メールマガジン第27号>バイオマスシリーズ

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★【シリーズ】バイオマスについて(25) 代表取締役 佐々木幸久

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フォレスター

 さる11月18日、九州森林管理局が主催する「フォレスター等活動推進会議」で講師を依頼されました。所定の研修を受講したフォレスターにフォローアップ研修として、初日午後からの講演2件と、翌午前中に会員4名による情報提供とが行われたものです。

 主催者から私には木材利用について、中でも今林業関係者の中では話題沸騰しているCLTについても詳しく述べるようにとのことでした。日本CLT協会の資料も使わせて貰い詳しく説明、さらに鹿児島で供給が始まったスギツーバイ材のこと、塩屋先生のSAMURAI集成材についても説明、ご理解を得るべく努めました。

2つの特別講演が行われました
2つの特別講演が行われました

 

 そしてフォレスター研修と言うからには、健全な森林の造成儲かる林業経営への認識も不可欠だろうと思い、かねての主張を述べました。

 

 泉林業泉社長によると、伐採時の単木材積が1m3を超えると伐採コストは2,000円/m3にまで低減できること、それはすなわちha当たり数百万円の立木収入に相当します。この観点に立つと1ha当たり3,000本植栽している現在の森林では、今の段階で皆伐すると、単木材積がそのレベルには到底達していません。これでは皆伐しても決して十分な林業所得は生まれません。

 

 100m3収穫するのに数十本伐採するのか、300本伐採するのか、その手間が倍以上違うのはこれは理の当然で、考えてみればすぐ納得できる話です。従って合理的に考えるならば現段階での皆伐は控え、単木材積が1m3を超えるまで、暫く利用間伐を続けつつ、当面の収益を確保していくことが重要なのです。

 そして再造林するときは、林地の地位(地力)と伐採年数とを勘案しながら植栽本数を決めることが大事であることなどを述べました。また急激な皆伐への転換は苗木不足、植栽や下刈り作業員の不足を招き再造林出来ない理由作りに利用されかねないことにも言及しました。

 

 研修会は森林管理局の大講堂が満席になるほど盛況で、またその後の懇親会も数十人という驚くほどの参加率で、しかも座はきわめて賑やかで和やかでした。林業に携わる方々の実に熱い思いに接することが出来ました。

 フォレスターという言葉の原義は知りませんが、ドイツなどで林業行政のなかでも最重要なシステムと聞き及んでいます。受け持ちの森林をくまなく巡回し、不健康な状態の山があればその所有者に知らせて善処を求めるというような仕事のように受け止めています。そのためには森林の健康診断が出来る専門知識と、併せてその改善を求めるために受け持ち森林のすべての持ち主を知る必要があります。


 親から引き継いだ持ち山がどこにあるか知らず、一度も足を踏み入れたこともない山々、そういう山はいったいどうなっているでしょうか。子供の頃聞いた農家の年寄り曰く、稲は持ち主があぜ道を通る足音で大きくなると。人工林だろうと天然林だろうと、永年足も踏み入れないと悲惨なことになります。よく言われる森林としての公益的機能を果たさないだけでなく、森林由来の災害の引き金になりかねません。一定の手が入ることによる公益的機能なのです。

 

 森林の健全度合いは、森林を自らの足で入念に見回る人の存在によって大きく向上します。それを持ち主に求めるのは今や全く非現実的で、公的存在としてのフォレスターに委ねるしかないと思います。

 我が国でも「フォレスター」という言葉が認識され始めました。ただそれは「資格」としてのフォレスターであり、「制度」として制定されているわけではありませんから、研修を受けて資格を持っても実際にフォレスターとしての活躍の場が与えられるわけではありません。私は養成の次の段階として、制度としてのフォレスターを我が国でも取り入れてほしいと念願しています。


 その公益的機能をもたらすのは補助金の多寡ではなく、森林を隈無く見て回るフォレスターの存在にかかると私は思います。国、県、市町村の現在の林業担当者の数を以てすれば、要員としては恐らく殆ど充足できると思います。様々な補助金は追々大幅に減額していく、替わりに専門職能に優れた熱意に富むフォレスターを必要数きちんと配置する、それが国土の3分の2を占める我が国で、森林の公益的機能を確実に向上させ、それは国益に大きく貢献すると思います。

   (佐々木 幸久)