M田部長のぶらり旅 with N野・本町商店街の原田印刷さん 「活版印刷と米粒」(その2)

 ここ肝付町本町には、間口が狭く奥行きの長い町屋づくりが残されています。原田印刷さんのお店もそのひとつ。店に入ると狭い通路の左側に、よく油拭きされ磨かれた印刷機、そして機械越しの壁一面に活字が並べて置いてあります。ほかのいくつかの機械もこの並びにそって置かれていますが、どれも少し暗いお店の中で鈍く輝いており、いつでもスタンバイできる状態に整備されているようです。 

 

 この印刷機械は昭和36年製。60年近くこの店の稼ぎ頭として働いていることになります。もうすぐ還暦ですね。この機械、当初は足踏み式の人力駆動で大変だったようですが、今は右側のモーターで時間2500枚まで印刷可能とのことです。試しに動かしてもらいました。カムと歯車だけで制御された機械は、サラッサラッと実に軽やかな、いい音で回ってくれました。原田さんにお聞きしたところでは、活版印刷機のうちこの機種で鹿児島県内に残っているのはこれともう1台の2台だけになってしまったのではないかとのことでした。

 

では、活版印刷の「活」字について。

 

 壁いっぱいの活字は、漢字やかななどの和文は1文字ごとに数個から十数個、数字は数十個ずつ並んでいます。文字の大きさは7段階。最小は1mm未満。原田さんいわく、「鉛で鋳造されている活字はとても柔らかくて、床に顔(文字面)から落とすとつぶれて使い物にならなくなる。だから大事に扱います。また、横(側面)に圧力が加わってへこむと他の面のどこかが膨らんで、盤面にきれいに並ばなくなる、そのときは尻叩きするとまっすぐに直るんですよ。」なんか大切な子どものことを話されているような口ぶりでした。

 

 活版印刷の手順の第一。「文選箱」という掌より少し大きい小箱に活字を拾う工程をちょっとだけ見せてもらいました。この箱に文書の段ごとの文字を左詰めで拾っていきます。本格的にやれば活字の壁を右へ左へ移動しながら、根気の要る地道な作業となることでしょう。 

 

 

 その後、手順第二にはいります。文選箱に拾った活字を植字板に並べて印字面を作っていく工程(ゲラ)。真鍮製の真っ平らな植字板の上に活字や薄い金属板を組み合わせながら置いていくのです。文字間隔が金属板で、厚さは0.1mmくらいから、倍々で厚みを増していきます。キーボードで調整していくのとは全く異なる職人技に驚くほかはありません。

活版印刷の工程はまだまだ先があるのですが今回はここまで。

 

 二つの工程を見せてもらって、あのミニチュアバードカービングを作る素を十分に理解することができたように思います。

 鳥と活字面という違いはありますが、対象物を真剣にとらえ、探求し、細かい作業をいとわずに具現化していく気持ちと技の結集力があればこそ可能になることなのでしょう。生半可ではとてもできないことのようです。感服致しました。ありがとうございました。

 

 ところで、「原田さん、こんな小さい字が眼鏡かけないで見えるんですか?」というM田の老眼鏡必須の愚問に、原田さんがにこにこしながら出してくれた答えが、これ。

 下の四角い箱の中に一つ見えているのは米粒です。曰く「米に名前とか文字を書くんですよ。眼鏡なしで。」いやはや・・・、凄いのひとこと。この次にはM田の氏名も書いてくれるそうです。

 

 パソコンとプリンターで安直に印刷ができてしまう今日、私たちの業務のなかでは活版印刷をお願いすることもほとんどなくなりましたが、原田印刷さんには、学校の通信簿封筒、名刺の印刷などの依頼があるそうです。アナログでしか出せない味のある職人技の印刷物。まずは名刺からお願いしたくなりました。

 

(次は夏の海か M田)