メールマガジン第21号>西園顧問

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★【西園顧問】木への想い独り言(3)「入来麓の旧増田家住宅」
 

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鹿児島県内には伝統的建造物群保存地区として、知覧出水麓薩摩川内市入来麓の3ヶ所が指定されているが、全てが木造住宅群である事をもう一度考えてもらいたい。

山佐木材の地元の高山に建つ「二階堂家住宅」は、江戸時代の1810年頃に建築された国指定重要文化財の一つですが、いずれも歴史と伝統と風格が感じられるのは「木造りだから」で、日本は「木の文化の国」なのである。


そこで県内で一番新しく、平成26年12月に国指定重要文化財へ指定された、「入来麓の旧増田家住宅」の特徴を述べてみる。「入来」は関東武士の渋谷氏が平安時代末期に下って来て「入来院」と名乗り支配した荘園の一つで、その後「島津家」の配下となった。薩摩藩は鹿児島本城以外の領地を「外城」(とじょう)と呼び、113区画に分けて統治し外城の中心地が「麓」である。


今回修復された「旧増田家住宅」は、敷地に建つ石敢当碑文で明治6年の建築と推定されるが、薩摩地方特有の武家屋敷の棟を直交させた「別棟型住宅」で、平成22年から3年掛けて約2億円の国費を投じて修復された。

「おもて」は、客間を兼ねた主人の居間で玄関や座敷が有り、長押や釘隠しや天井が張られている。又、床と棟は「なかえ」より一段高く造られ、更に縁側を配して庭につながり周辺の景観と一体化させている。「なかえ」は食事場所兼家族の住む部屋と、調理場として使った囲炉裏と土間から成り立つ。屋根は茅葺で雨樋は孟宗竹を利用して雨仕舞している。又便所と風呂場は別棟とする等、木材の長所短所を考慮し、日本の夏の高温多湿と言う気象条件に配慮した造りとなっている。

入來郷の屋敷割は、川の自然石を使った玉石積石垣と、その上に茶かイヌマキを植えた生垣で区画され、周囲の山々と一体となった美しい緑風借景は、見とれるほどの落ち着いた武家屋敷群である。外からは家屋が見えない様に工夫され、常に防備を優先していた構造である事が判る。

旧増田家住宅
旧増田家住宅

 

この様に地域に馴染んだ住宅と街並を見て歩くと、日本文化の伝承風景は保存するだけの価値の豊かさをシミジミと感じる。使うほどに味の出る木材の特徴を活かして作り出している、伝統色溢れる木造住宅と伝統的建造物群保存地区を皆さんも是非一度見学されて、脈々と受け継がれて来た日本人の木材を活かした住生活の知恵と、木造りだからこそ醸し出される景観を、これからの故郷の生活空間作りや街作りに活かしたいものだと考える。

 

和食文化が世界無形文化遺産に認められた昨今だけに、近年の日本人は少し新しがりに走り過ぎて、「在来木造住宅の伝統の素晴らしさ」を活かす事を忘れて来たとの反省が必要な時の様だ。美しい日本的景観や住環境を復活させるには、在来型木造の良さを見直す事から始めたら如何かと思う。その様な心配りこそが地方創生と木材需要拡大につながると提案したい。

 (西園)