メールマガジン第26号>西園顧問

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★【西園顧問】木への想い ~地方創生は国産材活用から(8)

 木材利用と「ホウ酸防蟻効力のJIS野外試験計画」」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

前回まで私が書いて来たメルマガ・シリーズでは、「木材利用についての私見や、遠回しでの木材振興支援策」でした。今回は木材利用促進の具体的対策としての「ホウ酸処理による木材保存」の野外試験を、今月末から始める準備が出来たので「試験目的と意義と試験方法」を詳細にお知らせしたい。

 

「世界で一番長寿の木造建物は法隆寺五重塔」で、1300余年も長持ちしている事は多くの人々が知っている。しかし一個人が人生最大の投資をする木造新築住宅が、我が国では居住して5年程度で早くも白蟻害等を受けて大変難儀している話を聞く。

 法隆寺では世界一長寿の木造施設が建てられるのに、個人にとって重要な財産の木造住宅では、築数年にして木材の弱点が表に出て来る。その原因は一体どこに有るのだろうか。

 昔の木造建築は、日本の気候条件と木材の長所短所を良く考えて「その土地に適した丈夫な樹種を選び、木材が腐朽やシロアリ蟻害を受けない様に工夫して建築し、そして木造建築を長持ちさせるための保全措置を定期的に行う等の伝統的工法」が守られていた。

 現在では、林野庁は林業振興対策と国土保全対策から、国土交通省は住宅の耐久性と省エネ断熱化の性能を高める必要から「長期優良住宅制度」の拡充を目指し、両省が連携して木造住宅の普及推進に取組んでいる。だから取組み次第では個人の木造住宅でも、100年住宅の耐久性を確保する事は難しくは無いのである。


木材は約15度以上の温度環境と、水に濡れるか又は70%以上の湿度となる両条件が揃うと、腐朽菌も白蟻も旺盛に繁殖し始めるから、西日本地域の3~10月は木材保存には厳しい気象条件となる。それでは冬や北国では問題無いかと言えば、新しい別の問題が起きている。最近の住宅は地震対策から布基礎を採用し、更に省エネ断熱工法が徹底されて冷暖房設備も行き渡って来た。と言う事は建物の床下部分は寒冷地であろうとも、腐朽菌にもシロアリにも最適の繁殖環境となっている事を良く知っておく必要が有る。


「床下は土間コンクリート打ちしたから、白蟻の心配は無い」と安心するのは早い。白蟻は建物外に地下巣を作り、コンクリート基礎に蟻道を作り這い上がる例は良く見られる。又電気や水道等の配管が床下から建物内へ立上っているが、配管類の周囲に2ミリの隙間が生じただけで、シロアリは簡単に蟻道を作り建物へ侵入して来る。(対策として、最近は配管の周囲にホウ酸入り充填剤を塗る現場例も増えている。)省エネ断熱住宅の床下は温度が一定となり外部通気が少ない事から、湿度と湿度が繁殖し易い状態に維持される事となり、白蟻や腐朽菌にとっては最適の環境となっている。

 

それでは木造住宅は、木材保存対策からは日本には不向きなのかと言えば、それも別の角度から良く考える必要が有る。木材は数少ない再生資源であり、しかも我が国では現在の木材総需要量を賄っても、尚輸出出来るだけの森林資源が育っていて、「自国で100%を自給出来る、日本で数少ない資源の一つ」なのである。そして低炭素化問題では、空気中の炭酸ガスを吸収し酸素を供給する、地球環境に優れた特性を持っている。更に自然素材は人工建材に比べて、人に馴染み易い長所を持っている等、木材の長所を考えれば「建設資材」として、人間に最も適した環境を提供してくれる資源が「木材」なのである。


木造住宅の長所を活かし、腐朽菌とシロアリが生存し難い状況を作れば良いのだと皆様には判って貰えたと思う。

 土台等の主要構造材に木材保存薬剤を加圧注入する技術が普及しているだけでなく、シロアリ防除薬剤も多数販売されている。しかし木造住宅建設でシロアリ等へ効果が高い薬剤は、環境や家の住人への影響についても丁寧に検討する必要が有る。木材保存剤がシロアリへ長期間の殺虫効果を発揮すると言う事は、逆に人間(特に妊産婦や乳幼児)や環境に薬害を与えかねない事になり、相反する条件を同時にクリアーしなければならないから木材保存剤の選定は難しいのである。


          ホウ酸注入の様子
          ホウ酸注入の様子

「木材保存の効果と環境保全と居住者の健康安全」の三つの条件を総合的に満たす「木材保存剤」には、何を選択するべきかが今後の課題となる。「環境保全と人々の健康安全面」から、日本木材保存協会が認定している薬剤では、人間の存命に関して「ホウ酸」に勝るものは無いと言われる。しかし一方では「ホウ酸は水や高湿度には溶脱する弱点」が有るので、ホウ酸処理木材は「屋外や接地条件での使用」は避けた方が良い事になる。

 薬剤の使用時には、濃度と施工の2面からの確実な管理が重要なので、山佐木材は加圧注入缶用では主に10%濃度を使用し、又建設現場の予防散布施工用には、20%濃度液を使用している。ホウ酸は高濃度で処理すれば「後期浸潤性」と言う優れた特徴を持っているので、木材の深部にまで浸透させる事が可能である。

 

所で環境への配慮が優先して求められる時代となり、現在多くのシロアリ駆除業者が使用している「農薬系合成薬剤」には、「残留効果5年の商品」が使用されている例が多いため、長期間の防蟻効果は期待出来にくい問題が指摘されている。(30年前まで使用されていた木材保存剤は、長期間の薬効が有り過ぎた事から環境破壊につながると使用禁止となった歴史を考えて欲しい。)

 更に最近の木造住宅建設では、省エネ対策から益々高断熱性と高気密性が求められるため、近年の建物メンテでは常識である「5年毎定期的に防蟻再処理作業を防除施工する事は非常に難しい」建物構造となっている。と言う事は「5年後からの木造住宅の維持対策」が大きな問題である。


アメリカや豪州・ニュージーランドでは、「ホウ酸は人間や環境へ優しく、普及菌やシロアリにも殺虫効果が高いとの総合力が評価」され、30~50年前から住宅建築用に全面的に採用されている。しかし日本では今まで本格的な野外試験事例が少なかった事等から、ホウ酸処理の普及は遅れていた。

 山佐木材では7年前から「奄美大島の松林で、ホウ酸4~10%濃度の加圧処理材の野外試験」を続けて来たが、その結果を参考にして更なる木造住宅需要拡大のために「広範囲なホウ酸処理材の野外試験」を、鹿児島県森林総合技術センターと大隅森林管理署等の協力を頂き、大隅半島南端の東串良海岸で実施する事にした。防蟻効能比較データーを採取すると共に、希望者には試験状況を定期的に公開し「木材保存試験の見える化」に挑み、安心して「ホウ酸処理木材」を使用して貰える事を目指している。

(西園)

 

《試験項目》

  1. 薬剤処理別の試験項目として、⑴ホウ酸10%加圧注入、⑵ホウ酸10%真空処理、⑶ホウ酸15%真空処理、⑷ホウ酸20%現場塗布、⑸市場に流通しているJIS規格の加圧注入木材(CUAZ)、⑹比較対象用の無処理素材。以上6種類の耐久性比較能試験を実施する。
  2. JIS試験で規定されている30×30×150の試験材の樹種として、国産材の杉・桧・松と、外材の米栂・米桧・米松・ホワイトウッドの各辺材と、更に杉・桧の心材との9種類の上記の各薬剤で処理した後の防蟻性能の差異の試験を行う。
  3. 日本の建築基準では、桧材は素材のままで使用しても耐久性が高い樹種にランクされている。年輪の密なヒノキ心材は相当な耐久性が期待出来るが、南九州で一般的に使用されている辺材付土台角用「ヒノキ特一等材」の対蟻牲は、一般から期待されているより耐久性はかなり弱いとも言われる。そこで代表的使用寸法である120×120㎜角材で、国産材の杉・桧の心材と辺材の比較と、更に外材の米栂・米桧・米松・ホワイトウッドとの防蟻性能の比較試験を行う。(大手プレハブ業者は材料の安定的確保面から、輸入木材の使用割合が高い。国産材の市場拡大には、国産材と輸入材との耐久性の比較データーを得る事は極めて重要と考える。)
  4. ホウ酸処理材の接地使用は耐久性の問題が有ると言われる。そこで杉ホウ酸処理材に「油剤を表面塗布(2回塗)」した場合、無処理素材やCUAZ材に比べ「接地面や地上部」で、どの程度の差異が有るかの試験も行う。
  5. 杉・桧の辺材と心材と、更に米桧心材の120×120㎜角材を、ホウ酸処理後に30㎜厚に輪切り切断し、1月後、2月後、3月後、6月後の呈色反応による浸潤状況の時間的経過を順次写真記録し、顧客に比較して見てもらえる様にサンプルを作る。
  6. 土台基礎や土間コンの保温性能向上のために、ポリスチレンフォーム(EPS)を使用する現場が増えている。そこで「ホウ酸混入EPS商品」と「一般で使用されている無処理EPS商品」との防蟻効能の比較試験を行う。
  7. シロアリの好む松材を誘蟻材(30×30×350)として、試験材の周辺に多数設置し、試験開始後も定期的に追加・補充して、シロアリが試験材周辺に生息し易い環境を維持する。

《ホウ酸注入作業の様子(鹿児島県工業技術センターにて)》

注入釜
注入釜
釜入れ作業と薬剤作成
釜入れ作業と薬剤作成