宅メーカーの国産材利用率は3%で、国産集成材利用も6%に過ぎない。それは「品質管理された木材しか使わない」との考えからなので、地方の木材屋や中小工務店はどの様な対抗策を取るか考える事が重要等と貴重なご講演を頂いた。

(西園)