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★【大学研究室だより】 南京林業大学(その3)・小松幸平先生より

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ご無沙汰いたしております。

 先々週の12月2日~12月5日まで、浙江省寧波市(Ningbo)で開催された「木造建築物文化遺産保存及び利用に関する国際シンポジュウム」に参加していました。寧波市は中国高速鉄道の南京南駅を出発し途中、蘇州、杭州、そしてお酒でお馴染みの紹興を経て、合計2時間半ぐらいで到着する海に近い大きな都市です。 

 シンポジュウムはこの都市のはずれに位置する中国第1級歴史的風景保存地区内の保国寺(Baoguo Temple)という有名な古寺の内部で行われました。平地から大分昇った所にあるお寺の建物の中でのシンポジュウムでしたので、とても寒く、持参したユニクロの羽毛コートの暖かさが身にしみました。

 参加者は、中国、台湾、日本、アメリカ、ドイツ、スペイン、その他からで、主催者である保国寺博物館の関係者も含めて4~50名のこじんまりした国際シンポジュウムでした(写真1)。

【写真1】シンポジュウム参加者全員の集合写真
【写真1】シンポジュウム参加者全員の集合写真

 中国からの研究者は殆どが建築史や伝統工芸の専門家で、その分野の詳しい研究を中国語で発表し、外国人は同時通訳の英語を聴くというシステムでした。同時通訳のレベルはかなり高く、難しい内容の中国伝統木造の話でしたが、大半の内容を何とか把握することができました(写真2)。

 欧米からの参加者の中には、私の大好きな19世紀の木橋の話を発表したベテランの研究者もいて、非常に為になる話を聞くことができました。言うまでもなく、その人とは直ぐに懇意になりました。

【写真2】  保国寺内部でのシンポジュウムの様子
【写真2】 保国寺内部でのシンポジュウムの様子

 私の発表は2部構成で、前半に日本の伝統木造寺院建築の概要(飛鳥様式、和様、大仏様、禅宗様などのさわり)を、後半に現在南京林業大学における修士課程院生の研究テーマでもある「伝統木造建築の各部構造の地震抵抗メカニズム」について、ティンバーエンジニアリングの立場から発表しました。同時通訳の人達のレベルが高かったので、中国からの参加者にも理解して貰えたように感じました。

 発表が終わると今まで未知だった人の持ち味が少し分かってきますので、その後は急に親しくなるものです。翌日行われた寧波市内の歴史的建造物の見学ツアーでは、参加者皆が和気あいあい市内見学を楽しみ、別れ際には「また会いましょう」と言って、次の目的地へ向かいました。

 

 12月5日の午後から、南京林業大学の闕先生と別れ、院生2人と私は寧波駅から中国高速鉄道で崑山南駅(Kunshan-South)に向かい、そこからタクシーに乗って、とっぷり日の暮れた甪直(Luzhi)という特別歴史的風景保護区に向かいました。タクシーの運転手さんは気さくな人で、同行の2人の女子学生と楽しそうに会話をしていました。距離は23kmで料金は60元(約900円)でした。

 ところで、Luzhiの漢字ですが、「用」という漢字の左上に点「’」が付く珍しい漢字です。日本のPCの漢字変換機能ではどうしても見付からないので、今の所、中国のネットでLuzhiと入力して見付かる中国語の漢字をそのままコピペして使っています。

【写真3】  古き良き江南の水郷の風情を残す甪直
【写真3】 古き良き江南の水郷の風情を残す甪直
【写真4】  水郷の町甪直
【写真4】 水郷の町甪直

 

 甪直の町は網目状の水路の両岸に沿って立ち並ぶ歴史的建造物群で成り立っており、所謂「古き良き江南の水郷地帯」の典型的な風情を残しているということです。この町の一角に、大学院生の李さんが修士課程の研究テーマとしている保圣寺(日本の漢字:保聖寺、英語:Baosheng Temple)があります。このお寺に現存する天王殿(Tianwang Hall)に使われている組み物が彼女の研究テーマです。

   

 怪しい老人と2人の若い女性がレーザー式距離測定器や巻き尺等を使って構造各部を「ああでもないこうでもない」と調べているのを不審に思った管理人がやって来て、院生に問いただした結果(どうやら監視カメラで観察していたらしい)、怪しい物ではないということが分かり、逆にお寺の境内にある博物館の資料室に案内してもらい、普段は門外不出と思われる貴重な資料を紹介して貰うという幸運にも巡り会うことができました。

 

【写真5】  甪直保聖寺天王殿全景
【写真5】 甪直保聖寺天王殿全景
【写真6】  研究テーマである甪直保聖寺天王殿の組み物
【写真6】 研究テーマである甪直保聖寺天王殿の組み物

 

 甪直の町では、ユースホステルに泊まりましたが、外国人向けに英語の表記もあり、シャワーやトイレも快適で好印象の宿でした。朝食は近所の伝統的食堂で人気のある「爆魚麺」というメニューの唐揚げ魚をトッピングした中国麺を賞味しました。日本の「にしん蕎麦」に近い雰囲気で、大いに気に入り、昼食も同じメニューにしました。

【写真7】 甪直で泊まったユースホステル
【写真7】 甪直で泊まったユースホステル
【写真8】  甪直名物?爆魚麺
【写真8】 甪直名物?爆魚麺

 

 南京に戻って数日後、大学1階にある既存の実験室内に急遽設置した仮設の試験フレームを使って、先に甪直で調査した保聖寺天王殿の組み物の実大静的加力実験を行いました。というのも、予定していた大型の試験装置(前々回にちょっと触れた試験装置)の設置場所が確定せず、修士卒業まで時間的余裕がないので、急遽、組み物の実験だけは既製の鋼製フレームを再利用して行うことにしたためです。

【写真9】 実験室内に急遽仮設した試験フレームを使っての組み物に対する水平加力実験。

緑色のジャッキで屋根荷重に相当する鉛直荷重(固定荷重)を作用させ、地震力に相当する水平荷重はオレンジ色の複動式手動オイルジャッキで作用させる。鋼製フレームは実験室の床に先端拡張型アンカーボルトで固定。計測装置は日本のTDS530を使用。

 

 まず、あまり断面の大きくない鋼製フレームそのものが荷重に耐えることができるかどうかを慎重にFEM解析で事前計算し、それから組み物の挙動を予測する力学モデルを構築し、どのくらいの荷重で試験体が破壊するかを推定した上で、実験に取りかかりました。

 組み物試験体は2体制作されました。一体はカナダ産ラミナを使ったヘムロック集成材で(集成材の製造は、蘇州に本社がある「クラウン」という中国No.1の木造建築・集成材製造会社)、もう一体は中国産のチャイナファー(中国スギ)の製材で造ったものです。

 現在、屋根荷重に相当する鉛直荷重の影響を見るため、鉛直荷重のレベルを3段階に変えながら、最大±1/100ラジアンまで水平繰り返し加力する実験を継続中で、数日後には、最大設計鉛直荷重(2.4tonf)を載荷した状態で、破壊するまで水平加力実験を行う予定です。

(小松)


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「集成材」〈木を超えた木〉開発の建築史

 

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