メールマガジン第28号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(10)

 「ホウ酸の防蟻効力のJIS野外試験計画」の準備状況のご報告

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27年11月メルマガで「ホウ酸処理材の野外試験」開始について案内しましたが、1月下旬に設置完了するので、現状を再度報告します。

 

 昭和の初期までに建てられた木造建築物は、日本の気候条件と木材の長所短所を充分に考えた上で、「その土地に適した丈夫な樹種を選定し、更に木材が腐朽やシロアリ蟻害等を受けない様に十分な対策を施して建築」した。そして「木造建築物の維持に必要な保守作業を定期的に行う」等の、伝統的な木造建築物の管理法が、しっかりと守られて来た。

 それは、木材は腐朽菌の繁殖し易い温度環境と、時々水に濡れる事を含めて湿潤な状態の、両方の条件が揃うと腐朽菌も白蟻も急速に繁殖を始める事を経験的に知っていたからです。と言う事は西日本地区の春~秋までは、木造住宅の保存には厳しい気象条件となる上に、更に最近は新たな問題が加わっている。それは昭和25年に制定の建築基準法により、住宅は防火と耐震対策から布基礎が採用されて、更に最近は省エネ断熱対策が徹底指導され、冷暖房設備が完備して来ている。従って建物の床下は逆に一年中腐朽菌やシロアリには、繁殖に最適な環境となっている事を良く考え、そのための予防対策をたてる必要がある。

 

 木造住宅の土台材等の構造材には、保存薬剤を加圧注入した木材が普及しているし、シロアリ防除用薬剤も多くのメーカーから数多く販売されている。それらを採用している木造建設では、シロアリ等への殺虫効果が高いだけでなく、周辺の環境や家屋の住人(特に妊産婦や乳幼児)へ長期間影響を与える事となっている。だから木材保存薬剤の選定は重要であり難しいのである。

「環境保全と、人への健康安全面」の両方を考えると、日本木材保存協会が認定している「木材保存薬剤」では、現在の所「ホウ酸」に勝るものは無いと思われる。しかし「ホウ酸は、水や高湿度では溶脱する弱点」を持っているから、「屋外や接地条件」では使用しない方が良いに越した事はない。

山佐木材は加圧缶を利用してホウ酸液を木材へ加圧注入する時は、主に10%濃度液を使用しており、又建設現場での散布方式による予防処理では、20%濃度液を採用している。ホウ酸は高濃度で処理すれば「後期浸潤性」と言う、木材の深部にまで徐々に浸透する優れた特徴を持っている。その長所を活かせば、環境に安全であるだけでなく、木造住宅の耐久性を長期的に確保がする事が期待出来る。

 

 所で環境への配慮が求められる時代となっている事から、大半のシロアリ駆除事業者は「残留効果が5年程度」の「農薬系合成薬剤」を使用している例が多い。そのために5年以上の防蟻効果は期待出来難くなっている問題と、薬剤による環境汚染の心配が出て来ている。(30年前まで主流として使用された木材保存剤は、薬効が長期間効き過ぎた事から環境破壊が心配されて、使用禁止となった事実がある。)又最近の木造住宅建設では省エネ対策から、益々高断熱性と高気密性が求められている。その結果、建物のメンテ対策として長年施工されて来た「5年毎の定期的な防蟻処理の再施工」の作業が難しい建物構造が増えている。即ち「5年後からの木造住宅の維持対策」が、木造住宅の長寿化では考えなければならない問題である。

 

 アメリカや豪州では、「ホウ酸は人間にも環境にも優しいが、普及菌やシロアリへは殺虫効果が高いと言う総合力」が評価されて、30~50年前から住宅建築用として全面的に採用されている。しかし日本では利用者が見て確認出来る様な野外試験事例が少なかった事等から、「ホウ酸処理の普及」は遅れていた。

 

 そこで山佐木材では今回、鹿児島県森林総合技術センターと大隅森林管理署等の協力を得て、大隅半島の東串良海岸国有林を借用して、「大規模なホウ酸処理材の野外試験」を下記の基準で開始した。今後は見学希望者や建築関係者へ、定期的に試験状況を公開して「木材保存試験の見える化」へ取組み、多くの人々に「木造住宅でのホウ酸処理の有効性」を、納得して採用して貰える様に試験を始めた。

《試験項目》

  1. 処理薬剤は、⑴ホウ酸10%加圧注入 ⑵ホウ酸10%真空処理 ⑶ホウ15%加圧注入 ⑷ホウ酸15%真空処理 ⑸ホウ酸20%塗布処理 ⑹市場流通品の加圧注入木材(CUAZ) ⑺比較対象用の無処理素材の、7薬類を試験する。
  2. 「木材保存のJIS基準」通り、30×30×150の国産の杉・桧・松と、外材の米栂・米桧・米松・ホワイトウッドの各辺材の試験を行う。更にJIS規格外の試験であるが、「杉・桧の心材の試験」と、9樹種の防蟻性能を試験する。
  3. 日本の建築基準では「桧材は素材で使用しても、耐久性が高い樹種としてランク」されている。しかし年輪の密なヒノキ心材は相当な耐久性が期待出来るが、南九州で一般的に使用されている辺材付土台角「ヒノキ特一等材」の対蟻性能は、市場が期待している耐久性よりかなり低いと言われている。そこで建築現場で使用事例の多い120×120㎜角材の、国産の杉・桧の心材と辺材と、外材の米栂・米桧・米松との比較試験を行う。(大手プレハブ業者は、材料の安定的確保を優先する考えから、輸入木材の使用割合が高い。国産材の市場拡大対策からは、「国産材と輸入材との耐久性の比較データー」を入手する事は極めて重要と考えて試験する)
  4. 120㎜角材の薬剤保存処理木材を、20㎝毎に切断した試験材の性能試験も行う。薬剤の浸透し易い木口部分と、材中央部分の各切断材の野外試験の実施は大胆な発想であるが、建築現場では切り使いは良くある使用方法なので、その場合の保存対策は如何にあるべきかを考えるための試験に取組む。
  5. ホウ酸処理材の接地使用は耐久性から問題が大きいと言われる。そこでホウ酸処理材に「油剤を表面塗布(2回塗)」した場合と、無処理素材やCuAz材に比べ、「接地面や地上部」では如何なる差異が出るのかの試験を行う。(油剤は2~3年毎の再処理が要求されている。2~3年目の試験結果を見て、ホウ酸処理材の屋外での施工法と定期的な油剤塗布作業の参考とする)
  6. 120×120㎜角材の杉・桧の辺材と心材と米桧心材を、ホウ酸処理後に30㎜厚へ輪切り切断し、1月後、2月後、3月後、6月後の呈色反応による浸潤状況の時間的経過を順次写真記録し、顧客に見て比較してもらうサンプルを作る。
  7. 国の省エネや高断熱住宅の普及指導に沿って、土台基礎や土間コンの保温性能向上させるため、ポリスチレンフォーム(EPS)の使用例が増えている。そこで「ホウ酸混入EPS商品」と「無処理EPS商品」との防蟻効能試験を行う。

30㎜角×150㎜試験体が、9樹種×各5本×7薬種×2セット=630本と、120㎜角×200㎜試験体が207本と、更にEPS試験が2種類×5組=10組の、大規模な屋外試験に御期待下さい。

 

山佐木材は、「ホウ酸処理の九州唯一の加圧処理事業所」であり、又「現場でのホウ酸塗布散布処理も受注施工」している。全てに本気で取り組む山佐木材へ、何でもご相談下さい。

(西園)

※先月号メルマガの訂正とお詫び

名古屋城木造復元」の記事末尾に、「国宝4城」と書きましたが、27年7月に松江城が国宝へ昇格指定されたので、「現在は国宝5城、重文指定7城」と修正致します。間違えてすみませんでした。