欧州における木によるエネルギー・サステナブル戦略の視察(5)

フォアアールベルクの木造建築

スイス、チューリッヒの近くエシュリコン村のホテルに3泊しました。

朝、ホテルをバスで出て、国境を越え、オーストリア・フォアアールベルク州で、1日木造建築を見ました。

スイスとの国境、オーストリア最西端の最も小さな州です。オーストリアでも有数の木造建築の盛んなところで、建築についての規制がオーストリアの中では比較的緩いとのことで、ユニークな建物が多いと言うことでした。

これまで写真で見た多くの建物を実際に見ることが出来ました。

 

◇ライフサイクルタワー

同州ドルンビルン市。2012年完成。8階建て。

このビルを建設した会社は、木造のビルをコスト、工期などでより有利に建設できるために、新しい工法を開発しました。

木材とコンクリートを併用した床版を開発するなど極めて優れた構法ができました。20階建てまで建設できる木造ビルの建設システムが完成、クレー社という「都市木造ビルを建設する新会社」を設立して事業展開、このビルの中に事務所があります。

それにしても、このような優れた技術が開発されるやすぐに建設が実現し、かつ新しいビジネスとしてこれを事業化できるというのは、建築については規制でがんじがらめ、しかもその規制を変更する(して戴く?)には、膨大なエネルギーを要する我が国では、とても考えられないことです。

我が国でも建築の研究者は非常に沢山おられて、日々様々な新しいアイデアを実用化したいと実験しておられます。規制を超えない範囲の小さな研究をするか、規制に関わるユニークな大きな研究はそもそも実用化をあきらめて、「実験のための実験」と自嘲しながら研究をしている研究者が多いのです。まことに勿体ない残念なことです。

8階建の木造ビル
8階建の木造ビル

エントランスホール
エントランスホール
展示スペース
展示スペース
集成材とRCを組み合わせた梁
集成材とRCを組み合わせた梁

集成材とRCを組み合わせた床パネル
集成材とRCを組み合わせた床パネル

 

◇ルーディッシュ市民センター

先述のライフサイクルタワーと同じ建築家ヘルマン・カウフマン氏の設計による木造庁舎。2005年完成。地上2階、地下1階建て。

 

ルーデッシュ市の市庁舎敷地内に、日本で言う「木材協会」といった小さなオフィスがありました。そこの事務局の人が網野教授と顔見知りのようでした。デ・ニーロを三枚目にしたような顔をくしゃくしゃにして喜んで、酒瓶を取り出してみんなに振る舞うというので、遠慮無くご馳走になりました。度の強い、シュナプスという焼酎で、一気に飲まないとむせます。珍しい歓待でした。

建物に囲まれた部分は広場になっている
建物に囲まれた部分は広場になっている
木材は原則無塗装
木材は原則無塗装
エントランスホール。吹き抜けになっている。
エントランスホール。吹き抜けになっている。
広場の屋根には太陽光パネル
広場の屋根には太陽光パネル
壁のカットサンプル。内側の断熱材は羊毛
壁のカットサンプル。内側の断熱材は羊毛

駐輪場
駐輪場
バス停
バス停

 

美しい村に木造の庁舎が建つ

一つの渓谷に小さな村があり、いずれも村の人口は例えば300人とかの小さな集落です。これらの村にちゃんと住民がそこそこに豊かな暮らしを営んでいて、私達の訪問に元気そうな子供達が集まってきました。

「庁舎」と言っても、執務室は村長1人に、秘書1人というような規模で、庁舎の中に保育園あり、診療所有り、銀行有り、マーケット有りという複合施設です。それらの施設も常時開いているわけではなく、マーケットも、私達が行ったときは閉店時間でした。商品を見たら、結構欲しいものもあったのですが。

案内してくれた村長さんたちが、村の永続的な発展を願い、様々な試みをしていることを熱心に話してくれました。そして自分たちが作った庁舎への熱意、愛情、誇りについても雄弁に語ってくれました。

どの建物でも「エネルギー」については徹底した省エネを貫いています。

寒い地方ですが、暖房のために、化石燃料や電気使用はゼロを貫いています。

我が国の常識では信じられないほどの断熱材を使用する事と、チップボイラーを使って村内の資源でエネルギーを得ていることに誇りを持っておられました。

 

◇ザンクト・ゲロール村 庁舎

庁舎内の保育園
庁舎内の保育園
売店も
売店も

周囲の美しい景色
周囲の美しい景色

 

◇ブロンス村 庁舎 

エントランス
エントランス
庁舎内の小学校
庁舎内の小学校
集まってきた子供たち
集まってきた子供たち

 

◇ラッガル村 庁舎

村のオーケストラの部屋
村のオーケストラの部屋

代表取締役 佐々木幸久